第38話 衝撃
「ええと、その他は外装が汚れているのでちょっと掃除が必要ですね。あと船底塗装は必要です。」
「この船は燃費はどれくらいなんですか?」
「ええと、Yさん、燃料はどれくらい使いますか?」
「あんまり燃料は使わないよって聞いてますけど…」
「ええと。ディーゼル船はものすごく燃費がいいんです。そうですねえ。この船だと大体、丸一日乗り回して15リットル~20リットルぐらいじゃないでしょうかね?」
「ディーゼルだから軽油ですよね?」
「そうです。」
この船だったら一日3000円ぐらいしかつかわないじゃないか。これなら私でも楽に維持できそうだ。もう一つ私は思い付きで聞いてみた。
「あの。できるかどうかわかりませんが、ここに1ヶ月ほど置かせていただいて塗装したり修繕したりってさせてもらうことはできるんでしょうか?」
「あ、大丈夫だと思いますよ。年間契約でに二か月ほど前に1年分停泊代を払ったばかりですから。」
自分で船底塗装などをやればその分修理代をうかせられるじゃないか。しかもここからなら芦屋まで自走できるから陸送料もかからない。なおさらいいじゃないの。
「ええと、では試乗してみますか?」
「はい。お願いします。」
「あの。僕はいいです。乗らなくても。」
「え?Yさん、一緒にのっていろいろ教えてくださいよ。」
「実はこの船、私のお客さんから買ったばっかりで教えられることは何もないんですよ。」
「え?」
「私の車のお客さんが新しい船を買うんで安くするので買ってくれと言われましてね。買った値段で絶対に売れるからというんですよ。自分で使うとしても維持費も安いし釣りにはもってこいだと。で、買ったんですがね。ですからこの船に一度も乗ったことがないんですよ。」
「えええっ。一度も乗らずに買ったんですか?」
「ええ。まあ、そのお客さんの言うことだったら嘘はないだろうしいいかなと。だから教えられることがなにもないんです。船の免許もありませんでしたから。免許もこれから取りに行かないといけないししばらく乗ることはないので売ろうかなと、まあそんなところです。」
私は目を見開いて黙り込んだ。Yさんがお客さんからいくらで購入したかわからないがいくら商売上のお客さんの言うことだとしても試乗もせずに高価な物を買うことが私にできるだろうか。私のお客様でそこまで信用できる人はほんの一人か二人であろう。
「買った。買います。この船。」
私は反射的に言った。
「ええと。…はい?え?は?」
「買います。もう決めました。この船にします。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます