第32話 急げ!!
「は?タダで、ですか?」
「はあ。もういらんからタダであげるって。」
なんということだろうか。たった一回考えさせてくれと言っただけで5万円も値段が下がってしまった。 試しにもう一回考えさせてくれと言ったら「5万円あげるから持って行ってもらえないか。」となるのではないか。いや、まあ、そんなことはあるまいが要はあの船はおっちゃんにとってやはり不要の物であるらしい。
「いえ。タダ、というのは気がひけますのでそれはお断りさせてください。」
「そうですか?」
「どちらにしてもこれから会議ですので一両日返事は待っていただけないでしょうか?よろしくお願いいたします。」
「わかりました。」
私は息を吸い込みながら電話を切った。
もちろんこれから会議の予定などない。
さて困った。私はさっき吸った息を大きく吐き出した。一両日と言ったがまあ二三日は待ってもらえるだろう。とにかく私に残された時間はいよいよ短くなったわけだ。電話を助手席にほうり投げ先ほど約束した中古船の販売会社へ急ぐ。
電話を掛けた会社に到着すると電話で対応してくれた女性の方がにこやかに出迎えてくれた。名刺交換をして私が書き留めていたメモを見せる。営業のM原さんは真剣なまなざしで私のメモを読んで
「ご希望はわかりました。いろいろ細かい話を伺う前にとりあえず当社の在庫を見ていただきましょうか?」
「はい、それがいいですね。私、なんせわからないことばかりで。」
「そうでしょう。」
「今、何艇ほど在庫があるんですか?」
「そうですねえ。30艇ぐらいでしょうか。ここに置いてあるのは比較的大きな船ばかりです。見てみますか?」
「もちろんお願いいたします。」
外に出て在庫の船を見せてもらう。ヤードに置いてある船はどれも30フィートから40フィート近くある大きな船ばかりだ。私はまずその大きさに圧倒された。こんな大きな船絶対に操縦できんわ。価格も350万から1000万。かなりお高い。しかしながら物の価値は値段相応、という言葉あるがどの船も立派である。こんな船が所有出来たらいいなあ。どの船もきらきらと輝いて見える。
「あの。すみません。ここにある船はどれも予算オーバーです。」
「そうですか。では、ちょっと遠いですけどもう一つのヤードに行きましょうか。私の車の後に着いてきてもらっていいですか?ええと…15分ぐらいかかります。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
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