第30話 悲しみよこんにちは
「あのう。私、船を操縦したこともなければ経験も全くないんです。普通、船釣りに行くときは魚探とか付けるんじゃないんですかね?この船の場合はどこに?」
「…う。う。」
「え?」
友人が口をはさむ。
「魚探が付けたいならステンのアームかなんかをつけてその先に付ければ大丈夫ですよ。」
「はあ。」
私はうろたえた。その場で判断する域をすでにこえている。
「どうします?いりますか?」
友人は畳みかけるように問う。
「い、いや、ちょっと、あの。ちょっとだけ考えさせてください。」
私はそう答えるのが精一杯であった。いるのか。いらないのか?その答えを今ここで出すにはあまりにも辛い状況である。第一、この船でいったいどれぐらいの天候まで出港できるのだろうか。皆目見当もつかない。私は念のために彼らにさらにいくつか質問してみた。
「あの。この真ん中の腐っているところを修理するのにどのくらいお金がかかるんでしょうか?」
「…う。う。わからんねえ。」
「わからない?…ええと。じゃあ、この船だったらいったいどれくらいまでの波だったら出港できるんですか?」
「…う。凪の時にしかでれんじゃろうなあ。」
「あの。このエンジンはあとどれぐらい持つんでしょうか?」
「…うう。わからんねえ。大体、今日かかったのが奇跡じゃ。わははは。」
私は慄然とした。これでは5万円で巨大なゴミを買うようなものだ。一方、二人はエンジンのかかった和船に乗り込んで「エンジンがかかった。かかった。」と無邪気に大喜びしている。いかんいかん。とりあえずこの場は逃げた方が良い。そう考えた私は
「すみません。今日はありがとうございました。これから仕事の打ち合わせがあるので一両日検討させてください。」
と頭を下げ港をでた。あの二人にはまったく悪気はない。それは間違いなく言える。しかし、一つ勉強になった。5万10万程度で船を買おうとするとああいうタマにいきつくのか。
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