第13話 船が見つからない
毎日の仕事をおろそかにすることはできない。福岡だけではなく東京にも時折行かなければいけないし、つまり、そうそうマリーナ巡りをするわけにもいかないのだ。インターネットの中古船サイトは見飽きるほど見ているのだが「これぞ!!」という船がない。そんな時にふと思いついたことがあった。そうだ。自分がどんな船が欲しいのかが明確ではないから欲しい船に出会えないのではないか?そうだ。そうだ。きっとそうだ。
早速ノートを引っ張り出してきて自分が欲しい船を箇条書きにしてみる。
1.長さは7m以内(係留所の条件)
2.馬力はわからない。
3.釣りがしたい。釣りがしやすい船。
4.できればトイレ付。
5.エンジンがメンテしやすく長持ちする船。
6.できればシャフト船は除きたい。
7.GPS魚探がほしい。
なるほど。こういうことか。馬力がよくわからない。船にとってエンジンの馬力というのはどういう相関関係があるのだろう。早速知り合いに聞いてみると
「だいたいの場合、その船を作ったメーカーの推奨馬力というのがあって、そうだねえ。例えばこの間見た23ftの船だと60馬力ってことになってるね。」
「それ以上のエンジンを付けたらどうなるんですか?」
「やったことないけど、たぶん、船尾が重くなって後ろが沈みやすい上に馬力が上がるとよけいにスターンが沈むからスピードが上がることはあんまりないと思うよ。」
「なるほどねえ。」
必要以上の馬力のエンジンが付いている船を選択からはずそう。エンジンがメンテしやすいというのはどういうことかがよくわからないが、長持ちという点ではヤンマーのディーゼル船がぴか一という意見が根強い。次に有力なのはヤマハかスズキのフォースト船外機。この3つに的を絞る。GPS魚探。これは釣りには必須であろう。もちろん船を買ってから購入しても良いのだが新品だと20万程度するので、もし、新しい魚探が付いているのであればありがたい。
最後に残った条件がやはりトイレだった。一体私はうんこにどれほどなやまされればよいのだろう。これが業というものなのであろうか。家に帰って家内に相談した。
「ねえ、ママ、船にトイレっているんやろうか?」
「なんで?」
「ほら、ママが船に乗ったときとか…」
「私、のらんよ。いやよ。」
「え?」
「私およげんけ、のらんよ。」
「…じゃ、じゃあ。ほら、友達が乗ったときとか。」
「あんた、そんな友達おるん?」
「おるくさ。」
「まあ、おるやろうけど、だいたいあんた一人で行動するのが好きやんか。」
「うん。まあ。」
「基本一人ならいらんやろ。海ですればいいやん。」
「いや、ほら、女の子が乗ったり」
「は?女の子?だれよそれ。」
『はっはっはっは』
「あーちゃん、パパおかしいねー。ばかやねー。」
『ねー。あーちゃん。』
「ほら。あーちゃんもばかっち。」
「いや、あの、あ、ほら、娘がのったり姪がのったり。」
「のらんちゃ。」
「え?」
「のらん、のらん。」
この人はいつも手厳しい。
「で、どうなん?トイレはいらんかね。」
「いらんちいいよるやんか。」
「そうねえ。やっぱりいらんよねえ。」
「いらんね。」
「それにしても、ママはすごいねえ。係留権あてるんやもんなあ。まあ、昔からあんたはクジ運がいいもんね。」
「まあね。今のところ亭主以外は全部あたっとうね。」
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