第14話 試験
そうこうしているうちに海上訓練の日が訪れた。心臓ばくばくである。私、この時まで知らなかったのだが実は船は免許がなくても運転をすることができる区域がある。湾内や航路以外は危険回避などさまざまな要因がある場合、キャプテンの指示に従い他の人が運転を変わることができる。もちろん、安全確認はより慎重にしなければならない。
ポイントは、安全確認をきちんと口に出して言うこと。変針するときは「右前方、右後方」をそれぞれ確認し「右に変針します。右前方良し。右後方良し。変針完了。」停船するときは後方を確認し「後方良し。停船しました。」エンジン始動や船を動かし始める時はクラッチの中立、左右前後の確認、プロペラ廻りの確認をきちんと行うこと。
とにかく、恥ずかしがらずに声を出して相手に伝える。これがとても大切だ。一人で乗っている時もこの癖をつけておけば事故はぐっとへるだろう。なにしろ海上には信号機も道路も何もないのである。常に自分の船が避行船であるというぐらいの認識が大切だ。他人の船に不用意に近づかない。ブイや浮標をよく確認する。
それぞれの実技試験はそれぞれの科目が行われるが1回目は失敗しても2回目まで許される。よく、実技試験のポイントはこの「安全確認」と「人命救助」だといわれている。ところが、私の同乗者は人命救助を二回とも失敗してしまった。彼もあちゃーとおもったようだが合格していた。どうやら免許の実技試験は「安全確認」が最重要項目であとは一生懸命すれば何とかなるようであった。試験後の自己採点では余裕の合格。
これで一つだけ問題が解決した。家に帰り家内に報告。
「ままー。」
「おかえり。試験どうやった?」
「んー。たぶん、自己採点では余裕で通ってるね。」
「…ちっ。」
「あんた、今、舌打ちしたろ?」
「したよ。はがいいけ。」
「あんたねえ。どうして亭主が一生懸命やってることに一々茶々を入れるんよ。」
「なんが一生懸命ね。なんでもかんでも思い付きで行動して、その度に目の前の穴を埋めるのに必死なだけやんか。」
「…」
「すかんねー。あーちゃん。パパがすかんひと!」
『はーい。』
「おりこうやねー。ほら。あーちゃんもすかんっち。」
『ねー。あーちゃん。』
「おまえらー。」
このようにして試験の日は暮れていったのであった。しかし船はまだみつからない。しかも明後日からアメリカに渡らなければならない。私はあせりを禁じえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます