第11話 私とボートと旅行とうんこ
人間はみなうんこをする。それはわかっているが人前で堂々とうんこができる人はそうはいないだろう。では、船にトイレがない場合どこでうんこをしたらよいのか。これは我々人類が直面した最大の問題であろう。
私は旅が好きでこれまで50年の人生、ありとあらゆる場所を旅してきた。私よりたくさんの場所を訪れた人もたくさんいるだろうと思う。しかし、私はひそかに自慢したいことがある。私は旅行したいろいろな場所、しかも、気になる場所でうんこをすることを自らに課している。コロッセオ。オルセー美術館。ルーブル美術館。ノートルダム寺院。オペラ座、ナショナルギャラリー。枚挙にいとまがない。ダイヤモンドヘッドでバックツーネイチャーうんこをしたこともある。わたしは、旅うんこのスペシャリストを自認している。
通常の人間であれば出先でトイレの心配をできるかぎりしたくない。だから宿泊先のホテルなどですましてから出発するのが鉄則である。私はその鉄則を打破し、あえて訪問先でいたすことにより旅の濃度を上げる方法を思いつき実行してきた。私ほどさまざまな場所でうんこをしたことがある人間は世界広しといえどもそうはいまい。それだけは胸を張って言えるのである。
ウソンルトイレット シルビプレ。うん。まだ覚えている。外国語は苦手だが私はこの旅うんこのためにトイレ関係のさまざまな外国語だけを集中して覚えた。今でも10か国語以上はトイレの心配がない。しかもトイレを案内してくれる外国語はなんとなくわかる。天才だね。
いろいろなところでうんこをする生活に慣れてしまった私の体は、朝一度、うんこをした後でも気になった場所に到着するとうんこをしたくなる特殊体質になってしまった。便秘にも下痢にもなったことはないが、要所要所でうんこがしたくなるこの体質はボート生活にどのように影響するのかいまだ未知数なのだ。釣りのポイントにつくたびにうんこがしたくなるのではないか。私は女性のことより実は私のこの性癖のほうがよほど心配だ。しかしながらトイレ付きのボートは予算的に手が届きそうにない。
「250万か。なかなか手ごわいぞ。」
わたしは独り言ちで車のエンジンをかけた。
船を購入するのはなかなかに手ごわい。しらないことが多すぎる。しかも、そのしらないことを指南してくれる人も本もない。ひとつづつ体験して乗り越えるしか方法がないらしい。なんでもかんでもネットで検索して解決できる世の中である。しかしながら私はいまだにこういう世界が残っていることに感動した。ググっても「船にトイレは必要か」という回答は乗っていないようなのである。
私は呆然としながらマリーナを後にした。遠ざかっていく潮風を感じながらこの方法を繰り返してもいったい希望の船に出会えるのかどうかという不安ばかり胸によぎる。しかも時間はあと1ヶ月しか残っていないのだ。
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