第3話 結果発表

 足場の上から見渡すと、ああ、あれは野ばらだろうか。その下には野イチゴの白い花が今を盛りと咲き誇っていて強い香りがここまで届いているのかとも思えるほどだ。遠くに見えるのはあれは宝満山だろうか。今日はうっすらともやがかかっていて、山肌はすでに色を失って暗く中腹にひとつふたつ灯りがともり始めていた。その背景にはしぼりたてのオレンジを刷毛でひとはきしたようななんともいえない淡い色の雲がたなびいている。


 私はズボンのポケットに手を差し込み携帯電話を取り出して電源を入れた。家内からメールだ。私は目線をちょっとだけ上げてから意を決しメールを開いた。


「当選した。」


 へ?まじ?うそーん。


 慌てて家内に電話をかける。


「えみちゃん、ホント?当たったん?」

「うん。なんか、わたしなんもしてないんやけど当たった。」

「ええっ?どういうこと?」


 家内の話を要約するとこういうことであった。


 抽選会場に予定時間の10分ほど前に到着するとそこには役場の人と小太りのおじさんが一人。椅子は全部で4つ。どうやら後で聞くと辞退者が相次ぎ最終的な申し込みはわずか4人だったそうだ。しかし、予定時間が過ぎても家内と小太りさん以外の人が来ない。役場の人が残りの人に電話をかけ始めた。しばらくして会場に役場の人が戻ってきて言うには「残りの二人は少し遅れていて後10分程度かかる」と言っているらしい。


「さて、どうしましょうか?少し待ちますか?」


 すると小太りさんが怒り始めた。


「いや、こっちはちゃんと時間を守ってきとるっちゃけん、もう始めてください。遅れた方が悪いでしょうもん。」

「はあ。ではケイさんはどうですか?」

「あの。私は、あの…どうでもいいです。(やる気なし)」

「はようはじめちゃらんですか。」


「そうですね。規定にも遅刻は厳禁とありますし、じゃ、二人で始めましょう。では、まず、くじを引く順番を決めます。箱の中に1番と2番の番号を書いたのふたつのボールがはいっています。まず、そのボールをひいていただきます。出たボールの順番通りに本抽選の箱からくじを引いていただくことになります。本抽選の箱はこちらになります。まず、中身を確認ください。現在は空っぽですね。ここに、当たりと書いてあるボールと何も書いていないボールを入れます。」


 役場の人が本抽選の箱にボールを入れ蓋をする。そして慎重に箱を振り回した。


 まずは順番を決める抽選。家内はやる気ゼロ。小太りさんが先にくじを引いたら1番だった。つまり家内は2番ということになる。


「それでは本抽選を開始します。1番くじを引かれたかた。どうぞおひきください。」

「よっしゃ。」


 小太りさんは箱に手を突っ込みしばらく逡巡した様子で箱の中でもぞもぞと手を動かしている。数秒後、祈りを捧げるかのように目をつぶりおもむろに一つのボールを箱から取り出し、ながめ、そしてこう呟いた。


「…はずれた。」


 この瞬間。家内の当選が決定したのであるが、家内はほんとうに座っていただけで何もやっていないらしい。これが本当のタナボタというものであろう。


「なんかね。そんな感じでね。当たった。」

「すげえええええええええ。」

「なんがすごいもんかね。なんもしとらんのに。」

「いやあ、すごいよ。さすがえみちゃん。なんかあんたは昔から持ってるものがあるなあ。」

「あ、パパ。役場の人がよびよるけ電話切るね。」

「うん。よろしくね。後でまた電話するよ。ありがとう。」


 私は電話を切りまた遠くに目を移した。風が少し出てきたようですっかりもやは消え去り先刻よりも幾分山の色は濃く暗くなり灯りの数も増えている。その姿ははまるでこれから訪れる星空を思わせるかのようであった。

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