第4話 洞海湾の風
その日は結局当たったことがうれしくて気もそぞろ。仕事を早々に切り上げて家に帰ることにした。家内が気になるというのもあったし、いろいろ書類などももらってきているはずだ。現場から家までは約2時間の道のりとなる。私は愛車のハイエース君を走らせた。
私の家は石峰の山の中腹にあり、家にたどり着いたら遠くに洞海湾が見える。先ほどから吹き始めた風が強くなっており工場の煙突から出る煙が大きくたなびいている。
話は変わるが、我が家ではインコを5羽飼っている。セキセイインコとオカメインコとボタンインコ。そして一番大きなのがソロモンオウムといい名前は「あわゆき」という。体長は30cm程度。臆病な性格だが人になれてとてもかわいい。特に家内にはべたなれで放鳥の間は家内の周りにまとわりついて離れない。
よくオウム返しという言葉を聞く。人が言った言葉をまねて同じように繰り返す様を言うが、実際のオウムはもっと賢い。あわゆき君は家内の問いかけに返事をするし、人の話をよく聞いていて「うん、うん」と相槌を打ったり「はい」と返事をしたりもするのだ。またにわかには信じられないかもしれないが人の話や漫才を聞いていると人間が笑うタイミングで「はっはっは」と笑ったりもする。その姿を見て我々も再度笑ったりする。我が家にとってインコは子供のようなものである。
家の前に立つと中からインコが鳴く声が聞こえる。あわゆき君の声もする。私は勢いよく玄関を開けた。
「ただいまー。」
あれ?おかしいな。家内がでてこない。
「えみちゃーん。今日はありが…」
リビングに入ると家内が背中で怒っていた。
「えみちゃん。えみちゃん?どうしたと?今日はありがとう。」
「あんたね。わたしに嘘ついとったろう?」
「え?」
「これ、役場からもらってきた書類。あのあとね。役場の人と漁協の人と係留所に行ったんよ。そしたらね。徳永さんは現在船をお持ちでないようですから3か月以内に船を購入して登録してくださいっち言われた。どういうこと?」
「えええええええっ!そんなこと言われても僕も知らんよ。」
「あんた。当たったら係留場所だけキープしとこうって言いよったよね。」
「うん、言ったよ。」
「それ、だめっち。できんっち。」
「えええええっ。」
あまりの家内の剣幕にあわゆき君が心配そうな顔をして家内の肩に乗った。
「ねえ。あわちゃん。パパすかんねえ。うそつきやねー。」
『ねー。』
「ほら。あわちゃんもパパはうそつきっち。」
「いや、『ねー』っちいうただけやんか。」
「とにかく!!それにね。なんか、係留所は止めるのがむずかしいっち。なんかね。アンコー?っちいうのをせないけんち。自分で。」
『うん。うん。ねー』
「アンコー?なんねそれ?鍋に入れるやつね?」
「私はしらん。なんかアンコーとかなんとかいいよった。あんた馬鹿やけアンポンでもいいよ。」
『はははははっ』
「おかしいねえ。あーちゃん。パパ、アンポンやねー」
「なんやそれ。」
どうやら家内はあまりのことにあきれて怒り、しかも、相手のつかう用語もわからず、否定的な言葉と内容だけを頭にしかっり残して帰ってきたようだ。外では風が強まり窓をがたがたと揺らし始めていた。
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