第7話 クオリティ
「ふさわしくない……。」
そう感じた。
スマホの条件一覧を見て、多分今傍から見たら目が死んでるんだろうなと思った。
なおくんに本当のことを告げてから1夜。あの後普通に帰っていったけど、どう思ってるのかを聞きそびれた。
メッセのやり取りもしてないし、いつもしてるおはようの挨拶が来ない。
私からしてもいいけれど、出社が早いから、とか下らない言い訳でするのをおざなりにしてしまった。
「加奈子、もう行くの?」
朝5時、母が目を覚まし、私の異変に気がつく。
「う、うん……。」
クビにした同僚の分の仕事がこっちに全て回ってきており、早く出社しないと残業になるのも嫌だった。
クビにしたことは母に話していない。
「加奈子、無理しないように。」
そう言い残して洗面所に消えていく。
「え……。」
無理なんて、してないけど。
だって、クビにしたのは私で、なおくんに嘘をついたのは私で。全部私が悪くて、自業自得。
「まだ、ふさわしくなんて……。」
前になおくんはアルバイト先の人が誰かの陰口を言っているのが許せないと言っていた。人間としてどうかと思う、と。
正直正社員になったら自分のこと誰か悪く言ってるなんて当たり前だし、むしろ使えないと影で言われた挙句、友達に首を切られることだってある。
私みたいに、残虐な奴がいる。
だからって、なおくんはどこまでも綺麗で、私では欠ける。それなのに、どうして付き合っていてくれるんだろうか……。
疲れが溜まって、5時出の体に覆い被さる。
眠い目を擦って車に乗り、エンジンをかける。いつもは聞きたいと思う音楽がノイズに聞こえてスピーカーを下げる。
会社の鍵で門を静かにあけ、タイムカードを切らずにパソコンの電源をつける。
「え、こんな大きなプロジェクトやってたの……。」
引き継ぎも途中のままいなくなってしまった友達のプロジェクトに頭を抱える。
"加奈子!今、ちょっと忙しいけど、これ終わったらまた飲みに行こうよ!"
てっきり、前そう言われた時、いつもこの会社は忙しいからキリがついたらとかそういうことかと思っていた。
忙しいけどって、このプロジェクトのことだったのか……。
何も知らなかった自分を恥ずかしく感じる。
本当にクビにしないと行けなかったのかな……。
昨日、このプロジェクトを受けた時、これが成功すればチーフの中でも更に上の方に行けると聞いた。
上司は、加奈ちゃん、頼むで!って言っていたが嫌悪感が否めない。
友達のクビを代償に、自分が偉くなる……。
なおくんが知ったらなんて言うかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます