第5話 秘密

なおくんへ

お手紙を書くのは初めてだね。

筆まめな私は絶対親しくなった人には手紙を渡すって決めてるんだ、要らないかも知れないけれど取っておいてよ。

婚約の話、嬉しかったよ。徐々に進めていこうね。式場の相場とかまだ全然分からないことも多いし、私そういえばなおくんのお父さんに会ったことないよ、正式にご挨拶も行かなきゃね〜。これからもっと大変になるんだろうなって感じる。

1個嬉しい報告があって!チーフになることが決まったんだ!私の会社は結構大手だけど、今業績が傾いてるらしくて、クビになる社員も最近多い。そんな中で私がチーフで大丈夫かなって、思うし、ちゃんと結果残さないとクビになるかもしれないからさ、支え合いながら頑張りたいな。

なおくんも早く正社員になれるといいね!なおくんは優しいし、いいところにすぐ決まると思う、焦らずに私に出来ることがあればサポートはしたいな!

2人で一緒にいるためならどんなことでも頑張りたいなって思ってる、これからもよろしくね。

加奈子


貰った当時は、あ、加奈子も色々やってるんだな〜、俺も一緒にいたいよ。とか、そんな薄っぺらい感想しか抱かなかったのに、今改めて見るとこの手紙に強い意志を感じる。

加奈子の会社って、そんなにやばかったっけ。会社名を聞けば誰でも知っているような会社名だが、そんななかチーフになれたなら、と、楽観的にしか考えていなかった。


でも、何をそんなに頑張ろうとしてるの?

単に、仕事なのか。お母さんの体調も悪そうだからそのことも兼ねてなのか。

深く考えすぎかもしれないが、引っかかる。


「どんなことでも一緒にいるためなら」

耐え忍んできたのはこのこと?3年間、ずっと努力してきた加奈子に対して浮気を疑うのは野暮だし、そんなことにしか目を向けられない僕に怒っているのだろうか。


すると、加奈子のお母さんから急に通話がくる。

「あ、もしもし、なおきです。こんばんは。」

「直樹くん?こんばんは……。加奈子とさっき揉めてたんじゃない?」

「ご、ごめんなさい。話し合いをしようと思ったのですが、なんだか加奈子さんの気に触ったようで怒らせてしまいまして……。」

「気にしなくていいわよ……。加奈子、最近変なのよ。」

「おっお母さんもそう思われますか!」

「ええ、なんかコソコソ出かけるようになったというか……。」

「そう!そうなんですよ!」

「私も詳しく聞いてないのよ。私服で出かけるのに、仕事って言い張るのよ?」

仕事……?

「お母さんには教えないって。」

「お母さんにさえもですか!?」

正直驚いた。そこまで秘密にしたいことなのだろうか?

「でも、ひとつ言えるのは、あの子チーフになったとはいえ、環境がまだ安定しないのもあって、ちょっと気がたってるのよ。直樹くんのことはちゃんと好きだと思うから、ちょっと辛抱してあげて欲しいの……。」

思いの丈が強く伝わり、夜も遅いから電話を切ろうということになった。


仕事……?

浮気だったら仕事なんて言うだろうか。親にまで真剣な顔で、仕事と嘘をつく必要があるだろうか……?

加奈子のことは考えれば考えるほど益々訳が分からなくなり、今日のところは布団に入って眠ることにした。

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