第4話 4つの

ー2月ー

「いらっしゃいませ、お客様、何かお探しですか?」

「へっあ……、か、彼女への婚約指輪を……でも、まだ、買うとかそんなというか……。」

人見知りを盛大に発動してオドオドする。

結婚を互いに意識しだして数ヶ月、僕は普段、金銭面で加奈子に頼り切りだし、婚約指輪くらいはダイヤモンドをプレゼントしようと思い、色んな店を払拭していた。だが、やっぱりフリーターにはなかなか痛い出費で、少し躊躇いつつも、絶対にいい物を買いたいと思っていた。

「ダイアモンドって、4cっていうのが大事なんですよね……?」

「はい、よくご存知ですね。カラー、カット、クオリティ、カラット、ですね。」

「あ、そうそう……。僕は宝石は全然詳しくないんですけど、彼女にはいいものをと思って……。ダイアモンドでは少しありきたりなんですかね……?」

「そのようなことはないと思いますよ。彼女さんもお若いんですか?」

「彼女、僕より5つも上なんです。だからより、綺麗な、年齢に合うようないいものをと……。」

「素敵です。彼女さん、きっと喜ばれますよ。」

「は、はい……。」

もうちょっと見て回ります、と告げ、他の指輪も見つつウロウロする。

「んん……、迷うなあ……。」

そう思っていると加奈子からメッセージがくる。

"ごめん〜、明日会えない。"

日曜日に会えないと言うのは珍しい。

"会えたとしても16時くらいになっちゃう……。"

加奈子は少し前にチーフになってより仕事が忙しいみたいだった。

そう思っていた。


ー4月ー

会うの、辞める……。

僕が、何かおかしいことを言っただろうか。

浮気をされることが普通なのか?

本当のことを教えてくれなくても信用しろと言うのか?

「え……加奈子、ど、どういうこと……。」

浮気を咎めないなんて、それはもう好きじゃないし、恋人でもないだろうと僕は思う。

カーテンにはやわい春の風が当たっており、窓を開けていて少し悪寒を感じピタッと閉める。


そのとき、ふと思う。


そもそも、浮気……なのか?

ベッドに突っ伏して真剣に考える。

加奈子は友達が多いが、それこそ皆きちんとしている人が多くて、高校卒業後、ずっとフリーターの僕なんかとは違う。そんな友達にフリーターの僕が紹介されるのが恥ずかしいと思っていた時期もある。とてもじゃないが浮気をしようとする男友達の影を感じたのは今回が初めてだった。

未だに信じられない。加奈子が浮気するなんて。

「……いって!」

ベッドの上の木に頭を打った拍子に何か上から降ってくる。

「ん……これ、加奈子の……。」

加奈子は筆まめで僕に手紙をくれたことがある。いつでも読めるようにベッドに置いてあったのを思い出した。

「改めて読んでみようかな。」

何か今の加奈子の手がかりになることが隠されているかもしれない。


淡い期待を抱いてその手紙を開いた。





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