第2話 ほんとは
「加奈子〜、あんたいつ結婚するの?」
「ええ?なにがあ?」
パジャマでゴロゴロしていた加奈子はかつてお母さんとこういう会話をしていた。
準備が整ったらねえ、って話してたんだよ〜と言った。でも、僕は違和感しか抱かなかった。結婚の話をしようとすると話を逸らしたり、口を開けたまま、あ〜……うーん。と言葉を濁す。
癖に気づいたのはこのときが初めてだった。単に、僕が正社員じゃないからとか、まだ若いからとか。そういったことだと思っていた。
だけど、本当は?
ー加奈子宅ー
「なにがって……あんた、直樹くんと付き合ってるんでしょう?そろそろ結婚したら?と思って。」
「まだ無理。」
「まだって?」
「まだだよ……。」
サイトをちらちら見る。希望は……んー、そうかあ。この人とデートしたら今月は15万弱、入るかなあ。
明日は2時に駅前か……。
疲れたなあ、今日も仕事だったのに。
切り詰めて切り詰めて生活をして、チーフになってからお給料が上がったけどまだ足りない。
準備なんて整わない。直樹の収入も安定しないし。
「最近いつもどこ出かけてるの。直樹くんじゃないでしょ、相手。」
「別に……仕事だよ。」
「やだ、仕事に私服で行くのね。」
「仕事じゃない……。けど、仕事。」
「危険なことだけは避けてちょうだいね。そんな子に育てた覚えはないわよ。」
「そんな……。ただ、せっかく顔はいいんだしそれはフルに活かしたい。」
「フルにって……。何をそんなに意固地になって頑張ってるのよ。」
「なあいしょ〜。」
親になんて言えるわけない。もちろん直樹にも。
ー直樹宅、3月ー
「おやすみ、加奈子……。」
さっきの通話画面を見てしまってからでも、加奈子は優しい笑顔で僕を迎えた。そのモヤモヤが冷めないまま加奈子は眠りについた。
頭を撫でているとカールした髪の毛からいつもと違う匂いがする。
僕のシャンプーの匂いだ。匂いがお揃いというだけでここまで嬉しいんだな。
今日のお泊まりに備えて荷物を置きにきたとき、いつもと違う香水に気づいた。
「……加奈子、香水変えた?」
口を開けて、え?という角度に保つ。
「いつもと違う匂いがする。」
「……ああ、そうかな?」
2人でしばらく黙っていたが、荷物ここに置いていい?という加奈子の質問に空気は切断された。
2人でゆっくりしながら借りてきた映画を見ていた。
映画の中で主人公とヒロインは優しくキスをした。2人は長いこと恋人同士で熱く燃えるような恋愛と言うよりは、日常一緒にいるような暖かな恋愛をしていた。
「いいね、この2人は。」
僕は少なくともこの2人の暖かいキスに僕達みたいだと思った。僕は男らしくはないけど、そんな僕を暖かく迎えてくれる加奈子のようだと思った。
「ね、加奈子?」
「うん、"いいよね、この2人。"」
単純に羨ましいという僕の気持ちと。
同じようなセリフなのに。
お前らはいいよな。
と聞こえたのはなぜだろうか。
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