ダイアモンド

はすき

第1話 通知音

ピピッ…。

最近よくこの音を聞く。

ー恋人のスマホの通知音ー

「……何かあった?」

「……んー?なんか、今から遊ぼ〜?ってトモダチからの誘い。」

「そうか。」


僕は知っている。


彼女は。


「……今日は解散にする?」

僕なりの気遣いというか、彼女はさっきからずっとスマホを見ているし。

この言葉に少し目線を斜め上に傾けるだけで。

「そうしようかなあ。あ、ねえ、来週は出張だから会えないんだよね。名古屋。」

「うん、前話してたっけ。行ってらっしゃい。」

そして、前僕に同じ話をした事も忘れている。


彼女は。


浮気をしている。


「んー……じゃ、行くね。また今度。」

今度、は来るのだろうか。

「うん、また……。」

手を引き止めることも出来ず、ずっと食べたいと言っていたオムライス屋さんの伝票を、すっと取っていく。

お会計はいつも彼女持ちだ。

情けない話、僕はまだフリーターで、彼女よりも5歳年下だ。

しかも彼女は会社のチーフで、かなりのキャリアウーマンなのだ。


それでも彼女が僕を選んでくれたのは何だったんだろうか。

オムライス屋さんの雑誌コーナーには結婚雑誌?みたいなのが置いてあって、かつて2人で結婚できたらいいね、と話していたのを覚えている。婚約してから半年がたって、いよいよ結婚する予定を立てようか、というときだった。

僕が彼女の異変に気がついたのは。


ー3月ー

ピピッ

彼女のスマホが鳴っている。

「加奈子、通知鳴ってるよ?」

お風呂に入っていた彼女に通知を知らせる。だがシャワーの音がうるさくて聞こえていないようだった。

いつもだったらわざわざ知らせないのだが、この頃加奈子のお母さんが体調を悪くしていて、悪くなったらすぐに連絡をすると言っていたそうだ。だから余計に彼女のスマホに意識が言っていた。

「加奈子お〜?通知!なってるよお!」

すると中から、んー?と聞こえた。

お風呂のドアが開く。

「ごめん、なおくん、何か言った?」

「スマホ、鳴ってたよ、お母さんじゃ……。」


トゥトゥトゥン…


その瞬間だった。


"大輝"


センスあるかっこいい名前が表示された通話画面が表示された。


「え……。」

「あ……。」

加奈子は都合の悪いことがあるとすぐに黙る。口を開けたまま。

その癖に早く気づいたのはこの、大輝さんより僕に違いない。

「……誰?」

「……友達。」

嘘だよ。

ねえ、加奈子。こっち向いて。

「もしもし。ん?ううん、また後でいい?ちょっと今……うん、うん。」

ちょっと今、何?

「じゃあね、また後で。」

また後で、大輝さんと話すの?

「ごめんごめん……。」

パーマをかけた髪の毛をやわくやわく拭く。

「明日も仕事だあ……。」

そうやって布団に突っ伏す。

「なおくん、おいで?」

それでも抗えなくて。

このやわらかい笑顔に僕は弱い。

「なおくん明日はバイト?」

「……うん、14時ー19時。」

「そっかあ。」

大して興味なさそうに話を聞いて、スマホに返信する。……相手は、大輝さん?


でも、僕は、知っている。彼女はきっと悪気なんてなくて。まだ、本当の理由も知らなければ、大輝さんのことを話したことも無い。


だから。


デミグラスソースを皿に少し残したまま、3時の位置にスプーンを置き、店を出た。


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