第4話末裔の偉大な力

 十一月のある日、一年生のクラスは大いに盛り上がっていた。十二月五日の学芸会のために、何を披露するのかを考えていたからだ。

「それではみなさん、何を発表するのかをこの中から決めてください。」

 一年生のクラスでは三組それぞれの担任の案の中から、一年生全員の投票で決めるというシステムをとった。

「なあ、全治はどれにするんだ?」

 全治に話しかけてきたのは、北野剛四郎。一年生の間では乱暴もので有名だが、全治の才覚に何かを感じたのか「友達になってほしい」と、二学期の初めに言われた。それ以来北野は、全治によく話しかけるようになった。

「そうだね・・・二番の「サーカスのライオン」がいいな。」

「俺は一番の「大きなカブ」だな!」

「どうして?」

「そりゃ、俺は力があるからこの話の主役にピッタリだぜ!」

「あれおじいさんだけでカブを抜く話じゃないよ?僕はもし君を主役にするなら、おじいさんよりライオンのほうがいいと思う。」

「なんだとーーー!!」

 と北野は全治に文句を言う。でも殴ったりとかは無いので、親友として付き合っている。

 下校中、全治と北野はよく一緒になる。帰り道が同じなのはもちろん、全治は時折北野家にお世話になっている。

「明日、俺んちに来いよ。夕食をご馳走してやる。」

「ありがとう、本当に悪いね。」

「気にすんなよ、母ちゃんもお前のこと可愛がっているし、俺も兄弟ができた気分だ。」

「じゃあ、僕は弟ということ?」

「まあ、そうなるな。ガハハハッ!」

 こうして他愛ない話で盛り上がれることに、全治は幸せを少しだけ感じていた。


 その日の深夜、全治は夢の中でゼウスと話をしていた。

「全治、今日はクロノスについて説明しなければならない。」

「うん、わかった。」

「クロノスはわしが全能神になる前、神々の王なる存在だった。クロノスは妻であるレアーとの間に沢山の子を授かり、その内の一人に私がいた。」

「つまりクロノスは、ゼウスの父さんということ?」

「そうだ。ところがクロノスは「神々の支配者の座を、子供達の誰かに奪われてしまう。」という不安にかられ、生まれた子供達を次々と飲み込んだ。偶然私はレアーの奇策により、クロノスに飲み込まれることなく成人するまでひっそりと育てられた。」

「それでどうしたの?」

「成人した私はクロノスに薬を飲ませて吐かせることで、兄弟達を全員助けた。そしてクロノスに復讐するために兄弟と組んでクロノスらを相手に、全宇宙の支配権を巡る戦争を始めた。」

「それで、その戦争はどっちが勝ったの?」

「もちろん私達だ、その後私はこの戦争での功績を認められて、神々から支配者として認められたのだ。」

「なるほど・・・。」

「じゃがクロノスは幽閉してタルタロスに封印したはずなのに・・・、何故なんだ?」

「そこは分からないの?」

「うむ。じゃが私としては、クロノスの力を持つ高須黒之という少年がどうも気がかりでならん。全治よ、高須黒之にはくれぐれも気を付けてくれ。」

 こうして、全治の夢が終わった。


 そして二日後、その日は一年生全員が学芸会で発表する内容が決まる日だった。

「みなさん、学芸会で発表する劇が決まりました。」

 松田が言うと、教室の生徒全員がそわそわした。ところが松田の口から、思わぬ言葉が出たのだ。

「劇のタイトルは【ティーターノマキアー】に決まりました。」

 生徒全員が、知りもしない物語に騒然とした。

「先生、今までの話はどうなったの?」

「先生、どうしてその話をやるの?」

 生徒全員が疑問とブーイングを松田に向けた、しかし松田は生徒全員に厳しい口調で言った。

「これは先生達の話し合いで決めたの!あなた達が言う事では無い!」

「じゃあ、どうして僕らで劇を決めさせたの?」

 全治は松田に質問した。クラスメイトは全治に同調した。

「それはこれまでの話で、もう無しになったの。」

「どうして僕らの話し合いの結果が無しになったの?」

「全治君・・・、前から思っていたけど質問で会話するの止めてくれない?」

 松田はうんざりする気持ちのあまり、会話がため口になった。

「・・・質問と会話って同じなの?」

「もう・・・これでお終い。みんな学芸会に向けて練習してね。」

 結局松田も全治の質問に根負けして、無理矢理終わらせた。


 それからは学芸会に向けての練習する日々が続いた、しかし教師達の突然な劇の決定に一年生全員が、不満と不審を隠せなかった。

「なあ、なんかやる気が起きないな。」

 北野が呟いた。

「そうだね、結局松田先生は僕の質問には答えてくれないし。」

「お前の質問は置いといて、問題は劇のタイトルだよ。何だっけ、ティータノーなんとかって?」

「ティーターノーマキア、何でも神様達の争いの話だって。」

「お前、詳しいな・・・。」

「爺ちゃんから教えてもらった。」

 全治は嘘をついた。こんな不満だらけの会話が続き、ついに学芸会の当日(十二月五日)を迎えるのだった。


 全治は舞台で大道具の玉座に座っていた、全治の役は奇しくもクロノスだった。

「ふう、この世界は今日も平和だ。」

 全治がセリフを言うと舞台の左奥からゼウス役の人が走ってきた、ゼウス役の人はこれも奇しく高須黒之である。

「クロノスめ、兄弟達を解放してもらおう!!」

「バカな!!ゼウスは赤ん坊の頃に、私が飲み込んだはず・・・。」

 この後全治は取り押さえられた、そして薬と称した水を飲んで吐く演技をする予定だったのだが・・・。

「さあ、これを飲め!!」

 全治は黒之に渡された水を飲んだ。

「うぐっ!!ガハッアア!!」

 全治は水を飲んだとたん、強烈な毒を体で感じた。そして演技どころか本当に吐いてしまい、意識が朦朧とした。

「ハハハハハ・・・・本当に吐き気がしただろう!!」

「高須君・・・・これも・・・クロノスの力・・・。」

「そうさ、ただの水を毒液にして君を劇中に殺す!!素晴らしい考えだよ!!」

「どうし・・て・・・そん・・・な・・・・」

 気絶する寸前、全治が黒之から聞いた言葉はこうだった。

「僕はクロノスの末裔だからだ。」



 全治が気が付いた時、全治は病院にいた。

「全治、気が付いたか!!」

「・・爺ちゃん、ここは?」

「病院だ、お前は倒れた後緊急搬送されたんだ。」

「劇は・・・どうなったの?」

「今年はもう中止じゃ、警察沙汰になってしまったからのお。」

「・・・そういえば今日は何日?」

「今は十二月六日の午後一時じゃ、丸一日眠っていたんじゃ。」

「そうか・・・・、ごめんなさい。」

「謝るな、全治が無事でよかった。婆さんに知らせてくるよ。」

 祖父は祖母に知らせるために部屋を出た、すると寝ていないのにゼウスの声がした。

「全治、助かってよかったわ。」

「ゼウス、僕を助けたの?」

「当たり前だ。それにしても高須黒之め、全治を本気で殺しに行くとは・・・。」

「どうして黒之は、クロノスの末裔になったのだろう?」

 全治はベッドの上で首を傾げた。

 

 

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全能少年「宿命の産声」 読天文之 @AMAGATA

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