第3話全能の戯れ
黒之から衝撃の事実を告げられてから数時間後、全治は夢の中でゼウスと話していた。
「なんと・・・本当にその黒之という者は、人を殺したのか?」
「うん、でも彼の話を聞いていたら・・・、なんか胸の奥から気持ち悪い何かが出来たような気がするんだ。この感じは一体何だろう?」
「それはおそらく、そなたが優しい故の物じゃ。」
「どういうこと?」
「うん、黒之の言う事は人としてあるまじき行為だ。お前は今まで人としての行動をしてきたから、それに反する話を聞いて気持ち悪くなったのだ。まあ人としてあるまじき行為を繰り返していけば、その気持ち悪さも感じなくなってしまうがな。」
「なるほど、ありがとう。」
「後、黒之は神の力を持っているという事だが、その神が誰なのか分かるか?」
「確か、クロノスと言っていた。」
「クロノスだと・・・・!」
ゼウスは絶句した。
「知っているの?」
「ああ、じゃがクロノスについてはまたの機会にしてくれないか?」
「いいよ。」
そして夢は終わった。
午前九時三十分、全治は自分の部屋でゼウスの魔導書を開いていた。
「えっと、命を宿すには・・・あっこれだ。」
魔導書の七十ページ辺りに書かれていた、そこには枝や人形といったものを自分の眷属にする技が書かれていた。ただこの技は自分が過去に触れていて愛着があれば成功しやすいと書かれていた。
「えっと、たしかこの辺りに・・・あった!」
全治が自分の部屋の押入れから見つけたのは、白熊の大きな抱き枕だ。
「そういえば両親が買ってくれたと、婆ちゃんが言っていたなあ。」
この白熊の抱き枕は、全治が二歳だった頃に両親が買ったもの。当時立ち上がって間もない全治は、お昼寝の時に愛用していた。
「懐かしいなあ・・、でもこれが動いたらどうなるんだろう?」
全治は白熊の抱き枕を置くと、魔導書を読んで術をかけ始めた。
「出でよ全能陣」
全能が言うと、白熊の抱き枕を中心に大きな魔法陣が浮かび上がった。
「我が命は、命宿して永遠の下僕として動くこと。」
そして魔法陣の力が白熊の抱き枕に集中し、黄色い光を放った。そして光が止むと白熊の抱き枕は一頭の白い子熊になった。
「・・・ふああああっ・・。」
「凄い・・・・!本当に起きた。」
「あれ?僕どうしてうごけるの!?」
白い子熊は、命を得た自分に凄く驚いた。
「僕は千草全治、君のご主人様だよ。」
「千草全治・・・、あっ!!もしかしてかつて一緒に寝ていた、あの赤ちゃん!?」
「今はすっかり大きくなったんだ、これからよろしく。」
「はい、また一緒になれて嬉しいです。命をくれてありがとう。」
白い子熊は全治に跪いて礼をした。
「さて、今日は宿題も無いから散歩に行こう。君もついてきてくれ。」
「はい、承知しました。」
全治は白い子熊を引き連れて、散歩に出かけた。
「あっ、人に見られた時の事を考えていなかった。」
「大丈夫、他の人には僕の事は見えません。」
全治は魔導書を開いてみると、「眷属は主にしか姿が見えない」と書かれていた。
「なら気にすることは無いか・・・・。」
全治はほっとした顔で歩きだした、角を曲がりいつものコースを歩いていく。堤防に差し掛かった時、草むらをあさりながら何かを探している人を見かけた。それは全治と同い年の少女だった。全治はただ気になるという気持ちで声をかけた。
「あの、何をしているの?」
「ヒッ!!」
少女は全治の呼びかけに不意を突かれ、素っ頓狂な声を出した。そして全治の方を振り返る。
「あ、クレヨンを探しているの・・・。」
全治は少女の近くに画用紙が置いてあるのに気づいた、おそらく絵を書いている時に何かの拍子で無くしてしまったのだろう。
「手伝うよ。」
「いいの?ありがとう!!」
少女は喜んだ。全治は白い子熊と一緒に、草むらの中からクレヨンを探していた。全治が堤防を下っていくと、黄土色の枯れ草のところに緑のクレヨンがポツンと落ちていた。
「あっ、これかな?」
全治はクレヨンを拾い上げると、少女の所へ持って行った。
「これかな?」
「そう、それ!見つかってよかった。」
「じゃあね。」
全治が白い子熊を連れて帰ろうとした時、少女に声をかけられた。
「あの!・・・名前はなんていうの?」
「千草全治。」
「私は川原朱音、ありがとう!」
朱音は全治に頭を下げると、お絵かきに戻った。
その後も全治は町の中を歩いていた、すると自動販売機に寄りかかっている少年を見つけた。少年は全治よりも年上の高校生男子でぼーっとしている。
「何しているの?」
しかし全治の声は少年には聞こえていない。
「ねえ、何しているの?」
全治がさっきより大きな声をかけた。
「うわあ!?・・・・何だよ、小学生か?」
少年は派手に驚いた後、冷静になった。
「ただぼーっとしているだけだ、向こうへ行け。」
少年は右手を振った、しかし全治は食い下がる。
「ふーん、どうして僕は向こうへ行かなきゃならないの?」
「だから一人になりたいんだよ・・。」
「どうして一人になりたいの?」
「うるせえ!!」
少年はすぐに怒鳴った。周りは少年の大声に視線を向けるが、全治は動じなかった。
「いいから向こうへ行け!!」
「ねえ、どうして怒っているの?」
高校生は全治の寡黙な質問に疲れて、自然と理由を話した。
「・・・お前には分からないだろうけど、親父とけんかしたんだ。」
「どうしてけんかしたの?」
「将来の事だよ、俺は好きな野球が続けたいからプロ選手を目指していたのに、親父が働け働けうるさくて少し前に親父殴って家を出てきたんだ。」
「・・・親子もけんかするの?」
「当たり前だろ、ていうかけんかしたことも無いの?」
「うん、もう僕の親はいないから。」
全治は当たり前のように言ったが、高校生はそのセリフに何かを感じた。そして全治に質問した。
「・・・お前、今何歳?」
「七歳。」
「親がいないと言ったな?」
「うん、三歳の時に二人とも死んだ。」
「お前、誰かと暮らしているのか?」
「うん、爺ちゃんと婆ちゃんが面倒見てくれる。」
高校生は胸を撫でおろした。
「それはよかったなあ・・・・、なんかあんたと話していたら少しだけ気が紛れた、本当にありがとう。」
「うん、最後に一つだけ質問していい?」
高校生はため息をつくと、「いいよ。」と言った。
「あのさ、君の父が君の将来について色々言っていたけど、どうしてそんなことを言うのかな?」
「はあ?いや、それは俺が聞きたいよ!!」
「どうして人は自分の子供や他人の未来を決めたがるのだろう?どうして自分一人で将来を、切り開くのを邪魔するのだろう?」
「ごめん、俺には答えられない。けど今の質問は俺ぐらいの奴が結構抱えているんだ。だから話してくれてありがとう、俺家に帰るわ。」
「そうか・・・、じゃあまたね。」
全治は高校生と別れた、そして日が暮れてきたので家に向かって歩き出した。
「全治、どうして君は質問ばかりするの?」
と白い子熊に聞かれた全治は、「質問が好きだから」と答えた。
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