第2話交わる神の子
千草全治がゼウスの魔導書を手に入れてから一年が経った、小学一年生の全治は相変わらず全能ぶりを学校内で発揮していた。
「すごいわあ・・・・!!」
「アイツ、もしかして天才児!?」
周りの同級生も先生もそう言っていたが、当の全治は特に浮かれることなく、むしろ褒め言葉はどこ吹く風程度にしか考えていなかった。
しかしある日、全治のクラスの隣のクラスに転校生がやってきた。今、一年生のクラスではその転校生についての話題で持ち切りだった。
「ねえねえ、転校してきた高須黒之もかなりの天才だよね。」
「ああ、千草と比べても負けない程に。」
「どっちが天才かな?」
しかし高須黒之はプライドが高い眼鏡が似合う男子、それゆえに全治と比べられる事に憤りを感じていた。
「僕と同じぐらい天才の千草全治って誰だ?」
黒之はずっとそんな事を考えていた、そしてある日友人をつてに全治と出会った。
「君が千草全治か。」
「そうだよ、君は誰?」
「僕は高須黒之、君は僕と同じ天才と言われているようだ・・・。」
「天才・・・・・?」
「ん??どうしたの?」
「ねえ、どうして僕は天才って周りから思われているの?」
「そ、それは!君が他の人より優れているからだ、今までそんな事感じていなかったのか?」
「感じてない、ただ出来るからしているだけ。」
全治のそっけない態度に、黒之は内心腹が立っていた。
「君は周りから褒められて嬉しくないのか?」
「うーん、褒められたら嬉しい・・・、でもそれを気にしてもいいのかな?」
「はあ?どういうことだよ?」
「褒められるのは他の人が僕をどのように感じているかでしょ、僕と関係ないなら、
あまり気にしないほうがいいと思うけど、君はどお思う?」
「・・・・っ!もいい!!頭が壊れそうだ。」
そう言って黒之は走り去った、全治はまだまだ質問したりないという顔をしていた。
その日の夜遅く、全治は夢の中でゼウスと話していた。
「全治、今日はどうだった?」
「ああ、黒之という少年と話したよ。」
「ほお、そなたの気になるものが出来たようだな。」
「えっ、分かるの?」
「当たり前だ、顔に書いてある。」
「ところでゼウスの魔導書に、命を宿らせると書いてあるけど。これは僕でも出来るの?」
「もちろんだ、でも使い方に十分気を付けてな。」
「分かった。」
ここで夢は終わった。
翌日正午過ぎたばかりの頃、全治の通っている学校では子供達が、待ちに待った給食に目を輝かせていた。しかし全治はただ自然なだけのように、給食を当番からもらっていた。そして食べている時も、ただ味わっているだけだった。
「やはり美味しいものは美味しい、だけど美味しいとは一体・・・・?」
全治は味わうことで答えを見出そうとしていた、そんな時廊下が騒がしくなった。
「なんか廊下がうるさくない?」
「せっかくの給食の時間が・・・。」
うるさくてたまらない生徒をよそに全治は、何故かその様子が気がかりだった。
「どうしてみんな廊下を走っているんだ?危ないと言うのに・・・?」
そして食べ終えた全治がふと廊下を見ると、なんと二人の救急救命士が中年女性の教師を一人医療用タンカに乗せて、ダッシュで運びながら学校から出ていくところを見た。
「だからみんなは走っていたのか・・。」
「人にとって命に勝る宝は無い、命を救う為なら多少の規律を破る」とゼウスの魔導書に書かれていたのを知った全治、納得した顔で教室に戻っていった。
ところが翌日、驚愕の事実が担任の松田から告げられた。
「みなさん、昨日の給食の時間は騒がしかったことでしょう。実は一組の絵里香先生が、給食中に倒れてしまったのです。」
生徒たちは驚きのあまり騒がしくなった。
「松田先生、絵里香先生は大丈夫ですか?」
生徒の一人が質問した。すると松田は言いにくい顔をした、それを見た全治は言った。
「ねえ、どうしてはっきりと言えないの?」
全治の質問に、生徒たちは困惑した。でも松田は全治に言った。
「そうね、先生が悪かったわ。じゃあ言うね、絵里香先生は亡くなったの。」
まさかの告白に全治以外の生徒は騒然とした。
「どうして亡くなったの?」
「全治君、アレルギーって知っている?」
「うん、肌がかゆくて赤くなったり鼻水が止まらなくなったりするあれ?」
全治の祖母はスギ花粉のアレルギーなので、最低限の理解はあった。
「そう、でも絵里香先生のはアナフィラキシーショックと言って、さっきのが強く出たり息が苦しくなったり意識が無くなったりするの。絵里香先生は卵アレルギーだったわ・・・。」
アレルギーの恐怖に全治以外の生徒は、顔面蒼白となった。その日は絵里香先生の葬儀についての話し合いのため、午後の授業は打ち切られ掃除を済ませたら全生徒は下校することになった。
下校しようと廊下を歩いていた全治は、黒之に呼び止められた。
「全治、どうだクロノスの力は?」
「君、何言っているの?」
「ああそうだね、まずは具体的に説明しよう。」
首を傾げる全治に、黒之が言った。
「昨日の給食の時間の事件、引き起こしたのはこの私さ!!」
「・・・本当なの?」
「ああもちろん、私の神の力があればあれぐらい出来る。」
「・・・じゃあ、絵里香先生を卵アレルギーにする技があるの?」
「うーん、ちょっと違うなあ。絵里香先生を卵アレルギーにはしたけど、本当は他人の体と同じにしたといったほうがいい。」
「どういうこと?」
「昨日、私のクラスでは全員に同じ給食が配られていた。でも後藤さんのは少し違った、昨日の給食分かる?」
「牛乳とすまし汁と野菜炒めと・・・、親子丼だよね。」
「その通り、でも後藤さんは卵アレルギーだから具は乗せずに食べる事になった。でもそれが気に食わないのが絵里香先生だった。」
「どうして?」
「まあ絵里香先生は自分が正しいと思っているからね、あの時も「アレルギーなんてただの好き嫌い、食べ続ければ治る!!」と言って、無理矢理食べさせようとした。僕は後藤さんをかばって絵里香先生を説得してみたけど、結局「静かにして!」とか「関係ないだろ!!」とかで聞く耳持たず。それで給食の時間が無くなるという事でこの論争は終わったけど、僕は後藤さんの身の辛さを絵里香先生に思い知ってほしくて、クロノスの技で絵里香先生の体を後藤さんのと同じにしたんだ。」
「それで絵里香先生は倒れたんだ・・。」
「ああそうさ、体が赤くなり息苦しくなって目がおかしくなってとうとう口から泡を吐いたんだ!!無様でおかしかったよ!!ハハハハハ!!」
黒之はサイコパスの笑いをした、全治はその反応に首を傾げた。
「どこが笑えるの?」
「だって僕は絵里香先生が苦しめばよかったのに、なんと死んでしまったんだよ!!それに僕は後藤さんの役に立ったんだ、もう卵アレルギーを気にすることはないからな。」
その時、全治は胸に不快感を感じた。
「ごめん、もう行っていい?」
「いいよ、君に話せてよかったよ。」
その後全治は、胸に感じた不快感について考えながら歩いていた。
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