全能少年「宿命の産声」
読天文之
第1話天から授けられざる才能
今ここに寡黙で生気の感じない目をしている少年がいる。彼の名は千草全治、まだ六歳で少年としては若いほうである。彼は無表情であまり積極的な性格ではないので、いつも幼稚園では浮いていた。これだけならまだいいのだが、そんな彼には幼稚園の先生すら近づいてもらえない。
「一緒に遊ぼ。」
と先生に声をかけられるとどこか厳かな目を向けてくる、それが幼稚園児とは思えない迫力を感じさせるのだ。そんな全治だが彼は人ではなくなんと、全知全能の神である。まずはその能力とそれを得た経緯について書こう。
全治が五歳の頃、彼はある老夫婦の家に住んでいた。
「全治や、おやつですよ。」
「おやつだ!!」
全治もこの時はどこの家にでもいる子供と変わらない、全治はおやつに出されたドーナツをほおばった。
「それにしても、この子は強いねえ。」
「何が強いんだい?」
「周りには父母がちゃんといるのに、この子はそれを羨ましがることが無いんだもの。」
「そうさのお、あんなことになったというのに・・・。」
全治の実の両親は既に亡くなっていた、まず全治の父親が不慮の交通事故で亡くなり、その後を追うようになんと母が自殺してしまったのだ。これは全治がまだ三歳の頃の話である。
「どうしてあの子はあんなことを・・・。」
「もう過ぎたことだ、今は娘が残した全治を育てようではないか。」
この老夫婦は全治の母の両親である、妻は娘が自殺したことを思い出したようで夫に慰められながら泣いた。
「僕、公園に行ってくる!」
「そうか、車に気を付けて遅くならないようになー。」
全治は若い力をエネルギーにして、公園に向かって走り出した。するとその途中で辞書が落ちている事に気が付いた、全治には内容が理解できないのは明らかなのだが、全治は好奇心で辞書を手に取った。
「何だろう、この本?」
全治がページをめくると、辞書から全治の体へと力が入ってきた。そして全治はこの時から人では無くなった。そして全治の眼から瞳が消え、遊びに行くつもりが辞書を持つと家の方向へと歩いていった。
「ただいま。」
「お帰り、早かったね。」
全治は祖父の言葉を聞き流すと、二階に上がって辞書を読んだ。しかし読むのに疲れたのか、全治はしばらくすると眠りに着いた。
「少年、起きなさい。」
「ん・・・、誰?」
全治はこの世のものではないどこかで目覚めた、するとそこには王様の椅子に座るサンタクロースのようなおじいさんがいた。
「おじさん、名前はなんですか?」
「わしはゼウス、全知全能の神だ。これからはゼウスと呼びなさい。」
「ゼウス、どうして僕はここにいるの?」
「お主が持っている魔導書があるだろう。」
「この重い本のこと?」
「そうだ、そこにはわしが出来ることの全てが書かれている。いわば『ゼウスの魔導書』だ。」
全治は改めてゼウスの魔導書を読んだ、難しそうな事しか書かれていないが何故か全治は内容が理解できる。
「そなたはこれからゼウスの魔導書を使って、世界に問いかけていくがいい。」
「世界に問いかける・・・どうしてそんなことをするの?」
「この世界がなんなのか実の所明確な答えが無い、例え全知全能のこのわしでも答えが分からないのだ。」
「分からないなら、そのままにしたほうがいいと思うけど・・・?」
「そなたの言う通りだ、だがな答えが無いにしても「個人的な答え」を見つけたくはないか?」
「個人的な答え?」
「そうじゃ、人生や世界には『これだけ』という答えは無い。なら個人なりに答えを作らないか?」
「確かに、それは面白そうだね。」
「じゃろ、それなら一生をかけその魔導書を片手に探し続けるがいい。」
全治はここで目覚めた、だがゼウスに会って話した記憶は全治の頭の中にあった。
時を現在に戻そう、全治は人付き合いは最悪な程悪かったが、器用・身体能力・頭脳においては同年代の少年少女より遥かに上だった。これはもちろん全知全能によるものである。その日は鉄棒運動をしていたが、全治は退屈そうに逆上がりをしていた。
「全治、すげえ・・・。」
「もう逆上がりができるなんて・・。」
この年で逆上がりを完璧に成し遂げる者はあまりいなかった、出来たとしても先生の補助あってのものだ。
次にお絵かきなのだが、全治はこれと言ったものではなくただ景色を書くだけ、ただクオリティーが年離れしていた。全治の書いた絵を見た先生は・・・
「これ、幼稚園児の絵じゃないよね!?」
「ああ、どう見ても絵の上手い中学生が書いた絵にしか見えない・・・。」
と驚くばかりだった。
次は幼稚園ではなく家での話、この日全治はお使いを頼まれた。全治はスーパーへ行き、お使いの品であるケチャップを買おうとしていた。スーパーの中でケチャップが置かれた棚を見つけたが、ただ全治はケチャップの置かれた棚を、舐めまわすように眺めているだけ。すると中年男性に声をかけられた。
「少年、ケチャップが取れないのか?」
「いいえ、どのケチャップを買ったら安く買い物ができるか、考えていたんです。」
このセリフに中年男性は、一瞬凄みを感じた。全治は一番下のケチャップを選んで、お使いを終えた。
とこのように才能が年離れしていた全治だが、実はかなりの難癖がある。それは質問攻めである。幼少期のエジソンもそうだったが、全治の場合はエジソンとはタイプが違う。例えば幼稚園で大きな態度の園児が貸しての一言も無しに、他の子どもからおもちゃを奪った時の全治は・・・、
「ねえ、なんで貸してを言わないの?」
「はあ?いいだろべつに!!」
「どうしてお願いしないの?他の人から借りるときはそうしないといけないのに?」
「うるせえ!とにかく俺が使いたいから使うんだ!!」
「自分はお願いしなくてもいいんだ。じゃあ、どうして君はお願いしなくても、物を借りられるの?」
・・・と最終的に根負けして大きな態度の園児が身を引く・・・。具体的に言うと「好奇心」ではなく「疑問形」の質問だ。しかもかなり長々としてくるので、大抵の人は全治に嫌悪感を感じてしまう。もちろんこの難癖はゼウスの魔導書の力によるものである。
ある日の夜全治が寝ようとしていると、どこからかゼウスの声がした。
「全治よ、調子はどうだ?」
「いいですよ。」
「世界への問いかけは続けているか?」
「はい、でも一つだけ気になることがあります。」
「何じゃね?」
「みんな僕が質問すると、よく怒るんだ。それで最近は僕と話すのを避ける人達まで現れて・・・、一体どうして何だろう?」
「ふむ、全ての人間がそなたの質問に答えていられないなんじゃないか?ただ問い続けたところで、答えは出るものじゃない。行動して経験と照らし合わせて、答えを見つけて行くのだ。」
「確かにそういう意味の言葉もあるね、わかったこれからそうするよ。」
そして全治は眠りに着いた。
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