第十四話――三者面談(メタファー)

 唐突に露わになる、ブリーゼのそれとは幾分控え目な、しかしモデルのように美しい、シーの肢体に。

 堕天男ルシファーは反射的に眼を背けた。


 恥じらうようにさっと局部を隠したシーは、赤面しながら堕天男の顔を見やる。

「なぜ脱がすんです」

 口を尖らせて師に抗議する、シー。

「読者サービスよ」

「ワケのわからないことを言わないでください。ほら、堕天男も集中できないじゃないですか」

「甘いわねえ。あなたも、ダーリンも。この程度のことでうろたえてるようじゃ、戦場では生き残れなくってよ。敵があなたを辱めてきたら、色香で迫ってきたら、どうするつもり?」

「…………!」

 もっともらしい師の理屈にシーは丸めこまれてしまった。

「そうだわ。だから、もっとダーリンには女性に対する免疫をつけてもらわないと。魔法を勉強する以前の問題だわ。よってダーリン、今から〈ピ――〉しましょう」

「何でそうなるんですか!」

 シーがあまりに強引な展開に思わずツッコミを入れる。

「うるさいわねえ。そうだ! あなたも一緒にしたらいいじゃない。いつまでも思春期のお子ちゃまみたいなこと言ってないで、そろそろ大人の階段を登りなさいな。あなたも異性に対する免疫が足りない。であれば、私はあなたの師匠として、これを克服させる責任があるのです」

「勝手に話を進めないでください!」

「なーにカマトトぶってるのよ。木の股から生えてきたような顔して。あなたも仕事ばかりしてないで、たまには人生を謳歌しなさいな。セッ○スはいいわよお♡ 特に若い子のエキスは最高よお」

 淫魔サキュバスそこのけの淫らな笑みで舌なめずりをするブリーゼに、若干引き気味のシーは、あくまでも真顔でこう言った。

「お言葉ですが、お師匠。私は堕天男に魔法を教えてもらう見返りにここの家事を代行しているのであり、これでは契約不履行。返答次第では、今すぐここを立ち退く所存でございます」

 いつもに増して事務的口調でそう述べるシーに対し、ブリーゼは大きなため息をつく。

「ハア……あなたは私から一体何を学んできたのかしら。この世の春を謳歌おうかすることなく仕事に没頭するなんて。育て方を間違えたのかしらね。嗚呼ああッ、嘆かわしい!」

「ご心配なく。お師匠からは魔法の基礎から応用までしっかりとご指導いただき、それは私が天使たちと渡りあえるほど昇華されていますので」

「問答無用。あなたもこの〈万魔典パンデモニアム〉の教え子ならば――覚悟を決めなさい」

「何の覚悟ですか」

 急に真顔で師匠の威厳を出したブリーゼだが、何の抵抗もなくすばやくバスローブを脱ぎ捨て、堕天男を捕食するべく、その照準を定めた。

 肝心の異性である堕天男が眼を閉じながら素数を数えているため、たとえふたりの美女が裸でいようとも投稿サイトの規定に引っかからないことは確定的に明らかである。

「仮にもこの〈万魔典パンデモニアム〉の弟子ともあろう者がこの程度のことで取り乱しているようでは、私の沽券こけんに関わるわ。これは試練よ。シー。反論は認めません。拒めはあなたは破門よ」

 立場を濫用した圧倒的パワハラに、シーはもうどうにでもなれ、と、頭を抱えて大きなため息をついた。

 諦め――その観念こそがこの傍若無人の化身たるブリーゼの弟子には不可欠であり、貞操観念など期待する方が間違いだった、と、シーは幾度もの苦い経験から悟った。


 作者自身の手により二千五百字削除されたシーンの数時間後、堕天男、ブリーゼ、シーの三人は何事もなかったかのようにシーの作った炒飯チャーハンを食らっていた。

 シーはいつもの事務的なシーに戻っていたが、時おり堕天男の方を見ては恥ずかしそうに眼を背ける始末。

 それは飢えた肉食獣の如く堕天男を求めてくる淫魔ブリーゼとはまた異なる強烈に可憐な魅力の刃となって、堕天男のハートを貫いてしまったのであり、思わぬ強力な宿敵ライバルの出現に、ブリーゼは警戒心を露わにし、こう思った。


 私も清純派路線で攻めた方がいいのかしら――? と。

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