第十三話――魔法物質(マナ)
ここはブリーゼの
中世のお城を
シーのファッションも眼玉や骸骨などがモチーフに採用されており、人間と魔族とでは美的感覚が根本的に異なるのかもしれない、などと考えた
四十平米はゆうにある広いリビングのど真ん中に、ポツンと向かいあって並ぶソファに腰かける、ブリーゼと堕天男。
マトリス紙による適性検査終了後、シーに促されてどこかやる気の抜けた態度で、しかしシーのシン料理は恋しいのか、ブリーゼは魔法学の講義を始める。なおシーは夕食の準備をしにキッチンへと赴いた。
「さて。どこから説明すればいいのかしらね、
まるで知ってて当然、と言わんばかりにそう訊ねるブリーゼに、しかし堕天男は首を横に振る。
アニメやゲームで耳にしたような気はするが、
「義務教育で教わる常識なのだけど……〈教団〉はそういう基礎教養の記憶まで奪ってしまうのねえ。罪深いわ、まったく」
ため息を吐き、頭を抱えたブリーゼの。
「魔法物質は魔法を使う際に使われる、燃料のようなものよ。こんなふうに」
その人差し指が、白く光る。
「ありとあらゆる生物の中に宿り、また大気中にも微量だけれど存在するわ。あなたの中にも、私の中にも、それぞれ量や系統は異なるけれど、魔法物質は存在する」
「天使たちにもか」
堕天男の質問に、ブリーゼの顔がほころぶ。
まるで我が子の成長を喜ぶ母のような。
「いい質問ね、ダーリン。積極的なオトコはお姉さん大好きよ。でも、少し違うわ。天使たちの中にも魔法物質が存在するというよりは、彼らは魔法物質そのものなの」
……などと言われても、こちらの世界の知識が微塵もない堕天男は眉根を寄せ、首を傾げるのみ。
その姿がまた愛おしい、と言わんばかりにブリーゼは黄色い声をあげる。
「天使の正体は、最高神ガイウスの生み出した魔法生命。存在自体が魔法物質の彼らは、人間とは比較にならない魔法物質をその身に宿しているわ」
短時間で町を壊滅させた
「彼らのようにね」
ブリーゼが言うやいなや、部屋の扉を開け、パリッとしたスーツ姿の美少年が入室してきた。
『オ呼ビデショウカ、
先日の入口の熊や
「彼は私が創った魔法生命体の執事よ。名前はロメオ」
そして
「彼は
『ヨロシクオネガイシマス、堕天男サマ』
ブリーゼに促され、ロメオはその右手を堕天男に差し出した。
「ああ、よろしく」
堕天男はその手を握り返す。
人間的な温もりは感じられず――むしろ冷たさすら感じさせるその手は、何だか冷蔵された食肉のような気味の悪さを感じさせた。
生命というよりは動く人形、という印象だ。
同じ魔法生命でも、天使たちは〈第三世界〉の人間と見分けがつかなかった。
最高神とやらが生み出した存在だからより人間らしいのだろうか、などと、堕天男は考えた。
その仮説を補強するように――
「とは言っても、私みたいな凡人には彼らを生み出すのが精一杯。神サマが生み出す天使たちと戦わせても、五秒で
忌々しそうにそうこぼすブリーゼ。
彼女もその昔〈教団〉とやらと
「俺も修行を積めば、その魔法生命とやらを生み出せるようになるのか」
堕天男はやや興奮気味に問う。
一から生命を作る、そんな神の如き所業が自分にも可能なのか、と、あふれ出る好奇心を抑えずにはいられなかった。
何だったら魔法生命を量産して自分だけの軍隊、そして自分だけの国家を作り、世界征服――などと子供じみた妄想にふける堕天男に、しかしブリーゼは難しそうに「う~ん」と呻く。
「どうかしら。それは坊や次第ねえ。古今東西、魔法生命を生み出すことに成功した魔道士は私の他に一人だけ。まあ魔族に転生して何百年単位で修行を積めば、もしかしたら使えるかもしれないわね。まずは焦らずに、基本の魔法から。そうね、こないだ教えた
「ひぃやァ!?」
ブリーゼが唐突に呪文を唱えると、部屋の扉がバタンとこじ開けられ、なぜかシーがリビングの中へと飛びこんできた。
「感心しないわねえ、馬鹿弟子。夕飯の準備ほったらかして
不機嫌そうにそうこぼしたブリーゼは、しかし何か思いついたのか、妖しげに微笑んだ。
「な、何ですか」
ブリーゼがよからぬことを企んでいるのが伝わったのか、シーが半歩下がる。
「『
いきなりブリーゼから放たれし衝撃波が、シーの衣服を弾き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます