第十二話――適性検査

「なぜあなたまでここにいるのよ。さっさと夕飯の支度しなさいな」

「お師匠がちゃんと堕天男ルシファーを指導するか、私が見張ります」

 不信感を隠さぬシーに対し、お師匠ブリーゼはため息をつく。

「信用ないわねえ。大丈夫よ、ちゃんと教えるから。ほら、あっち行った」

 しっし、と、うっとうしそうに手であしらうブリーゼに、だがシーの眉毛がつりあがる。

「じゃあ何ですか、そのベッドは」

 シーの眼線の先には、大きなベッドにふたつの枕、いわゆるダブルベッドがあり、そこに横たわるブリーゼはバスローブ一枚という有様だった。

「今日は座学の時間だから。机にかじりついてガムシャラに頑張るより、リラックスした姿勢の方が頭が柔軟になるというのが私の持論」

「そんなこと私が弟子だった時はひとっ言も言ってなかったですよ。もっともらしい詭弁を弄して堕天男を――その、オモチャにするのはやめてください。出ていきますよ」

 途中からなぜか口ごもりながらシーは己の師を糾弾する。

 そう、ここは誰がどう見ても寝室であり、魔法教育や訓練を行う場とは想像もつかない。

「ハァ……白けた。まあいいわ。ここでちょっと待ってて、ダーリン。調べたいことがあるわ」

 ブリーゼは不承不承そう言ってベッドから魔法でふわりと宙に浮き、部屋の外へと出ていく。

 堕天男と、そして不信感丸出しの見張りシーだけが、部屋に残される。

「あなたもあなたですよ、堕天男。ただお師匠に流されるだけ流されて」

「何を怒ってるんだ?」

 本当にワケがわからなさそうに片眉を持ちあげて問う堕天男に。

「私は怒ってなどいません」

 シーはどこかトゲトゲしい口調で、そう答えた。


 数分後、宇宙飛行士のように宙にふわふわ漂いながら舞い戻ってきたブリーゼは、付箋ふせんほどの大きさの、灰色の紙きれを一枚、堕天男に差しだした。

「何だ。この紙は」

「これはマトリス試験紙といって、死の海デッド・シーでのみ採れるマトリスという苔から造られる希少な魔道具よ。簡単に言うと、魔道士の魔法の適性というか、系統がわかるの」

 ふむ……ゲームでいうところの〈属性〉みたいなやつだろうか、と想像する堕天男。

「で、どうすればわかるんだ」

「ここに坊やの精○を垂らし――」

 瞬間発生したシーの敵意を感知したのか。

「はあ。まったくノリが悪いわね」

 と、肩をすくめるブリーゼ。

「あなたの存在そのものが規約違反R18です、お師匠。いいかげんにしないと作者のアカウントが凍結されますよ」

「何をワケのわからないこと言ってるの……まあ、体液なら何でもいいわ。汗でも唾液でも、この紙の上に垂らすと、色が変化する。それで坊やの魔法の適性がだいたいわかるわ」

「ふむ……」

 言われるや、堕天男は精○――では当然なく、右人差し指をペロリとひと舐めし、マトリス紙に触れる――


 ぞわり。


 シーの、そしてブリーゼの眼が、見開かれた。

「うわ、何だこれ。気持ち悪いな」

 三人が驚いたのも、無理はない。

 堕天男の唾液が触れた瞬間――マトリス紙全体が、一瞬で真っ黒に染まったからだ。

「珍しいわねえ。ここまで純粋な闇の適性者は、千年生きてて……んー、見たことないわ。たぶん。これは……面白いことになりそうね」

 ブリーゼが興奮気味に笑い、そう言った。

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