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「んあ?」
夜の探偵事務所。アカネは来客用のソファで、体育座りしていた。
自室に逃げ込んでいたハガネが飛び出してきて、慌ただしく外出の準備を始めた所で目を覚ました。
「どうしたの、所長。そんなに急いで、仕事?」
「お早う、アカネちゃん。今、サカキ刑事から連絡が入ってね、君の学校の生徒が自殺したらしいんだ」
「誰が?」
「水城マリという三年生だ。先程三色駅のホームで飛び込み自殺をしたらしい」
「水城マリ……どっかで聞いた名前」
「アカネちゃんが調べていた、水城イチコの姉だよ」
「あ~!あ?でも、その子が何で自殺?」
「今は何とも言えない。ただ、警察は自殺として片付けたがってるけど、彼女は突き落とされた可能性が高いって、サカキ刑事は言ってる」
「女性連続突き落とし事件の関連って事?……あ、水城イチコって、この前食べた娘だ」
「食べたのかい!?」
突然明かされた衝撃の事実に、ハガネは唖然とした。
「悪い事してたもん。食べないといけないって、映画で言ってた」
「アカネちゃんのルールは分かるけど……良くないタイミングだね」
「だって……」
「いや、今言っても仕方ない事だ。食べた証拠は出ないだろうし、今度サカキ刑事に上手く処理できないか掛け合ってみるよ」
ハガネは怒りに震える拳を必死に隠して、アカネに笑いかける。
「しかしだ、アカネちゃん。水城イチコがしてた悪い事って何かな?」
「イチコはね、援助交際してたの」
「そ、それはアカネちゃんが出張る程の事じゃないんじゃないかな?」
「うん。それは別にいいの。でも、イチコは援助交際した相手を脅して、お金を巻き上げてたの。それは食べられるべきよ」
「ひ、一人でそんなことしてたのか、あいつは」
「一人?一人かは分からない。そこまで調べてないから」
アカネは体育座りのまま、考え込む。
ハガネは引き攣った顔をしていたが、やがて怖いで情報の洗い直しを始めた。
「しかし、そういう事があるとすれば、少し探ってみるべきか?携帯を調べれば何か分かるかもしれない。けど、今となっては難しいか……誰かを直接問い詰めれば……いや、今はとにかく水城マリの現場に行かないと」
ハガネはどこかに連絡を取りながら、事務所を飛び出していった。
「水城マリ……イチコの姉なら、イチコの携帯見たら何か分かるかな?」
アカネはソファから離れ、自室の扉を開けた。途端、強烈な冷気と臭気が、事務所全体に広がった。
窓ガラスが曇る程の臭いを気にもせず、アカネは部屋に入る。机の引き出しから、水城イチコのスマホを取り出した。
「電池切れてる……私の持ってるコネクターで、充電できるかな?」
スマホを充電器に挿してみると、充電中を示す赤いランプが点いた。暫く待ってから電源ボタンを押したが、画面は真っ黒のまま。起動はしているが、ガラスが割れている為に画面が表示されないらしかった。
「壊れてる」
アカネは特に調べる事もなく、スマホを床に投げ捨てた。色んなモノで埋め尽くされた床に転がり、スマホはゴミの一部として埋もれていった。
「う~ん……手がかりが無くなった……私も現場に行こうかな?駅って言ってたよね」
アカネは制服を脱ぎ捨て、ゴミの上に丸められていた黒いジャージに着替えた。着たままのジャージに消臭剤を振り掛けると、財布と自分のスマホを持って駅へと向かった。
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