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 蒼の刻に差し掛かり、美しい夜空が顔を覗かせる。繁華街の駅前は、会社終わりのサラリーマンや、夜通し遊ぶつもりの大学生などで賑々しい。

 夜はこれからという雰囲気だが、高校生にとっては、ここらの時間が今日の終わり。

 人波を避けて見つめ合う若い男女も、別れ際の雰囲気。一人は黒鉄葵で、もう一人は同じ高校の三年生、水城マリだった。

「アオくん、今日は楽しかった」

「俺も楽しかった。また遊ぼう」

「うん。またデートしようね」

「お小遣い堪ったらね」

「たはは。高校生の辛いとこね。でも、私は春から大学生。バイト余裕だし、勿論出すよ」

「ありがとう。出してもらうのは、ちょっと抵抗あるけど」

「ん~、一丁前に格好付け?いいわね~」

 二人はいい雰囲気で笑い合う。ところでと、アオは話題を変えた。

「…そう言えば、イチコはまだ帰ってないの?」

「そうなのよ、あの子。どこほっつき歩いてるのかしら?」

「心配だね」

「これまでも何日も帰ってこない時あったし、その内帰って来るでしょ。あの子のクラスに彼氏とか居ない?そいつん家じゃない?」

「クラスには居ないと思う。学年でも聞いたことないね」

「なら外の男かなあ。連絡も付かないのよね」

「警察とか行った?」

「両親が一応相談に行ったっぽい。でも、何回も補導を受けてる子だし、警察は本腰を入れて探さないでしょ」

「危険な事に巻き込まれてなければいいね」

「ま、大丈夫でしょ。巻き込まれてても自業自得、みたいな」

「あはは。妹に対して、酷いよ」

「たはは。ま、大丈夫」

 マリとアオは一通り笑うと、静かに唇を寄せた。

「またね」

「うん」

 数秒間、唇の触れ合う軽いキスをすると、二人は離れ、手を振り合った。マリは定期を使って改札を潜り、人混みの中に消えていった。

 その背中を見送るアオの顔に、先程までの恋人同士の笑顔はない。冷たく、それでいて不埒な仮面が張り付いている。

「勿体ない…なんて思い始めたのは、俺が普通になり始めたからかな?それとも一時的に飽きているだけ?」

 アオは無感情に呟き、駅から離れていく。

 神に祈るでもなく、確率を数えながら。

「いや、数字を任せるなら神じゃなくて悪魔かな?どっちでもいいけど、いい加減当たりを引きたい」

 しかし、酒臭いキスを思い出して少し後悔する。

「ただ、今回は飲ませ過ぎたかも」

 今日がいずれの日かは分からないが、夢見気分で死なれては気分が悪い。

 水城マリの現状を思い出して、僅かばかり浮かれていたらしい自分を反省した。

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