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「さて、納得させろと言われたけど、あの化け物を大人しくさせるだけの話術が俺にあるだろうか?」

 スイに使えないアドバイスを貰った次の日の昼休み。学校の廊下の窓から見える中庭では、アカネが熱心に何かをしていた。

 聞く所によると、昨日の帰り、アカネは何かの嫌がらせを受けたらしい。その嫌がらせは今日も続いていて、アカネは現在その処理をしているとの事だ。

「……いや、あの機械的な奴だからこそ、説得は不可能じゃないのかな?」

 アカネの口癖は、『映画で言ってた』『漫画で言ってた』。一見するとただのサブカル好きで、作品の影響を受け易い奴だと思える。

 しかし、学友の目からすれば『彼女の情報源は、本当にそれしかないんじゃないか?』そんな風に見えるのだ。

 アカネは実に機械的だ。毎朝同じ時間に学校に来て、いつも『普段より遅くなった』みたいな顔をしている。作業の様に面白味のない話をして、等間隔で居眠りをする。授業が終わればスイッチが切れたみたいに夕方まで椅子に座って、皆が居なくなった後に一人ぼっちで帰っていく。更に、家に置いた定点カメラには、アカネが毎晩同じ時間に家の周りを徘徊して、難しい顔をして帰っていく姿が映っていた。そして、夜2時頃にもう一度来て、家に侵入してその日のルーチン終了という次第。

 彼女はゲームのNPCの様に、状況に合わせて反応的に動く。状況が変わらぬ限り、永遠に同じ行動を取り続けるだろう。

「なら、環境の方を変えてやればいい。俺が望む動きを取る様に。どんな獰猛なモンスターでも、首輪を付ければ怖くないってね」

 アオは呟き、

 ――血で真っ赤に染まったアカネの顔を思い出した。

 ポケットに忍ばせたナイフから手を離して、中庭へと向かった。

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