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昼下がりの学校の食堂では、多くの学生グループがテーブルを囲んでいた。
食堂の端に備え付けられたテレビのニュースは、ある女子大生が行方不明になってから2年が経つだの、首相の経済政策がうまくいかないだの、お茶の間を沸かせるであろう情報を垂れ流していた。だが、学生達は提供される情報には気にも留めず、各々の話題に花を咲かせている。
限られた学生期間を謳歌するように……とまで考えている者は少ないだろうが、いつか来る青春の終わりを指居りながら、夢ではなく刹那を語り合っているのだろう。
「アオくん、ラーメン好きだよね」
「そうだね。まあ、学食のラーメンは美味しい訳じゃないけど」
「そうなの?」
「これは、ラーメンの形をした何かだね。値段相応って奴で、文句はないけど」
「お店のラーメン高いもんねー。なかなか手が出ないよ」
アカネのクラスメイトのアオとマキは、2人で仲良く昼ご飯中である。
「マキは、ラーメンとか食べにいくの?」
「行くこともあるけど、友達と行って2人で一杯とか。全部は食べられないよー」
「女子だねー。可愛らしい」
「か、可愛いなんて、そんなもう……」
アオは唐揚げラーメンをチョイスし、マキの前には手作りの弁当が広げられていた。
「マキのお弁当って、自分で作ってるの?」
「そうなのー♪って言いたいところだけど、私が作ったのは卵焼きだけ。後はお母さん作」
「マキは料理の勉強中?」
「そう。いつも1品とか2品だけ作ってる感じ」
「ふーん。卵焼きは美味しそうだけどね。ちょっと貰っていい?」
「え?え?でも、あんまり上手くできなかったし……で、でも食べたい?」
「食べたい」
「じゃ、じゃあどうぞ」
「い、いただきます」
マキは顔を真っ赤にして、自分の箸で卵焼きを掴んでアオの前に差し出した。
所謂『あ~ん♪』の体勢だ。そこまでの事を考えていなかったアオは一瞬怯む。とは言え、マキの機嫌を損ねる訳には行かないと、平静を装って卵焼きを口にした。
「うん。美味しいよ」
「良かったー。少し甘めにしてみたの」
「凄いね。俺の好みのど真ん中だ」
「アオくんの事なら、良く知ってるもの」
はーと♪とか出そうな笑顔で、マキは照れる。
しかし、少し離れた席に座る人物を見付けて、マキは微妙な表情になった。
「ねえ?アカネちゃんって、今日ずっとアオくんの事見てない?」
アカネは3つ程向こうのテーブルに座っており、食事も用意せずにアオを見ていた。
「そうだね……」
マキの言う通り、今日一日アカネに着け狙われている。昨日の件で監視されているのだろう。
このままあの化け物に追われるのは困る。ただ、アカネは話し合いをしたがっている様子であり、問答無用で返り討ちにするのもどうかと思った。
(やれやれ。どれぐらいの言葉で調整するのが正解なのかな?)
アオはアカネに向けていた視線を切って、こっそりとマキの様子を伺った。
マキは訝し気な目でアカネを観察しており、今にも嫌悪の顔になりそうだった。
「アカネは変わった奴だし、探偵ごっこでもしてるんじゃない?」
アオは、正しい攻撃性の言葉を模索する。
「そう言えば、アカネちゃんの家って探偵だっけ?まさか……アオくんを狙ってるの!?」
「俺は悪い事なんてしてないよ。あくまでも『ごっこ』だと思うよ」
「探偵ごっこ……さすがにアカネちゃんでも、そこまで子供っぽい事するかな?」
「するんじゃないかな?」
アオは曖昧に濁して、ラーメンを啜る。3口ほどスープを啜ると、マキのモヤモヤ顔を解決せぬまま席を立った。
「もう行くの?アオくん」
「うん。次の英語の宿題やってないの思い出したよ。マキはゆっくり食べてて」
「わ、私はもうお腹いっぱいだから、大丈夫だよ。それより、私の宿題見せてあげる」
「本当に?ありがとう。マキは優しいね」
「優しいなんて、そんな……うふふ」
マキは大慌てで弁当箱を片付けると、速足でアオに着いてくる。
アカネは、相変わらずバレバレな動きで、2人の後ろを付いてくるのだった。
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