第9話 a=5

そろそろ、この世界を終わらせなければならない。やっとすみずみまではっきりしてきた、この世界を。勿体ないような気もするが仕方がない。当たり前の話だが、この世界はいつか破綻する。設定が少なければ話が広がらないし、かといって増やしすぎれば崩れてしまう。少なくとも今の私に、この世界をこれ以上維持するような力量はなかった。


終わらせる、と言っても、私にちゃんとした結末が作れない事は分かりきっている。だから終わらせる、というより、終わってしまう、が正解かもしれない。少し言い訳のようになってしまったが仕方ない。スケッチブックの残りはもう僅かなのだから。いつまでも逃げてばかりは、いられないのだから。


だからせめて、整ったバッドエンドを迎えたいと思う。枯れ葉の散るのが美しいように。本当は、もっとこの世界にいたい。もう少し、物語のヒロインでいたい。でも、もっと、これ以上を望んでしまえば。私は、ただ枯れていくだけだから。数日間だけでもヒロインとして咲いたのなら、最後まで悲劇のヒロインとして散ろう。まあ、私がどう消えたって、周りは気にしないのだろうけど。


読まれない物語には、意味があるのだろうか。何も成し遂げなかった人生には、意義があったのだろうか。私は何故、生まれてきたのだろうか。生きたいと思ってしまうのだろうか。それが定めだから?何度も何度も、似たような問いを繰り返しては、黒く塗りつぶす。この真っ黒なスケッチブックは、まるで私みたいだ。

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