第6話 b=3

連日降り続いている雨は、今日も止みそうにない。こんなに日々雨ばかりなのに、何故あんな南国の夢を見るのか。そして何故、こんなにも鮮明に覚えているのか。最近何をしていても彼女の顔がちらつく。夢で見ただけのはずなのに。


同じ夢ばかり何度も見ているから、最初は驚きと戸惑いで見えていなかったものが少しづつ見えてくるようになった。相変わらずあるのは海と砂浜、そして少しの木々と岩。こんな変わり映えのない景色の中、よく毎日同じことをして飽きないな、と思う。スケッチブックの残りは、確実に減っていた。


あの世界には彼女以外いないのだろうか。もしそうだとしたら、彼女は自由だと思う。誰か知らない人が決めた”常識”ってやつが、あの世界には存在しない。あるのは、毎日続けて飽きないほど夢中になれる趣味で、それを止める人もいない。


自由とは、うまくはいえないが、ああいう事を指すのだと思う。現実世界では不可能な生き方。それなのに、僕の周りの奴らはそれをすぐに欲しがる。すぐに夢物語を語り始める。


僕にはその気持ちが分からない。誰かが敷いたレールに乗って生きている方がずっと楽なのに。何故あいつらは、そのレールを自ら壊そうとするのか。分からない。あいつもあいつもあいつも。


そういえば彼女はあいつに似ているな、と窓の外を眺めながら思う。顔もあまりはっきりとは覚えていないが。ただ、何か見たことがあるような気がする。


何故こうも彼女の事が気にかかるのか。現実世界で出会っていたなら、意味わからない奴と真っ先に切り捨てていただろうに。ノートを広げ、ペンを持つ手。何か真剣に考えこんでいる横顔。どうしても、彼女の事が頭から離れなかった。

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