第4話 b=2

夢というのは、現実からかけ離れているようで、意外と近くにある物なのかもしれない。夢の中でどんな異世界にいたとしても、空はちゃんと上にあるし、りんごは手を離せば落ちる。それはつまり、僕は僕であって、この僕の嫌な性格は変わらないということだった。何か落ちていたら拾いたくなるし、開いた事の無い本があれば開いてみたくなる。そのせいで、昨日はあのスケッチブックを開いて…目を覚ましてしまった。


また同じ夢を見るなんて偶然、もうこれ以上無いかもしれない。慎重にいこう。そう思った僕はまず、周りを観察することにした。現実世界では見たことのないはずの景色が、何故だか見慣れたもののように感じる。白い砂浜。透き通る海。ちらほらと見たことのない木や大きな岩があったりするものの、いわゆる綺麗な海、という感じだ。


その海沿いを例の少女は、昨日と同じように歩いていた。時々立ち止まっては、流れ着いた枝を拾ってふり回したり、落ちている貝殻を太陽に透かしたりする少女。その度に、ぽつりぽつり、と言葉を吐き出していた。


今日もまた、何かを書くのだろうか。そのうちに、少女がこちらへ歩いてきた。どうやら僕の前にあるこの岩が、少女の定位置らしい。スケッチブックを拾い上げた少女は、ふとこちらを見上げた。昨日スケッチブックを勝手に覗き見てしまったやましさもあったのだろうか。目が合ったような気がして思わず、逃げるように海の方へ足を進める。


波に落ちかけた夕日が移り、きらきらとその光を反射した。まるで欠けたビー玉みたいだ。揺らめく波が足元を濡らす。ふと砂浜を見ると、近くに先程少女が眺めていた貝殻が落ちていた。小さな白い貝殻。近づいて拾い上げてみた…その瞬間。


世界が暗転した。海も岩も砂浜も消えた。そして、視界を奪われた僕の目の前を、何ページ分もの言葉が流れていった。

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