第2話 b=1

変わった夢を見た。


それはとても不思議な夢だった。現実に良く似た、しかしてんで現実味の無い夢だった。あれはどこなのか。あの少女は誰だったのか…。


「人生は、まるで悪夢みたいだ。」とその少女は呟いた。そう呟いて、歩いていった。知らない少女。知らない海。一言、また一言。呟きながら歩く少女は、まるで何かに取り憑かれているようだった。


しゃりしゃり、しゃりしゃり。裸足で歩く少女の足跡は、次々と波に消えていく。神様…幻想…悲し…。彼女の言葉も波の音に掻き消され、断片的にしか聞き取れない。


一体、何をしているんだ?僕の頭の中を疑問で一杯にするその少女は、やがてこちらの方に戻ってきて、僕の近くにあった岩に座った。そして岩の影に立てかけてあったスケッチブックを開くと、おもむろに何かをかき始めた。


確かに、ここは目の前に綺麗な海もあるし、スケッチするには丁度いいのかもしれない。そう思い、少女の手元を覗いて見て驚いた。少女は絵を描いていなかったのだ。ただ大きな真っ白いページに、その大きさに似合わない小さな字で、何かを綴っていた。しかも几帳面に左上から、びっしりと。


一体何を書いているんだ…?またひとつ、増えた疑問が解決されるはずも無い。色々考えを巡らせていると、やがて書き終わったのか、少女はスケッチブックを閉じた。そしてそれを座っていた岩に立てかけ、砂浜の向こうに去っていった。


日が落ちて暗くなった空が少女の背中を飲み込んでいく。その空と同じ、黒色の表紙のスケッチブックが、ぱたっ、と小さな音を立てて倒れた。


僕はそれを元に戻そうと手に取る─瞬間、これを開きたいという衝動に襲われた。開かなければいけないような気がした。


先程少女が開いていたページにペンが挟まっていた。自制心の抵抗も虚しく、僕の好奇心はページをめくっていく。一体何が書いてあるのか…読もうとしてまた驚いた。文字が書いてあったはずのページは黒く塗りつぶされていたのだ。最初の方だけかろうじて読める…「変わった夢を見……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る