第13話 クラスと転生者
ガラッ。
教室の扉を開けるとそこにはもう殆どの生徒が集まって座っていた。どうやらユリウスが最後のようだ。
「あれ?すっごい静かだけどどうかしたの?」
そう。何故か教室内は静まり返っており、すっごい暗い雰囲気だったのだ。
わけがわからないが、とりあえず入り口の近くの席に座っている生徒に話しかける。
「ねえ、なんでこんなに暗いの?なにかあった?」
するとその男子生徒は若干震えながら顔を上げ、
「え…えと…ユリウスさん…ですよね…?」
「…?そうだけど、どうかした?ていうか、同年齢なのに「さん」付けとか敬語とかやめてほしいな。仲良くしたいって思ってるし」
するとその少年は驚いたように肩を跳ねさせ、
「じゃ、じゃあ、不躾な態度取ったからって見せしめに殺したりとか洗脳したりとかはしないってこと…?」
意味がわからない。
「え?なんで?そんなことするわけないじゃん?何、俺が魔王かなんかに見える?」
すると、クラスみんなの視線がなぜか一人の女子生徒に集まる。するとその子が手元に目を落とし…
「…大丈夫。ほんとのこと言ってる」
まるでその言葉を待っていたかのように教室内の全員が息を吐き、
「「「「「あ〜、良かったぁ〜!!」」」」」
と安堵したのだった。
その中でユリウスは、
「え、どゆこと?」
と困惑するのであった。
時は15分ほど遡り、ユリウスが廊下でトラブってる時。
4−Sの教室内。
一人の男子生徒が徐ろに口を開く。
「なあ、さっき校長が紹介してたユリウスって人、多分ウチのクラスだよな?」
それに対し、隣の女子生徒が返す。
「まあ、でしょうね…っていうかあのレベルでSってのもおかしな話だけどね」
「確かに。SSとか作んないと合ってないよな」
一応、このクラスは学校有数の将来有望な魔術師の卵が集められたエリートクラスである。
「なあダクネ、お前このクラスで一番頭いいけどさ、あのテストって100点取れるもんなのか?」
ダクネと呼ばれた少女は眠そうに目をこすりながら答える。
「無理。そもそも人類未解決の問題を盛り込んでる時点で100点なんか取らせる気ないから。何回かやったけど85が限界だった」
「それを100点取るっていうのは…」
「まあ、普通の人間には無理ってことだな」
「じゃあ、人間じゃないってこと?」
「そうだな、修練場を破壊した大規模魔法って話を含めて考えると、神の尖兵か復活した魔王辺りじゃないか?」
「魔王だったらヤバくない?特におんなじクラスの私達なんか、せ…洗脳されたりとか…」
「おい、怖いこと言うなよ!ていうか、あのオリビアさんの斡旋みたいなこと言ってただろ?大丈夫だろ」
「オリビアさんはもう洗脳されてるとか…」
「あ…あのさ…私、嘘を見抜く魔道具持ってるんだけど、それっぽいこと聞いて、嘘ついてるかどうか見るっていうのはどうかな?」
「「「それだ!!!」」」
と、いうわけだ。
「全く、人を人間じゃないだとか挙げ句の果てに魔王がどーのって言うのって酷くない?」
「わ…悪かったって…っていうか校長に人外の実力ですよって発表されたんだから警戒して当たり前だろ…?」
さっき俺が話しかけた男子が呆れたように言ってくる。
「ていうか修練場ぶっ壊したのは悪かったけどさ、筆記の点数まで頭おかしいって言われてる意味がわかんないんだけど?」
とユリウスが首をかしげると、机に伏せて眠たそうにしていた女子が何かを思い出したように立ち上がり、ユリウスに向かってきた。
「ん?どうした?」
「…ホントに満点取ったの?」
さっきまで眠たそうにしていたとは思えないほどに好奇心に満ち溢れた目でこっちを見てくる。
「もちろん、そうだけど?」
「じゃあ、来て」
彼女がさっきまで座っていた席に連れて行かれた。
「この問題、わかる?」
そう言って差し出してきたのは一つの数学の図形の問題。
「…なんだ?定期テストの分からなかった問題とか?…ええと、ここの長さがこうだろ?じゃあここは三平方の定理から求めて、そうなるとここの角度がこう確定するだろ?んで、ここは二次方程式の応用で出るから、それで更に二次方程式を展開したらxの値が分かるから、ここに補助線を引いて、ここの長さを求めれば…と。こんな感じかな?」
かなり難しい問題だった。高校入試レベルだろうか。………ん?高校入試?
「なあ、この問題見たこと有る気がするんだが」
そう言うと彼女――ダフネと言うらしい――は嬉しそうに笑みをうかべて――
「ほんと?これ、私が高校入試のときに唯一解けなくて心残りだった問題なんだー」
と言った。日本語で。
「んん?もしかして…」
「そうよー。高校に入ったのは良かったんだけど、入試でどうしても解けなかったこの問題のこと考えながら歩いてたらドーン、って来て死んじゃったんだー」
とケラケラと笑いながら言った。
「笑い事じゃねえだろ…」
「そー?あ、因みに前のお名前はー?」
「…高橋賢治だ」
「え?あの、一中出身の?内申点がゴミだったけど入試をノー勉で満点取って特例で合格したっていうあの?」
「う…なんだよその評価は。まあ、内申点がゴミだったのを担任に無理言って受験したのは認めるけどさあ…」
「やっぱり!なんか、気に入らない他校の不良をリンチしたみたいな話聞いたけど?仲間に逆襲で殺された?」
「嫌なこと思い出させるなあ…。リンチなんかしてねえよ。あいつらにはめられたんだよ。ていうか、気に入らないヤツボコるんなら正々堂々正面から証拠残さないようにボコるから」
「証拠残さないように、の時点で正々堂々じゃないよね!?」
そんなことないと思うんだけどなあ。
「んで、冤罪が晴れて油断してたとこでトラックにドーン、だ」
「わーお、そっちもノリ軽いね〜」
「なあ、あいつら、何言ってんだ?」
「わかんねえ。聞いたこともない言語だよな」
「にしても、あんなに明るくて楽しそうなダクネちゃん初めて見るよ。知り合いだったのかな?」
そうだそうだ。他の人には日本語なんかわかんないよな。
「…ああ、彼とはたまたま出身地が一緒だったの」
ダクネがそう言うと一人が納得したようにうなずいた。
「なるほどな。言語まで違う国って珍しいな。どっかの辺境か?」
「まあ…辺境っちゃ辺境だな。東の果ての島国だ」
日本が極東にあるのは定番だろう。
「へ、へえ…だからこんなにエグいのか…」
ん?どういうことだ?
「この世界では、東のほうが強いダンジョンが多いの。極東なんて、一番強い魔王が封印されてるって言われてるぐらい。私も、はじめにそう言っちゃって、慌てて訂正したけど…あなたと同郷って言われちゃうと…」
「じゃあやっぱダクネちゃんも実はすっごい力持ってるけど隠してるとか?」
「『こうなるのよ…』…いや、私は普通の人。ユリウスは私達が住んでたところでもかなりヤバい存在だった」
「ヤバくねえよ。『ていうか、なんでそんなにキャラが違うん?』」
俺と話すときと他のクラスメイトと話すときで明らかにダクネの喋り方やテンションが違う。
「う…昔から英語苦手だったのよ…。転生して、一番思ったのはなんで『言語理解』とかのスキル的なものが与えられてなかったのかってことよ。…っていうかなんで普通に喋れてんの?いくら10年経ってるとはいえ日本語も普通に喋っててここの言語もって…まさか本当にそんなスキルを…」
「持ってねえよ。ていうか多分持ってたとしたら前世の時点で、だな。小学生のころに暇すぎて英語、中国語、韓国語、スペイン語、フランス語辺りを覚えてたからな」
「暇すぎて5個も言語覚えるってどんな小学生よ!」
「
「そんなの覚えててもなんの役にも立たないからね!?」
息を荒くしてツッコむとダクネはクラスメイトの方を向き直して、
「この人頭おかしいぐらいに頭良いから、わかんないことあったら全部ユリウスに聞けば大丈夫。同郷だし、私がいれば多分変なことはしないと思う」
おい、変なことってなんだよ。
「どうせ、洗脳魔法とかも使えるんでしょ?」
「いや、流石に天才さんでも悪魔の固有魔法って言われてる洗脳魔法は…」
「まあ、使えるけど使わんよ」
「「「「「なんで使えんの!?」」」」」
その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「うるさいぞお前ら!お前らは他の生徒の見本として集められているんだ!それが何だ、朝っぱらからギャーギャー騒いで!」
30代くらいだろうか。どうやら担任の先生らしき大人が怒鳴りながら入ってきた。
「アレン先生、すみません…。ユリウス君が洗脳魔法を使えるなんていうもんで…」
一人の男子生徒がそう言うと、アレンと呼ばれた先生は嘆息しながら、
「はあ…。そんなのも使えるのか…。だがな、もうユリウスのことで驚くのはやめろ」
「でも…」
「いいか?人間が驚く時というのはな、予測していなかったことが起きた時だ。だからな、まあ言い方は変だが『ユリウスを信用しろ』ってことだ。『どうせこいつなら出来るだろ、だってユリウスだし。』って思っとけば大抵のことじゃ動じなくなるんじゃないか?」
ひどい言い草だな。最後はなんか投げやりだし。
「「「「なるほど」」」」
うん、なんでそこで納得すんの!?
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