第12話 始業式と不良貴族
「残念だが、これは私や、採点した先生が間違えたというわけじゃない。彼が自力で取った点数だ」
マジか。俺こんな点数だったの…?
とユリウスが考えていると、勢いよく手を挙げる男子生徒が一人。
「校長!その点数になる理由を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
まあ妥当な判断だ。これだけなら校長などへの賄賂や裏ルートの可能性が否定できない。
「そうだな。彼の言うとおりだ。まず、筆記試験が測定不能な件についてだが、彼は数学の問1に正解したのだ」
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
生徒全員から驚きの声が上がる。因みに問1は絶対に解けないしようになっているということはこの学校の生徒全員が知っていることのようだった。
「実はあの問題は古の大賢者が生涯をかけた末に発見した定理があるのだがその理由を、『書くスペースが足りない』という理由でほったらかしにされていたその理由を書くという問題だ」
フェルマーの最終定理か、とユリウスは心の中で突っ込む。
「私でも、というか国中の魔道士が何年研究しても解けなかったのだが、彼は見事に解いてみせた。その他にも、『無詠唱魔法のコツを記せ』という問題では『そもそも無詠唱魔法の概念が間違っていて、魔法陣をイメージすれば込める魔力を変えさえすればいくらでも簡単に無詠唱魔法など打てる』とのことだ」
「「「「「「「!?!?!?!?!?!!?」」」」」」
さらに大きな驚きの声。
「本来であれば信じられない内容なのだが、彼はそれ以外にも中級魔法の魔法陣を見ただけでその魔法の効果を正確に書いてみせた。それもその魔法陣の改善点を付け足して」
「「「「「………………」」」」」
因みに今使われている魔法の魔法陣や詠唱などは太古より伝わっているもので、誰も既存の魔法陣を改良しようなどとは考えたことが無かった。
「それに加え、実技試験ではオリジナルの魔法を使い、一発で的10個を跡形もなく消し去ってみせた。しかもその影響で修練場が壊れて修復に3ヶ月かかるほどの威力。私が実際見たわけではないが、恐らく神代の魔法にも匹敵する威力だった、というのが試験監督をしていた先生の意見だ」
神代魔法って『必滅の神雷』クラスってことだよね?やだなあ、その100分の1の威力も無いのに、とユリウスは思う。
「あの〜、それ、先生は無事だったんですか?」
一人の女子生徒がおずおずと手を挙げて質問する。
「ああ、彼が『セイクリッドウォール』を発動させて護ったとのことだ」
「『セッ!」
何か恐ろしいことを聞いたかのように女子生徒が悲鳴を上げる。
「まあ、そういうわけで実技試験の採点基準が、『的に傷をつけられる威力の魔法を10発も打てたら100点』なのだが、一発で10個の的全てを跡形もなく消し去るとなると少なく見積もっても10000点は下らない、というわけだ」
校長はそこで一旦息を吐くと、声色を変えて真面目に話し始めた。
「さて、正直に言って彼は規格外だ。この学園にいても何も学ぶことは無いと思う。だが彼はこの学校に編入することに決めた。その理由がなんだか分かるか?」
『冒険者になりたかったけど年齢が足りなかったからっていうのと成り行きで』ですよ?
「彼は『この学校のシステムが良い』と言っていたが、オリビア商会の代表、オリビア・バーリエンスさんによると、『彼はその力のせいで今まで友達ができなかったのです。それ故にあまり人の気持ちを考えない発言をしてしまいますが、彼は人の温もりを欲しています。だからこそ貴校に編入したのです』とのことだ」
嘘だろ?俺、オリビアにそんなこと言ったっけ?
「つまり、彼は恥ずかしくてごまかしていはいるが、友達を作りたくて来た、ということだ。人外とも思える規格外の力を持っているのは確かだが、逆に全く足りていない部分もある。それに、出処が全く分からず、古の大賢者をも彷彿とさせるその知識はきっとそなたらの学業に良い影響をもたらすことであろう。そして、それを彼から教えてもらうと共に、彼に人間の温かみを教えてやってもらいたい」
友達…か…。全くほしくないわけではないが正直いらない。どうせ何かあったら裏切るんだし。もう俺にはあいつ以上に気の合う友達は出来ないだろうしな…
体育館中が静まり返る。誰一人拍手するでもなく罵声を浴びせるでもなく、全員がただ校長の次の言葉を待っている。
「というわけで、彼はこの学校の一員となった。別に彼と敵対するなだとか彼に媚び諂えなどとは言わん。ただ、彼を普通の生徒と同じように扱ってやってほしい。…っていうか儂の話がほとんどユリウスに取られてしまったな。もう終わりの時間か。よし、解散!教室に戻って学業に励め!」
校長の号令で生徒たちは各々の教室に帰っていく。
そんな中…
〈ある男子生徒たち〉
「おい、あいつ何なんだ?滅茶苦茶校長に気に入られてるみたいだったが…」
「知らねえ。実は王家の隠し子とか?」
「ばっか、そんなんが学校なんか来るわけねえだろ」
「ていうか、試験の点数がどうのみたいなのってマジ?」
「さあ?そーいや、編入試験に使われたらしい修練場が使用禁止になってたな」
「ああ、知ってる!なんか、壁がボロボロでクレーターが出来てるって噂だぜ?」
「うわマジかよ。確かアレって宮廷魔術師様が精一杯の魔法をかけたんじゃなかったっけ?」
「そのはずだ。てことは…」
「ああ、宮廷魔術師をも超える実力の持ち主ってことだよな」
「うっわやっべえ、どうやったら10歳でそんな実力がつくんだよ」
「さあな。もしかしたらえげつない修羅場をくぐり抜けてきたのかもしれないぜ?」
「もしかしたら山奥の賢者のところで修行してたのかも」
「どっちにしろ、規格外に強いってのは確かだろーな」
〈ある貴族と取り巻きのグループ〉
「ふん、どうせ校長に賄賂でも渡したのだろう。私ですら80点が限界だったあの試験で満点などありえんからな」
「満点どころじゃありませんよ…測定不能なんて初めて見ましたよ…」
「あんなやつに喧嘩売るのはやめといたほうがいいんじゃ…」
「うるさい!つまりお前らはあのユリウスとかいうクソガキが俺よりも実力が上だと、そう言いたい訳か」
「「い、いえ、決してそういうわけでは…」」
「チッ、いいか?常識的に考えろ。幼い頃から公爵家という最高の環境で勉学と魔法訓練に励んだ私でも試験の点数は80/70が限界なのだ。それをまともな訓練の設備もないはずの平民のガキが測定不能だあ?なにかしらの不正を働いたに決まっておるだろう!」
彼は公爵家の跡取り息子で、幼い頃から血の滲むような訓練をしてきたそうだ。
「てことはあの試験でバレずに不正できるだけの権力か実力があるってことじゃグフッ!」
顔面を殴られた。血が数滴飛び散った。
「ほーう、お前が俺を舐めているのは分かった。もう父上に頼んでお前の家を取り潰してもらうことに決定した」
「ッ!そ…それだけは…」
「あとついでにお前を殴った手の皮が少しめくれてしまったじゃないか。この慰謝料もたっぷり請求させてもらうとしよう」
「ッ!…」
言い返してやりたいが、相手の立場が立場なので下手なことは言えない。しかしこのままだと親に迷惑が‥‥
「どうした?喧嘩か?…いや、イジメか…?まあいい、『ヒール』『クリーン』」
不意に現れた声が呪文を詠唱すると、口を切った傷がひとりでに治り、廊下に飛び散った血が何もなかったかのように消えてきれいになる。
「あ…あなたは…」
「ん?ああ、転校生のユリウスだよ。まあ、あの校長にあんな紹介の仕方されちゃ、嫌でも覚えちゃうと思うけどな」
「ッッ!貴様!」
「ああ、お前も手、怪我してるんだったな。『ヒール』」
彼が三度呪文を唱えると、ヤツの手の皮が元に戻る。
にしても、さっきから違和感が…
「あの〜、さっきから魔力漏れを感じないんですが…」
そう、彼が魔法を使うときに漏れた魔力を全く感じないのだ。
「ん?ああ、漏れてないからな」
「「「は?」」」
漏れてない…?彼はそういったのか?王都最強の魔術師でも5%は魔力漏れしているらしいが…
「ふ…ふん!どうせ元から術式を構築していただけのことだろう!ちょうどいい。貴様、どこの家のものだ!」
「いや、どこの家って言われてもな…名もない村の平民の出だとしか…」
「嘘を吐くな!では魔法の訓練はどうやってやったんだ!」
「本を読んだりして、自力でとしか…」
「なら何故ずっと英才教育を受けてきた俺よりいい点数を取れるんだ!?」
「才能と努力の差としか…」
「ッ!貴様、平民のくせにこの俺を馬鹿にするのか!この俺に、才能も無ければ努力もしてないと、そういうのか!」
「じゃあさ、今まで魔力切れで倒れたことある?魔力の過剰供給で倒れたことある?今までの魔法理論で間違ってるところにいくつ気付いて、自分で改善案を出して最適化したことある?」
「…ない…が…」
「じゃあそういうことだ。初対面でこんなこと言うのもアレだけど、君、努力が足りてないと思うよ。伯爵家のお坊っちゃんだからってみんなが優しくしてくれてたんじゃない?」
「巫山戯るな!俺はブラッドグリズリーを倒したことがあるんだぞ!」
「「おお〜」」
いつの間にか周りに集まってた野次馬から称賛の声が上がった。ブラッドグリズリーはBランクの魔物で、普通の学生が討伐できるような強さではない。
「へー、もしかしてその熊ってランドイーターとかいうドラゴンより強い?」
「は?ランドイーター?あの土龍か?そりゃ、さすがに神話級のドラゴンと比べたら比べるまでもなく下だが…」
「へー、あれ、そんな強い感じだったんだ。まあ、てことはつまり俺と気味の実力差は最低でもそれぐらいあるってことだよ」
「…まるで神話級のドラゴンを単独討伐できるみたいな言い方だな」
「ん?ああ、あれぐらいなら余裕だしな」
そう言って彼はどこからともなくほぼ真っ黒の大きな魔石を取り出す。
「ほら、これがランドイーター?の魔石」
ドンッといって黒い魔石が地面に落ちると周りが急に騒がしくなる。
「おい、土龍っつったら騎士団と魔術師団総出でかかっても返り討ちに遭ったっていう…」
「もしかして、その魔石?」
「あ…あんなにでかくて濃度の濃い魔石、他にねえだろ…」
「どっかで買ってきたとか…」
「アホか、あんなの売ってるわけねえだろ?っていうかさっきもしかして収納魔法使ったんじゃないか?」
「え?収納魔法ってロストマジックだよな?そんなの使えるとか…」
「少なくともこの国の精鋭よりは上ってことだ…」
「ええい、うるさい!コレがあのドラゴンの魔石だと?巫山戯るのもいい加減いしろ!おい、俺と勝負しろ!神話級の魔物を倒せるというのならその実力を見せてみろ!」
「いいけど…」
「なら決まりだ!放課後、修練場に来い!ボッコボコにしてやる!」
彼は肩を怒らせながら自分の教室に戻っていく。
うわあ…大変なことになったなあ…。
「はあ…権力を歯牙にかける馬鹿はいないって聞いてたのにな…」
どうやら、彼は権力を振りかざす奴に人一倍忌避感を抱いているようだ。
同じく自分に割り当てられた教室に歩いていくユリウス君に話しかける。
「ユリウス君」
「ユリウスでいいよ」
「じゃあユリウス、さっきはありがとう。こんなこといっちゃなんだけど、あいつのヘイトが君に向いたおかげで何とか僕は家族に迷惑をかけないで済みそうだよ」
「えーっと、君は?」
ああ、自己紹介がまだだったね。視野が狭いのが昔からの僕の悪いところだ。
「僕はアルバス・マクラーゲン。子爵家の次男だから、一応は貴族って感じ。ああ、勘違いしないでね、僕はあいつみたいに権力を振りかざしたりはしないし、なんなら平民相手でもお互いにタメ口で喋ったりして仲良くなりたいと思ってる。よろしくね」
「へえ、いい貴族もいるんだな。…今まで出会った貴族があいつとオリビアぐらいのもんだったからあんまりいいイメージが無かったていうのもあるが」
そーいや、オリビア商会の会長さんの推薦で編入試験受けることになったんだっけ?
「え?すっごい辣腕のやり手の人って感じだけど?」
「仕事面ではそうなのかもしれないけど、精神面が幼いというか、鬱陶しいというか…」
「なんで知り合いに?」
「ああ。ちょっと盗賊に襲われてたのを助けただけだよ」
「『だけ』じゃない!」
「え?」
「知ってるよ?っていうか噂になってるよ?オリビアさんが『アルティメットマジシャンズ』に襲われて助けられたって。まさか君のことだったんだ…」
エグい。そこらへんの精鋭の騎士よりも強いと言われてるあいつらより強いなんて…
「なあ、ユリウスってどんだけ強いんだ?」
「さあ?あんまり強いやつと戦ったこと無いからわかんないな」
「神話級の魔物も弱い部類に入るのか…」
「ていうか俺、クラスどこかわかんないんだよね。4−Sって言われたんだけど…」
「あー、やっぱSか。じゃああっちだ」
ユリウスは一言「ありがとう」と言うと僕が指差した方の階段をのぼって4−Sの教室に向かった。
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