第11話 面接と、セレーナの…

「あ、宿からどれくらいかかるか分からなかったので予定より早く着いてしまいまして…」


最近、いらんことばっかりしてるせいでこんな微妙な嘘を吐いてばっかりな気がするな。やっぱ自重しよ。


「あれ?確かあそこの宿にはセレーナさんがいたはずですが…一緒に来なかったんですか?」

「!え、えーっと、ついでに色々説明とかしてもらいながらゆっくり来る予定だったんですが思ったより早く着いちゃったんですよ」


ほら、こうやってボロが出る。


「…?そうですか。じゃあ、ちょっと早いですが面接試験の準備は出来てるので付いてきてください」


俺に背を向けて歩きはじめたので俺も付いていく。


そのまま階段を上って…


「あれ?昨日受付したのも筆記試験したのも確か一階でしたよね?」

「ええ、面接試験は校長室で行うので三階ですよ」


へえ、校長室で…


「え!?校長室!?もしかして面接の相手って…」

「校長先生に決まってるじゃない」


うわあまじか。




そうこうしている内に校長室についてしまった。なんかこう、すっっごい高そうな偉そうな扉。それを見ただけで無条件に緊張してしまう。


「では、今から面接試験を始めます。どうぞ」

「はい」


面接試験の方法は前世の高校入試で習った。大丈夫なはず。俺は扉を三度ノックする。二回だとトイレを叩く意味になるので失礼なんだとか。


「入りなさい」

「失礼します」


扉を開けて一礼。その後中に入り、後ろを向いて扉をそっと閉めて一礼。後ろ手で閉めるとアウト。

顔を上げると、校長と思しきマッチョの厳ついおっさんが豪華で派手な意匠の凝らされた机の上で手を組んで座っている。その前には簡素な普通の椅子が一脚。

俺はその椅子の隣までいって気をつけ。

いきなり座るとアウト。


「座りなさい」

「失礼します」


一礼して、座る。


「さて、君の名前は?」

「はい、ユリウスと申します。平民の出なので家名などはありません」


返事をする時はいちいちはい、と言ってからだそう。


「ふむ。ではユリウス君、本校を志望した動機は何かね?」

「はい、貴校の教育方針に強く感銘を受けました。たゆまぬ努力を重ねたものが将来有利になり、それを怠ったものは将来苦労するシステム。これは本当に素晴らしいと思います。最高峰の設備もあり、私が勉学に励むのに最高の環境であると思いました」


さっき聞いた情報を元に適当なことを言ってるだけである。本心は、『冒険者になろうと思ってたけど年齢が足りなくてなれなかったので仕方なかったので成り行きで受験することになりました。』だ。


「ふむ。確か君は10歳だったね」

「はい」

「では、何故そんなにもしっかりとした受け答えができる?平民の出で、捨てられていたのをオリビア君が拾ったと聞いたぞ?」

「お答えできません」

「何故」

「この面接に於いてそれは関係のないことだと思いますが」


内心ドッキドキである。


「…ふむ。まあそれもそうだな。では筆記試験の解答の内容や実技試験で放った魔法について聞こう。まず、筆記試験の解答内容から察するに無詠唱魔法を使えるようだが?」

「ええ、使えますよ」

「誰に教わった?」

「魔法の基礎は母から。それ以降は本を読んだりしながらですがほぼ独学です。実技試験で使った魔法も自作した魔法です」

「待て待て待て待て。今、魔法を自作したと言ったのか?」

「はい。色々な本を読んで魔法陣をたくさん見ている内に法則性などが分かってきまして、それで試しに作ってみたらできたので以後重宝しております」

「…はあ。因みに実技試験で使った魔法はどんな魔法だ?」

「はい。通常の詠唱魔法のファイアボールを一万倍くらいに圧縮したものを10個圧縮し、それに高速回転を加えて爆発魔法で射出するというものです。流石に修練場の壁などが持ちそうになかったので一時的に結界魔法で保護しましたが」

「その結界魔法も?」

「いえ、ただの『セイクリッドウォール』です」

「ただの最上級結界魔法ってなんだ!!!!…もういい、来なさい!」

「え?」


なんと、そのまま校長に手を引かれて連れて行かれる。

マジでわからない。前世では面接試験でいきなりどこかに連れて行かれるなんて聞いたこともなかったぞ。


暫く歩くと、少し薄暗い廊下で立ち止まって、


「そこで少し待っていなさい」


そう言うと校長は小さな扉からなにかの部屋に入っていった。


パタン。


「ふう〜…」


壁にもたれて息を吐く。


超緊張した。面接試験なんか前世じゃやったことなかったていうのもあるがこんなにも緊張するものなのか。まあ、何故かかなりイレギュラーなことがあったからだろうが。


…っていうか俺、完全に前世の感じで面接したけどもしかしたらヤバいかもな。俺の他にも転生者がいないっていう保証は無い。もしあの校長の知り合いとかに日本からの転生者がいたりしたら完全にバレる。そうなったら面倒くさいことになるって確定してる。


「来なさい」


そんなことを考えていると、声をかけられる。

見ると、30代くらいの教師がさっき校長が入っていった扉から半身乗り出して手招きしていた。


「あ、はい」


俺は何もわからないのでとりあえずその教師についていって中に入る。


するとそこには――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はあ…。なんなのよあいつ…」


セレーナは、教室の自分の机に突っ伏していた。


「年下なのに妙に大人ぶってて、飛行魔法使えて、『アルティメットマジシャンズ』壊滅させて、挙げ句の果てにあのアレスをボッコボコにしたなんて…非常識にも程があるわよ…」


そう。ユリウスのことで悩んでいた。元々は、宿を経営している父親に『あのオリビアさんと何故か仲の良いあの小僧と仲良くしてたらもしかしたら商会に優遇してもらえるかもしれないだろ!なんならオトしちまえ!』と言われたからとりあえず一緒に学校に行こうと誘ったのだ。


「当然だけど私なんかに興味なさそうだったしなあ…。もしかしてオリビアさんに気があるとか?…もしかしてもう両想いとか…?」


そんなことを考えると何故か胸がキュッとする。


因みに、前述の通りセレーナはかなりの美少女で、すごいときで週イチで告られるくらい。そのほとんどが公爵とかの身分の高い貴族だったりするので断るのに苦労してたりする。そんな彼女が気になる相手なんていなかったのだが…


かなりのイケメンで、めちゃめちゃ強くて将来が確約されてるような男にいきなりお姫様抱っこされて空を飛ばれたらそんなの落ちないわけがないというものである。テンプレ的には悪漢から助けるなどがあるだろうが、そんなのしたらもうメロメロになってしまう。それがなくてもかなり夢中になってしまっているのだが。



「おっはよー!あれ?セレーナちゃんがいる!なんでこんな早い時間にー?っていうかどうしたどうした?恋の悩みか〜?このマリアちゃんが相談に乗ってあげようか?」

「マリアちゃんは初日から相変わらず元気だね…」


この異様にテンションの高い彼女はマリア。セレーナの学友。


「っていうか恋なんてもんじゃないわよ。ちょっと面倒なことがあっただけ。ただ、そっから体調がおかしいのよね…。なんというか息苦しいというか心臓が痛いというか…」


本人はこれを恋であると自覚していない。


「へえー、あのセレーナが恋してんの?」


そういって声をかけてきたのはまあまあイケメンの好青年といった感じの男子。ハインリッヒ・ヴィンディケート。伯爵家の坊っちゃんである。


「あ、ヴィンディケート様、おはようございます」

「やだなあ、ここじゃ身分なんか関係ないんだからハインリッヒって呼んでって言ってるじゃないか」

「そうですか。じゃあセレーナちゃんに近づかないでください。あなた前にセレーナちゃんにフラれてましたよね?ストーカー化するバカが多くて困ってるんです」

「「……」」


二人とも絶句する。


「ね、ねえマリアちゃん?その言い方なちょっときつすぎるんじゃない?ハインリッヒ君はただ話しかけてきただけだよ?」

「ふっふーん。甘いね、セレーナちゃんは。こういう金持ちは一回駄目だったからって諦めるような人間じゃないのよ。なんなら手篭めにして無理矢理自分のものにしようって輩だっているのよ」

「いや、私なんかにそんなことする人なんかいないよ」

「…もうちょっと自分の容姿についての自覚を持ったほうが良いわよ。ねえ、セレーナってかなりの美人よね。無理矢理襲っちゃうくらいには」

「ん?ああ」

「ッ!ハインリッヒ君ってそんな人だったの!?」

「違っ!そういう意味じゃっ!」

「ほらね〜。男なんてみんな獣なのよ。気を許したらすぐにセレーナちゃんの処女奪おうとするんだから」

「ハインリッヒ君…」


セレーナが悲しみを込めた目で見る。ハインリッヒ君、涙目である。


その姿に、いつの間にか登校してきていたクラスメイト達は憐れむような目でハインリッヒを見ている。


「おーい、そろそろ始業式始まるから廊下並べー」


いいところで担任の教師が来て声を掛けると、それぞれ廊下に出て体育館に向かう。


その途中でマリアが何かを思い出したように声を上げる。


「そーいや、今年から編入生が来るんだって。先生に情報聞き出そうとしたら10歳ってことしか教えてくれなかったんだけどどういうことかな?なんか特別なお方とか?もしかして王子様とか!」

「いや、普通の平民よ。ただ…」

「ただ?」

「ううん、見てれば分かると思うわ」

「ふーん…」


編入生のことを聞いた時のセレーナの反応でマリアは思う。

(ふーん、その編入生とやらがセレーナちゃんの初恋の相手か…こんなにもメロメロにしちゃうなんてどんなやつなのかしら?)


そして生徒たちは体育館に到着し、始業式が始まる。

はじめは恙無く進行していったが、『校長先生からのお話し』の前に教師がざわつき始める。


「ねえ、何があったんだろ」

「なんか、校長先生が遅れてらしいわよ」

「え?あの校長先生が?」

「なんでも、編入生と何かあったみたいで」


『次は校長先生からのお話しです』


マッチョの校長先生が壇上に現れる。


「さて、今年の休暇は楽しく過ごせたかな?欠かさず鍛錬に励んだもの、家族で旅行などに行ったもの、友人と楽しく過ごしたもの。様々な過ごし方をしてきたと思うが、今日からは新学期が始まる。休暇を遊んで過ごしていたものが悪いとは言わんが、今日からは気持ちを切り替えてしっかりと学業に励んでもらうことを期待する。そこで、今年から新しい生徒が我が校に加わることになった。彼はきっと諸君の学校生活に新風をもたらしてくれることだろう。…おい、彼を呼んできたまえ」

「はい」


校長が近くの教師に指示を出すと舞台裏に消えていった。

それから程なくして、その教師は一人の少年を連れて戻ってきた。少年は生徒の視線を一身に受けていることに気付くと困惑したように校長先生の顔を見た。


「彼はユリウス。先程面接試験を終えて編入は決定した。せっかくなので、少し時間をもらってユリウス君の紹介をしようと思う。」


校長はどこか気の抜けた、何かを諦めたような声でそういうと、自分の後ろの壁に向かって手をかざし、なにやら呪文を唱え始めた。

どうやら、何かを投影する魔法のようだ。


「おい、嘘だろ?」

「あれ、校長が魔法ミスったってこと?」

「いや、あの校長がこんなところでそんなミスするとは思えねえ…」

「ってことは…」


生徒が見ている、投影された映像はこれだ。



ユリウス(10)


ステータス・・・測定不能


筆記試験・・・測定不能/300


実技試験・・・測定不能(最低10000)/100


面接試験・・・100/100



「「「「「何これ!?」」」」」

「えっまじで何これ…」


最後の声はユリウスである。

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