第10話 登校!

あくる朝。俺は緊張した面持ちで朝の準備をしていた。結果はどうでもいいにせよ、やっぱ試験の合格発表とか緊張するじゃん?


コンコン。


唐突に部屋のドアをノックする音が。


「どうぞー」

「失礼します」


そう言って入ってきたのは俺と同じくらいの身長の女の子。獣人のようで、猫っぽいケモミミが付いている。華奢な体型で、輝くような銀髪を肩の高さで切りそろえ、人懐っこそうな笑みを浮かべた美少女。すんごい美少女。


「もうそろそろ出発のお時間かと思います」

「む、もうこんな時間か、ありがとう。…あれ?その格好は…」

「ええ、学校の制服です。私も王都立魔術学校に通ってますので」


へえ、そうなんだ。知らなかった。


「それで、ですね。どうせなら一緒に登校しませんか?編入されるんでしたら色々と知らないこともあるでしょうから」

「ああ、分かった。もうちょっとで終わるから少し待っててもらえるか?」

「はい、わかりました。ロビーでお待ちしていますね」


そう言って彼女は部屋を出ていく。あ、名前まだ聞いてなかったな。


俺は手早く準備を済ませ、ロビーに向かう。


「お待たせ」


「では行きましょうか」

「ああ、俺はユリウス。よろしくな」

「へえ、格好いい名前ですね。私はセレーナです。よろしくお願いします」

「…その他人行儀な敬語どうにかならないか?今からは従業員と客じゃなくて学友なんだから」

「……!…分かったわ、ユリウス君」


何故一瞬詰まったのか。何故ありがとうなのか。色々と疑問は残るが今はいい。時間もヤバいので俺たちは学校に向けて出発した。



「ユリウス君って何歳?」

「今は10歳。今年で11になるかな」

「へ〜、年下なんだ、そうは見えないね。あ、因みに私今年で12歳よ」


まあ、精神年齢はもうすぐ28だからな。


「じゃあさ、オリビアさんとはどこで知り合ったの?拾ったって言ってたけどあのオリビアさんがあんなに心を許すなんてありえないわよ」

「そうか?すぐに騙されて誰にでもほいほいついていきそうだけど」

「そんなわけないでしょ!あれだけ疑り深くないと王都最大の商会の会長なんてやってられないんだろうなあって日々実感してるぐらいよ」


嘘だろ?あのオリビアが疑り深い性格?


「知らん。ちょっと助けたらすっごい気に入られただけだけど」

「助けたって…何から?もしかして魔物?」

「盗賊団」

「もっとやばかった!…え?もしかしてあの『アルティメットマジシャンズ』?」

「ああそうだが…なんで知ってんの?」

「知ってるわよ!最近『アルティメットマジシャンズ』が倒されて、その報告をしたのがまだギルドに登録すらできない少年だったって言うんだからもう噂は王都中に広がってるわよ。え、本当にユリウスくんが殺ったの?」

「まあそうだが…たまたまだしそんなに思ってるほどすごいことじゃないよ」

「それをすごいことじゃないって言ってる時点でユリウスくんがどれだけ常識無いのかが伝わってくるわ」


失礼な。常識の塊だよ、こっちは。


「うーん、じゃあさ、編入試験の実技でどんな魔法使ったか見せてよ。私こう見えても首席に近い成績取ってるから大体の魔法なら防げるわよ」


そう言ってセレーナは俺から10メートルほど離れたところに立つ。


おいおい、こんな街中で魔法ぶっ放させる気か?なんか、衛兵とか飛んできそうじゃないか?


「おい、本当に良いのか?俺は少なくともあのアレスとかいうSランク冒険者様よりは魔法上手だぞ」


今知ってる中で一番有名そうなやつの名前を出しておく。こんな街中で魔法使うとか面倒ごとの臭いしかしないじゃないか。


「「「「「!?!?!?!?」」」」」


すると、セレーナだけでなく周りを歩いていた他の人たちですら立ち止まってこちらをまじまじと見ている。


ヤバい、やっちゃったか?これ。


「ね、ねえユリウス君?君、もしかしてあの勇者とまで呼ばれてる冒険者より魔法上手いって言ったの?」

「あ、ああ。でもあいつ魔法より剣術とかのほうが得意そうだったし、あんま参考にならないんじゃないか…?」


そうだ、真剣勝負で剣術だけで勝負とか言ってくるんだからあんまり魔術は得意じゃなくて剣術をメインとしたタイプなんだろ。


「何言ってるのよ…。剣術だけじゃなく、魔法含め色々なことが冒険者の中でトップクラスだからこそ勇者って呼ばれてるのよ?……!ちょ、ちょっと来て!」


そう言ってセレーナは俺の腕を引っ張って路地裏に引き込んでくる。


「おい、なんのつもりだよ。…流石にいきなりそういうことをしようとするのはどうかと思うぞ」

「違うわよ!もしかして昨日ギルドで勇者をボコボコにした子供ってユリウス君のことなんじゃないかって思ったの!」

「まあそうだが」

「やっぱり!」


なんだろ。すっごいこの子オリビアに似てる気がする。


「はあ…。もうユリウス君がどれだけ規格外なのかが分かった気がするよ…」

「そうか。ていうかこれ時間大丈夫か?出発した時間的にかなりギリギリだったっぽいんだが」

「…あ!やばっ!遅刻しちゃう!」

「なあなあ」

「何よ!変なことしてるせいで遅刻しそうなのよ!?」


大体の原因はセレーナだったと思うんだが。


「遅刻するのと、今から俺が何しても絶対に大きい声を出さないって約束するの、どっちがいい?」


言った後で気付いた。これ変態の発言や。


「ッ!何する気?っていうか静かにしてたら遅刻しない方法があるっていうの?」

「ああ、約束する。っていうか下手に叫んだらうっかり過失致死しちゃうかもだけど」

「何その不穏な発言!?…いいわよ、絶対声出さないから早くして」


そう言って途端に顔を赤くした。やっぱこういう想像しちゃうよな…。もっと誤解を生まないような言い方を身につけないと…。


っていうかここまで覚悟するほどに遅刻したくないってどんなバツがあるんだよ…。



後から知ったことだが、始業式とかの重要な学校行事で事前連絡なしに遅刻or欠席すると成績がガタ落ちするらしい。自称トップクラスの優等生らしいからそんなことで成績を落とされるのは我慢ならないんだろう。


「分かった」


俺はそう言うとセレーナを両手で抱え、『認識阻害魔法』をかける。これは、分かりやすく言うと『自分の存在を希薄にして周りから認識されないようにする魔法』なのだが、無詠唱で多めに魔力を込めてやると完全に透明化する。


「え?あれ?私のからだがなくなってる!?」


セレーナが自分の身体が見えていないということはしっかりとかかっているということだ。


「歯あ食いしばってなー」

「え?ちょっ!?」


そのまま『身体強化』をかけてジャンプし、飛行魔法で学校に向かう。


セレーナは約束を思い出したのか全力で歯を食いしばっている。


そのまま二分ほどが経過し、俺たちは学校の裏手に着陸した。


「…嘘。まさかこんなに早く着くなんて…。っていうか何したの!?飛んでたよね!?」

「ああ、飛行魔法だな。あとは認識阻害と身体強化、風圧を抑えるための風魔法ぐらいだな」

「…そんな詠唱聞こえなかったけど?」

「そりゃ、そんなのいちいち詠唱してたら時間が掛かって仕方ないだろう?」

「無詠唱ってことね…。しかもそれを重ねがけなんて徹頭徹尾人間業じゃないわよ…」

「っていうか元気無いな。どうしたんだ?遅刻しないで済んだんだし良かったじゃないか」

「それが無自覚ってとこがヤバいわね…」


…セレーナまでこんなことで驚くなんて…


「なあ、学校で教えてるなかで一番難しい魔法って何だ?」

「え?そりゃ大体は上級魔法の詠唱と理論を覚えて、大体の中級魔法を安定して放てるようになることが卒業条件だからね、飛行魔法なんて頭おかしい魔法教えないわよ」

「大体のってどういうこと?」


かなり曖昧じゃないか。

するとセレーナは苦笑しながら答えた。


「そりゃ、人によって魔法の習熟速度とか違うわけだからみんながおんなじ卒業条件だったら卒業できない人とか一瞬で卒業しちゃう人とかでちゃうでしょ?だから、試験の成績とかから先生が課題を出すの。それを達成できたら卒業、できなかったらもう一年最高学年をやり直すの。大体留年無しで卒業できるのは学年で半分くらいよ」


なるほど。ってことはできるだけまあまあの成績を取って楽な条件で卒業させてもらえればいいんだな。


「ねえ、わざと手を抜いて楽しようとか思ってない?」

「あっばれた?」

「やっぱりね!でも、本気でやったほうが良いわよ。学校での成績によって就職する時の推薦内容とかが変わるの。良い成績で卒業したほうが卒業後に楽できるのよ」


なるほど。若い内にしっかり努力しようとするやつは良い仕事に就きやすいし、逆に遊んでばかりいるやつは将来苦労すると。学校が少ないなりに差別化を図って生徒の向上心を上げる…。いいじゃないか。


「何やるにしてもアドバンテージもらえるなら頑張ったほうがいいよな…。そーいや、卒業課題ってどの魔法を覚えるとかだけ?」


論文とか自由研究的なことさせられたら嫌だな〜…。


「成績優秀者の一部は課せられた課題に沿った論文を書くことになってるわよ。課題って言っても大体この分野で、みたいな感じで決められてるだけだから楽なもんよ」

「………」

「うわあ、物凄い嫌そうな顔ね。まあでも飛行魔法の使い方とかについて書けばまあ余裕で合格でしょうし、あまり気にしないでいいわよ」


ならまあ…。


といったところで派手できらびやかな魔術学園の校門に着いた。


「うわ、まだこんな時間なのに着いちゃった…。改めて飛行魔法エグいわね…」

「そんなでもないよ。なんなら今度使い方教えるから」

「ホント!?約束ね!じゃ、また後で!」


といってセレーナは教室の方に駆けていった。


「さて、と…」


俺が行かなきゃいけないのは編入の受付をしたところだから…。


「あれ?もう来てたの?」


と、場所を思い出してる最中に声をかけられた。見ると、昨日俺の試験監督をしていた女性教師だ。

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