第9話 お買い物
「…あれ?俺たち確か…」
どうやらノワールが離れたことで彼女が使っていたであろう幻惑魔法かなにかが解けたようで、周りの冒険者たちが次々と正気を取り戻していく。
それにしてもこれだけの人数に一気に魔法を掛けて平然としてたしな…。もしかしたら俺以上とは言わなくてもかなりの魔力量を持っているのかもしれない。そして、この世界では自分の扱える魔力を増やす方法は知られていないとのことだったので俺と同じ転生者という可能性があるか?あるいは…
「ねえ!ユリウス!」
目の前まで迫ったオリビアの声で目が醒める。
「大丈夫だったの?あいつ、ズルしまくってたんでしょ!?しかも魔法で不意打ちして逆に負けるとかありえない!なんであんなのが勇者って呼ばれてるのかしらね!?」
どうやら俺がヤツを倒したところまでは見ていたようだ。…っていうか俺のことでそんなに憤慨してくれるのは素直に嬉しいんだが周りの冒険者の男たちの視線が痛い。もしかしてオリビアってモテるのか…??
「ああ、大丈夫。ズルしないと勝てないような奴には負けないよ」
「…そういう問題じゃないんだけど…」
すると、ゴツいおっさんが俺達の間に割って入ってきた。
「…おじさん誰?」
「俺はエルヴィン。ここのギルドの支部長だ。あの『勇者』アレスが決闘するって聞いたもんだから来たんだが…まさかあそこまで屑だったとはな。あいつはとりあえず最低でも降格処分にするとして、お前にも話を聞かないといけない。相談室まで同行してもらえるな?」
「申し訳ありませんが、この後予定が詰まっておりますし何を聞かれてもお答えするつもりはありませんのでお断りさせていただきます」
「……そうか、仕方ない。あいつが負けるほどの実力なら俺が力ずくでなんて無理な話だし今回は諦めよう。また気が向いたらまた話に来てくれ。おい、お前ら!解散だ!さっさと仕事にいきやがれ!」
エルヴィンが周りの冒険者に声を掛けると次々とその場を立ち去っていく。
残ったのは俺と支部長とオリビアだけ。人望がある良いギルド長のようだな。
「じゃあ、そろそろ僕たちもお暇させていただきますね」
「ああ、15歳になったら是非ウチに登録に来てくれ。お前ほど強いやつなら大歓迎だ」
俺たちはその場を離れ、本来の予定通り買い物に向かう。
これから何を買うかやノワールの正体についてなどいろいろなことを考えながら歩いていると、不意にオリビアが話しかけてきた。
「ねえユリウス、さっきアレス?との決闘の時にさ、いきなりあいつの身体強化が切れたじゃない?あれってユリウスがやったのよね?」
「ん?ああ、前にオリビアに魔力の取り込み方を教えただろ?その時の結界魔法の応用だよ」
「…へえ、相手の強化を剥がすこともできるんだ」
「…なんなら魔力を全部奪って生命活動を止めることだってできる」
「ん!?今サラッとすっごい怖いこと言った!?あの時私を殺せたってことだよね!?」
「なんなら今すぐにでも0.1秒で殺せるけど…?」
「!?」
オリビアが身体をビクッとさせ、ゆっくりこっちを見る。あの馬鹿のせいで荒んだ心が何故か癒やされる…。
「いや、流石に理由もないのに殺さないって。っていうか俺って何買わなきゃいけないんだっけ?」
強引に話を逸らす。
「理由なく、じゃなくて絶対にやめてよね!…はあ、それで買うものだけど…確かなんにも持ってきてなかったでしょ?まずは日用品とそれから…」
しっかりと誤魔化されてくれる。これがオリビアのいいところだと思うんだよなあ。
…商人には向いていないと思うけど。
そんなこんなで店を廻り、ある程度揃ったところで、
「ふう、今日はこんなもんにしときましょうか」
「あれ?結構まだ必要なものがあるんじゃ?」
そう。今まで買ってたのは本当に必要最低限って感じでまだ必要なものは山ほどある。
「もうこれ以上持ちきれないでしょう?だから休日にでもまた行きましょ」
「いや、仕事とかあるんだろ?流石にそんなにお世話になるわけにはいかないし…」
「じゃあこの荷物どうすんのよ。これ以上持てないでしょ?」
そう。俺たちは今両手に山ほど荷物を抱えている状況。とてもじゃないがこれ以上は持てない。因みに、『女性に重い荷物を持たせるなんて!』なんて言われるかもしれないが、こっちでは大体の人が身体強化魔法を使えるしなんなら下手な男よりも女性のほうが力あることだってあるらしい。しかも俺は見た目子供!なんら問題ないね!
ただ、質量ではなく体積となれば別だ。力なんて関係なくなっちゃう。
仕方ない。
「オリビア、ちょっとこっち来て」
そう言って俺は近くの路地を示す。
「え?何する気?まさか…」
ちょっと顔を赤くしてる。
何想像してんだ、こいつ。
「いいから」
そう言って風魔法で押して路地裏に連れてくる。…うん。字面が完全に犯罪者じゃないか。
「ねえ、流石にまだ早いと思うの。それに、なにもこんなところで…」
「誰がオリビア相手にそんなこと考えるか。今からちょっと収納魔法作るから一旦荷物置いて誰も来ないように入り口見張っててほしいんだよ」
「!え、ああそういうことね!まさかそんなこと考えるわけないわよね…あはは…」
何故かしょんぼりしながら見張りについてくれる姿を見てるとすっごい可哀想になってくる。
まあそれは一旦置いといて、収納魔法の作成に取り掛かる。
魔法作るなんて簡単な話だ。今まで色んな本から山ほど魔法陣を調べて分析してきたからな。今ではもうどんな形の図形や線が何に作用してどんな効果を引き起こすかまで分かる。あとは細かいところを修正して調整して…と。
で、魔法陣を作ったらそれを元にして詠唱を求める。まあ、数学で言う展開と因数分解みたいな感じなのでそんなに難しくはない。掛かって三分ってとこかな。
きっちり三分後、詠唱までできたのでオリビアを呼びに行く。
「おーい…って何してんの?」
見ると、路地の入り口あたりで顔を真っ赤にして俯いている。
「!ユ、ユリウス、ごめんね。さっきは変な勘違いして…」
「いいていいって。俺だってあんなの誤解すると思うし」
実際前世で中学生の時、当時好きだった女の子に呼び出されて心臓爆裂しそうなほどドキドキしてついていったら給食費貸してって言われて心が粉砕されて粉末状にされたことがあったのだ。……思い出しただけで心臓がヤバい。
「?どうかしたの?」
「あ、ああ、ちょっと心にダメージが…」
「え、嘘、ユリウスにダメージ与えるなんてどんな強者よ…」
「学生です」
「どんな学校よ、それ!」
普通の進学校だよ。
「そういえばさ、奥で何してたの?さっき最後のほうがあまり聞こえてなかったの」
ていうか羞恥心で聞いてなかったんだろうなー。
「ああ、ちょっと収納魔法を作ってただけだよ」
ああもう、口開いてる。一応女の子なんだからそんな顔したら駄目だろ…。
「ねえ、よく聞こえなかったんだけど何を作ってたって?」
「だから収納魔法だって」
「ねえ知ってる?収納魔法って『ロストマジック』っていう今ではもう再現不可能な魔法の一種なのよ?それを、魔法陣のメモを見つけたとかでもなく作ったって言ったの?いくらなんでも嘘でしょ?いくらユリウスが頭おかしい魔法使いでもなんの情報もなしに『ロストマジック』を復活させるなんてできるわけ…」
心底信じられないとでも言うように早口でまくし立ててくる。っていうか『ロストマジック』っていう名称初めて知ったんだけど…
「へー、そんなヤバいやつなんだ。じゃあ使い方は教えないほうがいいな」
「ん!?もう作っちゃったんならいいんじゃない?そんな便利な魔法一人で使うなんてずるいわよ」
すっごい慌ててる。こういうわかりやすいところいいよね。
「じゃあはい、これ詠唱ね」
そう言って懐から一枚の紙を取り出してオリビアに渡す。
「えーっと、『異次元の倉庫への入り口よ、開きて我が手を煩わす荷を納め給え、『アイテムボックス』」
すると、オリビアの右掌に白い魔法陣が出現し、何かを待っているかのように爛々と輝き始めた。
「えーっと、これで?」
「『アイテムボックス』に入れたいものに触れるんだ」
「じゃあ、これ」
オリビアがそこに落ちていた小さな石に触れる。
すると、その石が一瞬淡く輝き、消えた。
「出すには?」
「出したいものと出したい場所を念じる。見える範囲にしか出せないから例えば相手のお腹の中に毒を入れたりとかはできないからね」
「そんなこと考えないわよ!っていうかそれなら相手の頭上に重いもの出して潰すことはできるんじゃない?」
「出してみたら分かるよ」
俺がそう言うと、オリビアが軽く目を瞑って念じる。
すると俺の頭上にさっきと同じ魔法陣が出現し、数秒後に石が落ちてきた。
俺はそれを見ずにキャッチし、オリビアに見せる。
「な?」
「なるほど、出る前に分かるから躱せるってことね」
「そういうこと。術者の魔力量にもよるが大きいものを出そうとするとその重さに比例して出るのに時間がかかるから戦闘じゃ使えない」
「容量は?」
「使用者の魔力量に比例。俺だったら多分大陸一個はまるまる入るぐらい。オリビアなら多分家一個ってとこかな」
「大陸!?そんなの信じられないし家まるまる入るってだけで結構すごいと思うんだけど素直に喜べないのよね…」
「でもオリビアの魔力量結構増えてるよ。多分普通の人の五倍ぐらいには」
「え!?もしかしてユリウスって周りに頭のおかしさを感染させる魔法もってたりするの?」
頭のおかしさって…。それを言うなら周りの人の魔力量を増やす魔法でしょ…。ていうかそんな魔法ないし。
「前に魔力の取り込み方教えただろ?そん時に取り込みすぎて一気に魔力量が増えてたんだよ」
「え、本当に!?あれだけで五倍にまで増えるの?じゃあもっとやろっかな…って私何やったっけ?」
そう。気絶しちゃって記憶を失ってしまい、色々ヤバい状態だったので俺は何も教えずに放置していたのだ!
「そんなことどうでもいいじゃん。そんなに魔力が必要になることなんかないっしょ?」
「まあそうだけど…」
「んじゃ、買い物の続きLet’s go〜」
これだけ誤魔化されやすいの、本当にありがたい。
その後、俺たちは俺のこれからの生活に必要なものを一式買って宿に戻った。
「じゃあ、私はこれで行くね。そろそろ行かないと副会長にグチグチ言われちゃうから」
オリビアは商会の会長。これまでは俺のおかげで予定より早く王都に着いたからここぞとばかりにこっそり休みを満喫していただけだ。やっぱ仕事行かなきゃいけない。
「いい?しっかり学校行くのよ?」
「落ちてたら?」
「うちに来なさい。雇ってあげるからまた今度編入試験を受ければいいわ。…まあ、落ちてるわけないんだけど」
「ああそうだな。そうなったら新商品の提案いっぱい出してオリビアの地位を奪ってやるよ」
「絶対うちには来ないで!っていうかそんな嫌われるようなことしたっけ!?」
「…したっけ?」
「してないわよ!!」
それから二人でひとしきり笑った。そして日が傾いてきたところで俺たちは別れ、オリビアは宿を出てオリビア商会に向かっていった。
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