第7話 ギルドとか。

「で、結果はどうだったの?」


宿へ着くなりオリビアが嬉々とした表情で聞いてきた。


「最悪。実技試験なんか10発中1発撃っただけで帰された」

「道理で早いと思った!え、何?筆記はどうだったの?」

「三十分で終わったから試験監督の先生に見せたら終わった」

「三十分!?あそこって筆記試験が特に頭おかしいって有名なのよ!?」

「ああ、確かに頭おかしいとしか思えないほど簡単だった。実技を重要視する学校なんじゃないか?」

「逆よ!世界中の賢者がやっても満点は絶対に取れないって揶揄されるほどの超高難易度の試験なのよ!?しかも、最近は世界で未だ解明されてない超難問をいくつか混ぜて『強敵との力の差を測る練習』とか抜かしてるらしいわよ!?それ含め終わったっていうの!?三十分で!?」

「え?ああ、じゃあやっぱあれは本当の試験問題じゃなかったんだろう。一番難しい問題でもせいぜい三平方の定理の応用とかだったし」

「?三平方の…なんですって?」

「三平方の定理だよ。aの二乗+bの二乗=cの二乗ってやつ」

「何それ。聞いたことないんだけど…」

「まさか学校サボってたの?」

「サボってねえよ!!ユリウスじゃあるまいし!!常に満点取るほどの超優等生だったんだからね!!」

「三平方の定理も知らないのに?」

「そんなわけのわからないこと学校では教えてないわよ!」


え?てことはこっちの勉強のレベルってかなり低いのか。ってことはさっきのはマジの試験問題?ならもしかしたら受かってるかも…。ああ、だめだ。実技試験があんなんだったんだから受かるはずなんて無いよな…。


「もう試験のことはいいや。オリビアは商会の会長とか言ってただろ?仕事に行かなくて良いのか?」

「ああ、それならユリウスのおかげでかなり速く早く着いちゃったからちょっとした有給休暇って感じね。この仕事自分で始めといてなんだけど結構面倒くさくて疲れるのよ。騙そうとしてくるやつゴミや媚売ろうとすり寄ってくるダボの対応とかねー」


時々思うけどオリビアってかなり口悪いな。やっぱストレス溜まるんだろうな…。商売関係なら俺の前世の知識で役に立てるっていう黄金パターン来るんじゃないか?


「なあ、いくつか商品になりそうな物のアイデアあるんだがどうだ?」

「ッ!?やめて!そんなの絶対仕事が倍以上に増えるじゃん!もしそんなのをうちの従業員とかに吹き込んだら一生口聞かないからね!」


あっそんなに嫌なんだ、仕事増えるの。売上よりも休みが大事なのか。


「そんなことより、これから予定とかあるの?そもそも王都で生活するにあたって買っとかなきゃいけない物とかあるんじゃない?」

「ああ、確かに服とかは買っとかなきゃいけないな」

「じゃあ今からショッピング行こう!」

「待って。俺今お金ほぼ無いから買い物とか無理なんだが」

「ああ、それじゃあ先に冒険者ギルドに寄っていこうか。私一応冒険者ギルドにも登録してあるからさっきの盗賊の討伐報告したらお金いっぱいゲットできるよ」

「あれ?全部殺しちゃって死体放置してきたよ?証明とかできなくない?」

「ふっふーん。そんな嘘ついて後で倒したはずの盗賊がまた出てきたらすぐばれちゃうでしょ?冒険者も商人も信用が一番大事な職業だからね〜。そんな下らない嘘をつくやつはいないのよー」

「じゃあ、盗賊を倒した冒険者を暗殺して自分が倒したことにすれば?」

「………よくそんな恐ろしいこと思いつくわね。でも、そんなリスクの塊みたいなことする暇あったらもっと別のことでお金稼いだほうが楽なんじゃない?」

「それもそうだな」

「んじゃ、行きますか」

「ああ」


俺はオリビアに連れられて冒険者ギルドに向かった。ついでに、冒険者ギルドに向かう途中でオリビアに冒険者について教えてもらった。

・冒険者はFランクから始まり、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっているそう。昔はSSSランク冒険者もいたのだが、最近はSランクがちらほらいる程度とのこと。オリビア曰く、『あの土龍を単独討伐できるんなら絶対SSSランクになるとおもうけどね』とのこと。まあ、ランクアップの条件にはそれ以外にも依頼をこなした数だとか模範的な行動をしているかだとかがあるそうだが。

・一定期間依頼を受けなかったらランクが落ちるんだとか。因みにFランクの期限は1年だって。

・ギルド内で問題を起こしたら即除名だって。怖いね。

・ギルド内にある掲示板から依頼を選んで受注するのだが、受けられるのは自分の現在のランクの依頼か、一個上か一個下だけ。

・依頼には討伐、採取、雑用、護衛、諜報、輸送などの種類があって、Fランクで受けられる依頼はほとんどが採取や雑用とのこと。


とまあそんな感じで話している内にギルドについた。3階建ての酒場のような建物で、ウエスタン調の両開きの木のドア。まあ、アニメとかに出てくる一般的なギルドって感じだ。

中に入ると、半分ほどは酒場になっていて、冒険者らしき筋肉隆々の男や鎧を着込んだ女性などいろいろな人がワイワイ騒ぎながら酒を飲んでいる。


「依頼の達成報告や常時出現依頼の報告はこっちよ」


そう言ってオリビアが指さしたところには、『依頼達成報告』と書かれた看板とカウンターが見える。俺たちがそっちに向かおうとしたとき、


「おい、ヒック、オリビアじゃねえか」

「なんだ?あのクソガキは。まさかオリビアの、ヒック、ストーカーか?」

「何!?俺達のオリビアについた害虫なら、ヒック、始末しちまおうぜ」

「はあ?俺達のオリビアってなんだよ。オリビアは誰のもんでもないだろ。ていうかお前ら酒臭い口で俺たちに話しかけてくんじゃねえよ」


まあ、ギルドといえばお決まりのパターンだよな。


とりあえず酔っ払い共が何か言ってるので喧嘩を売っておく。


「なんだと〜?このクソガキ、痛い目見ねえと上下関係ってのがわかんねえのか?」


予想通り、リーダー格らしき男がこっちに詰め寄ってくる。


「おい、もう一遍言ってみろクソガキ」

「だから、お前ら酒臭いから不愉快なんだよ。…ん?しかも体臭もやべえな。ちゃんと風呂入ってんのか?なんかこう、多分ゴブリンとかオークのほうがマシなんじゃねえの?っていうぐらいの酷い臭い。よくそんなんで俺達のオリビアとか言えるよな。マジで尊敬に値するわ」


「「「…………」」」


いきなりそこまで言われたもんで三人とも呆気にとられて呆然としている。


「おい、あのガキめちゃめちゃ言うじゃねえか」

「あのゴレオンにそこまで言うとか馬鹿じゃねえの?」

「いや、もしかしたらあいつに勝てるだけの実力があるから言ってんのかもよ」

「それこそありえねえだろ。酔っ払ってるとはいえ、Cランク3人相手に10歳やそこらのガキが勝てるわけねえよ」

「いや、前からあいつらの態度と体臭は気に入らなかったんだ。俺は小僧に賭けるぜ」

「じゃあ俺はゴレオンたちだ!金貨一枚な!」

「よーしいいだろう。オラ、やっちまえ!」

「「「「ウオオオオオオ!!!」」」」


なんか他の冒険者たちが好き勝手騒いでるな。ていうか初めて見た生意気なだけのガキに金貨一枚賭けるって…酔っぱらいのテンションって怖いな…。


「てめえ、ぶっ殺す!」


そう言ってゴレオンとかいうやつは殴りかかってきた。酔っ払っているからなのか舐めているからなのか直線的な動きだし遅い。しかも力が乗り切っていない。力の差を見せつけるためにも、俺は軽く『身体強化』を発動して左手の人差し指でゴレオンのパンチを受け止める。


「なっ!?」

「「「「「はあ!?」」」」」


ゴレオンと観衆が騒いでいるが俺は、


「こいつに賭けてた人、悪いな」


そう言いながら俺はゴレオンの懐に潜り込んで鳩尾に掌底を叩き込む。もちろん『身体強化』を施して。


「ぶへらっ!!」


悲鳴を上げながらゴレオンが入り口の方に飛んでいくが、俺は吹っ飛ぶゴレオンよりも速く動いて後ろに回り込み、その無防備な背中を床に叩きつける。


「ぐっ…」


押し出されるような声を上げてゴレオンは全く動かなくなる。


「さて、お前ら二人はどうする?」

「「ひ、ひえええええ!!!」


と、間抜けな声を上げながら逃げ出していく。


「「「うおおおおおおお!!!」

「なんだあのガキ、ゴレオンに勝ちやがったぞ!!!」

「あいつ、なんて動きしてやがんだ!?」

「くそ!大穴狙えばよかったぜ!」

「ありがとう!これで一ヶ月分の食費は安泰だ!」


どうやらあの馬鹿に賭けたやつのほうが多かったみたいだな。


「さて、じゃあ報告行こっか」

「そうね。Cランク冒険者を赤子扱いしたぐらいじゃもう驚かないわよ」


え?あんなので本当にCランクなんだ。まあ、あの程度の龍殺っただけでSSSランクとか言われてるし、かなり基準が低いみたいだな。


「あのー…」


俺がちょっと考え事をしているとエルフと思わしき尖った耳を持った受付嬢の女性が話しかけてきた。美人だ。オリビアよりもずっと。


「今何かすっごく失礼なこと考えてたでしょう」

「いえ何も?」

「…嘘…じゃない…?」


当然だ。俺は事実を述べただけ(述べてはいない)。何も失礼なことは考えてないのだ!


「ところで、どうかされましたか?」

「ああ、えっと確かオリビアさんはクエストは受注してませんでしたよね?なんの報告ですか?」

「盗賊の討伐報告よ」

「なるほど。どの盗賊ですか?」


そう言ってエルフの女性は壁を指さす。そこには現在活動を続けている盗賊、または盗賊グループの名前が書かれている。


「えーっと、あった。これね。『ブラッドマジシャンズ』。」

「またまた〜。そんな嘘ついてもすぐ分かるんですよ〜?じゃあ、奴らは何人組でした?それぞれの役割は?」

「え?…えーっと…」

「ほら、嘘じゃないですかあ〜。で、ほんとはどれですか?」

「いや、こいつらで合ってます。7人で、前衛五人で後衛二人。前衛が足止めしてる間に後衛が火属性と風属性の上級魔法で攻撃って感じでした」


オリビアはずっと馬車の中に隠れていたので奴らがどんな戦い方をしていたかは知らない。上級魔法を使うというのは分かったみたいだが、どういう戦い方をしていたかは実際見ていないと分からないからな。


「は?」


エルフが素っ頓狂な声を上げる。


「何か間違ったこと言いました?」

「…過去の目撃証言と完全に一致してます。もしかして…『ブラッドマジシャンズ』を倒したのってあなた?」

「えーっとですね、彼女の護衛の人が戦ってるの見たんです。すっごい頑張ってたみたいで、ほぼ相打ちみたいな感じだったんです。冒険者さんたちはやられちゃったみたいなんですけど、残ってたのは後衛の魔法使い一人だったんで不意打ちでギリギリ勝てたんです」

「…にわかには信じがたいですが嘘じゃないですよね?もし嘘だったら賞金は返してもらいますし罰金も取りますよ?」

「ええ、問題ありません」

「そもそも不意打ちといえどアルティメットマジシャンズの魔法使いを倒してCランク冒険者を圧倒するような10歳やそこらの学生がいる時点で異常事態なんですがね…」

「正確にはまだ学生ではありませんよ。今日編入試験を受けてきたところですから」

「「「「はあ!?」」」」


聞き耳を立てていた冒険者たちからも揃って驚きの声が上がる。


「…オリビアさん、本当なんですか?」

「ええ、本当よ。本人は落ちたと思うとかなんとか言ってるけど多分確実に受かってるでしょうね。特待生とかで」

「…あの王都立魔法学園の特待生ですか?流石にそれは買いかぶりすぎですよ。開校以来一度も出てないっていう噂ですよ?」

「信じないならそれでも良いわ。とにかく、早く賞金をくれないかしら?これから行かなきゃいけないところがたくさんあるんだから」

「…はい、わかりました。少々お待ちください」


そう言うとエルフの受付嬢はカウンターの奥に消えていった。

俺たちは立って待ってるのもなんなので適当なところに座って駄弁りながら待っていることにした。


「…ユリウスって敬語使えたのね」

「当たり前ですよ、オリビアさん。やはり第一印象というのは大事ですからね。それに、貴族様方にお目通りかなった時など、敬語が使えないとせっかくのチャンスを無駄にしてしまううこともあるかもしれないでしょう?」

「うわ!!ユリウスが私に敬語使うなんて変な感じ!!……ていうか最初会った時に伯爵家の娘だって自己紹介したわよね?なんで敬語使わなかったのかな?」

「ははは」

「誤魔化そうとすんじゃねえ!!」


ていうか受付嬢おっせえな。多分事が事だからギルド長とお話ししてるとかなのかな?


「ねえ、ユリウスってなんでそんなに色々できるの?魔法や喧嘩はまあセンスってことでギリギリ納得してあげるけど、偏った知識とか10歳の子にしてはありえないほどの慣れた敬語とか…。あなた、本当は何者なの?」


まあ、そろそろ聞いてくる頃合いだろうなとか思っていたがどうやって誤魔化そうか…。

と俺が少し考えていると、


「ねえ、誤魔化さないで。あなたが誰だろうと私は驚かないしましてや嫌いになるなんてことは無いから、お願いだから正直に話して」

「本当に、か?もし今言ったこと一つでも嘘だったら神雷直撃の刑だぞ?」

「死ぬわ!!!っていうか私が100回死んでもお釣りが来るわ!!…まあいいわよ。さあ、言って。隠居した賢者様?古の勇者様?それとも…魔王とか?」

「いや、全部違うな。俺は…」


俺はそこで言葉を切ると風属性中級魔法『ウィスプ』(声を他人に漏らさず対象にのみ伝える魔法。傍受する魔法もあるがそんなの使えるのはこの場では俺ぐらいのものなので心配無い)を発動し、周りで聞き耳を立てている冒険者共に聞こえないようにして…


『異世界から転生してきたんだ。死んだときは17歳だった。そっちでも結構な才能持ってたみたいだから前に話したのはそれで妬まれて嵌められた話』


「…」


オリビアからの反応はない。


「んん〜?驚いてるのかな〜?神雷コースかな〜?」

「っ!?ち、違うわよ!いきなり脳内にあなたの声が来たもんだからびっくりしただけよ!」


まあ、俺が魔王じゃないかとか思ってたみたいだしこの程度じゃ驚かなかったってことにしといてあげよう。


「じゃあ、今度でいいからユリウスの世界の話聞かせてね」

「多分連れて行くこともできるようになると思うけど?」

「…待って。今はできないっていうの?」

「ああ。そういう系統の魔法も魔法陣も見たこと無いからな。…いや、待てよ…転移魔法の魔法陣を応用して…うーん、転移するのが座標なのか時空間なのかって問題が…うーん…」

「考えるな!!これ以上常識を壊さないで!!」


まだできるかどうかもわからないのになんでそんなに慌ててるんだろうなー?


「流石にまだできないよ。でも、オリビアのためにも20歳になるまでにはできるようにしとく!!」

「誰がそんなこと頼んだの!?!?…っていうかさっき『転移魔法の魔法陣を応用』とかなんとか言ってなかった?もしかして使えるの?」

「ああ、行ったことある場所にしか行けない上に情景の完璧なイメージが無いと発動しないポンコツ魔法だけどな」

「それのどこがポンコツなのかわからないわ…」

「いやいや、完璧に、だぞ?自分の家だろうがそんなに完璧なイメージできるやついねえだろ…」

「た、確かにそうね。じゃあ、もしあなたが元々住んでいた家とかを完璧にイメージできたら転移できるってこと?」

「うーん、今の世界と元の世界の関係とかもわかんないしな…。距離だけや時空だけならまあどうにでもなるんだが、それ以外の要因が関係してる可能性が…」

「あー!あー!あー!いいから!考えなくていいから!」

「えーと、お待たせいたしました。賞金を持ってきましたが…」


ちょうど良いタイミングで受付嬢が戻ってきた。


「ああ、ありがとうございます。それで、いくらになるんでしょうか?」

「はい。一人あたり1000万G、リーダーはそれとは別に3000万Gの賞金がかかっていますので計1億Gとなります。こちら、賞金の聖金貨100枚になります。」

「あのー、一部白金貨にしてもらっていいですか?この後使う用事があるので」

「もちろんです。もっと崩さなくて大丈夫ですか?白金貨自体も一枚10万Gの価値があるので普通の買い物では使いにくいと思いますが…」

「確かに。じゃあ金貨を10枚、白金貨を9枚でお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


そう言うと受付嬢はまたカウンターの奥に戻っていった。


その時。


酒場のドアが開いて冒険者の一行が入ってきた。

すると、途端に酒場がざわつき始める。


「おい、あれSランクパーティーの…」

「ホントだ!勇者様だ!」

「は?…うわマジだ。おい、サインもらいに行こうぜ」

「キャー!あれが噂のアレス様!?」


そう。入ってきたのは20代前半、といったところだろうか。男二人女二人の美男美女パーティー。見ただけで強いと分かるゴツい装備やきらびやかな鞘からもうかなりの業物と分かる剣。これがSランクパーティーか。


「なあ、ゴレオンの仲間のやつが『悪魔が来た』とか言って走り回ってたから来たんだが…」


そのアレスの言葉にギルドは凍りついた。

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