第6話 王都と受験

数時間後。太陽が完全に昇って朝7時くらいになったところでオリビアは目覚めた。


「…あれ?私寝ちゃってたの?」

「…ああ、そうだな。きっと長旅で疲れが溜まってたんだろう」

「うう…ごめんなさい…ずっと魔法を使い続けて大丈夫?疲れてない?」


そう、おれはずっと『アイスロード』、『ウインド』を使い続けていたのだ。


「いや、使った分だけ空気中から供給してるからな。ほぼ減ってないぞ。ただ、一睡もしてないから少し眠いが」

「一睡も!?」

「ああ、気にすんな、元々その予定だったから問題ない」

「元々徹夜で王都まで行く予定だったの!?」

「あのまま飛んでいけばもうとっくに着いていたはずだったんだぞ。オリビアが盗賊なんかに襲われるから俺まで巻き添え食らって遅くなっちまったんだ」

「盗賊に襲われて責められるなんて初めてよ!!」


なんか、何回も盗賊に襲われてるみたいな言い方だな。


「そういえば、このまま王都に入っちゃっていいのか?」

「なんでよ?」

「そりゃ、氷の道を魔法で作りながら馬無しで走ってる馬車が来たら衛兵とかが大騒ぎすると思うんだが」

「あ」


マジで気付いてなかったのか、こいつ。


「仕方ない。ちょっと行ってくるわ」


そう言って俺は馬車を飛び出して先行し、王都の城壁の近くまで来た。結構高い城壁の一部が門になっていて、そこに行列ができている。どうやらあそこが入り口のようだ。

俺は隠密魔法を発動して気配を消し、衛兵に忍び寄ると幻惑魔法をかけたらすぐに馬車に戻る。


「あ、ユリウス、どこ行ってたのよ」

「ああ、ちょっと衛兵に幻惑魔法をかけてきたんだ」

「幻惑魔法!?そんなの高位の悪魔じゃないと使えないはずよ!?」

「最近は王国の魔法師団が再現に成功したとかなんとか聞いたぜ?」


完全に出鱈目である。盗賊の一人がそんなこといってたなーって思ったから。

「…へー、…じゃあ魔法師団の人に会って教えてもらったとか?」

「いや、悪魔について書かれてた本の情報から逆算して頑張ったんだ」

「でしょうね!!」


そうこうしてる内に馬車は王都に着いた。ちょうど行列を捌き切ったところのようで、衛兵がすぐに対応してくれた。


「身分証はお持ちですか?無ければ銀貨一枚支払っていただきますが」

「はい、これ」

 

そう言ってオリビアは懐から一枚の紙を取り出して衛兵に見せた。


「オリビア・バーリエンス様…バーリエンス伯爵家の令嬢様でしたか、失礼いたしました」

「いえ、もう家族とは縁を切ったみたいなものですから気にしないで」

「左様ですか。そちらのお子さんは?」

「えーっと…途中で拾った子。親に捨てられて行くところが無いんですって」


いい言い訳だな。


「そうなんです。道端で倒れてるところをオリビアさんに助けていただいて…あの時オリビアさんが通りがからなかったら野垂れ死んでたと思います…」

「ほう、なかなかにしっかりとしているお子さんですね。銀貨一枚、払えますか?」

「はいこれ」


そう言って俺は金貨を渡す。


「金貨一枚ですから、これ、お釣りです」


そう言って衛兵は俺に銀貨でお釣りを渡してくる。


1、2、3…あれ?10枚ある。間違えたのかな?


「あのー、これ…」

「次の方ー」


衛兵さんは俺の方を見るとウインクしてきた。…どうやらわざとのようだな。良い人だ…


「さて、無事に王都に入れたわけだけどこれからどうすればいいのかな?」

「呆れた。ほんとに何も考えてなかったのね」

「仕方ないだろう。ずっと冒険者になるつもりだったんだから」

「そっか、年齢制限のこと知らなかったんだもんね。んー…やっぱ学校いくぐらいしかすること無いんじゃない?」

「今ってそんな新学期が始まるような時期でもないんじゃ?」

「あそこはいつでも編入試験やってるわよ。ていうか明日始業式らしいわよ。物凄く厳しいっていう噂だけどユリウスなら大丈夫でしょ」


わーお、すっごいナイスタイミング。


「まあ、俺が普通の試験で落ちるわけがないが」

「なら決まり!時間もちょうど良いし早速行きましょ!」


そうやって俺はオリビアに無理矢理連れられて魔法学園に向かった。手続きはほとんどオリビアがやってくれ、オリビアを保護者代理として俺はその日の内に編入試験を受けられることになった。なんでそこまでやってくれるのかと訊くと、「命に比べりゃ安いもん」とのこと。ほんとにオリビアに会えてよかった。


王都立魔法学園。7歳から15歳までの9年制で生徒数は約450人。一学年50人程と少なく感じるがそれは厳しい入学試験によって落とされる人が滅茶苦茶多いからだという。更に定期テストもあり、それの成績によっても留年や退学ということがあるらしく上の学年ほど人数が少なくなるらしい。

その代わりにとてもハイレベルな教育を受けられ、更に学校にある設備を自由に使える権利がもらえるのこと。この設備というのが結構素晴らしくて、世界中のあらゆる書物を集めた図書館や王宮お抱えの魔術師が魔法結界をかけた魔法修練場、俺の村がすっぽり入ろうかという広大なグラウンドなどなど。プロの魔法使いでも滅多に使えないような夢のような設備なのだ。


俺は今そんな学校の編入試験を受けているわけだが…


「なんだこれ?いくらなんでも簡単すぎるだろ…」


教科は数学、歴史、魔法理論の三教科。

数学は前世の知識があるので一問だって落とすはずはない。一問だけ高校入試レベルの問題があったが俺にとっては他の問題と大差はなかった。

歴史なんてあらゆる歴史書を読んできたので間違えるはずはない。

魔法理論だが、これが一番ひどかった。中級魔法の魔法陣が書かれていて、『Q.この魔法陣はなんの魔法を表しているか』だとか『Q.無詠唱魔法のコツを記せ』だとか。舐めてんのかとしか思えない簡単な問題ばかり。

3時間与えられた試験時間のうち30分で全ての問題を解き終え、見直しまでやって完璧にした俺は試験監督の先生に終わったのでどうすればいいのかと声をかかると、


「え?もう終わったの?言っとくけど分からない問題があっても諦めないで最後まで解いてね。適当に書いとけば合ってるかもしれないんだから空欄のまま提出しちゃだめよ?」

「いえ、あまりにも簡単すぎてもう全て終わってしまったので」

「は?何を馬鹿なことを…」


先生はそう言って俺の解答用紙を見るなり顔色を変えて…


「ちょっとそのまま待っていなさい。すぐに戻ってくるから」

「え?あ、はい」


そう言うと試験用に宛てがわれた教室を飛び出していき、どこかへ向かっていった。今のはほんの小手調べみたいなもので本当の編入試験の問題を取りに行ったのだろうか。


数分経つと試験監督の先生は戻ってきた。


「では、付いてきてください。次は実技試験です」

「え?筆記試験はもう終わりですか?」

「え、ええ、そうですよ。どうかされましたか?」

「い、いえ、なんでもありません」


どうやら筆記試験はあまり重要でないらしい。実技の能力を重視する学校のようだな。


俺は女性に連れられて学校の魔法修練場に連れてこられた。


「では、あそこの人形の的に向かって一番得意な魔法を一発づつ、計10発撃ってください。一応言っておきますが、あれは王宮の筆頭魔術師さんが防護魔法をかけたので壊れる心配はありませんので思いっきりどうぞ」


見ると、10mほど離れたところに人形の的が等間隔で10体並んでいる。


「え?本当に良いんですか?」

「ええ、自分の力を過信して手加減して情けない結果を出す馬鹿が時々いますので」


本気か…。『必滅の神雷』は天井が壊れないんじゃ効果はないからここはオリジナル魔法の出番かな。

俺はオリビアに見せた蒼い火球を10発同時に生成。一つに圧縮して威力を上げる。どういう原理かは知らないが、魔法に込める魔力を圧縮するとその分威力が上がる。

そのまま十倍威力の火球を高速回転させ、巨大な蒼い槍の形に変化させる。それを、大砲をイメージした魔力の塊に装填。火属性上級魔法『エクスプロージョン』を発動し、その勢いで蒼槍を発射する。

直後、着弾した蒼槍が爆発して鼓膜が爆ぜるかと思うほどの轟音が轟き、辺りが閃光に包まれる。一応俺たち二人に『セイクリッドウォール』をかけておく。軽く身体が浮く位の衝撃が俺たちを襲うが『セイクリッドウォール』はギリギリ耐えてくれた。爆発によって発生した砂煙を俺が『ウインド』で払うと………


「え?」


試験監督の先生の間抜けな声が示すとおり、的は全て跡形もなく破壊され、その上大きなクレーターができていた。爆発の余波によって壁の一部に大きな穴が空き、天井がいまにも崩れ落ちそうな状況だ。


「「………」」


やばい。これはあかん。完全にやらかした。


「えーと、せ、先生…?的がなくなっちゃったんですけど二発目以降はどうすればいいですか?」


そう。まさか直撃させてもいないのに爆発の余波だけで全部壊れちゃうとは思わなかったから二発目以降の的がなくなってしまったのだ。


「!?!?まだ撃つ気ですか!?今すぐ帰ってください!!」

「…はい」

「結果を通達しますので明日、同じ時間に来てくださいね」


しまった。いくらなんでもやりすぎたか…。これじゃ合格なんてある訳がない。学校に行きたいわけではないが試験と名のつくものでここまで酷い結果を出すとは…。

そういった落ち込んだ気分でオリビアが待つ宿へと向かうのだった。

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