第5話 こいつ、馬鹿か?
「え、マジで神金貨50枚?多分国家予算レベルの数字だよね?」
「ええ…そもそも龍の魔石なんて見たことも聞いたこともないから信じてもらえるかってとこだけど何処に売っても最低でも神金貨50枚は下らないわよ…。うまく売ったら100枚ってとこかしらね…」
10億!?
「どうしたらいいんだろ。どうせ売っても偽物だって思われるか出処を疑われるかだよね?そういや、魔石の使いみちって何なの?」
「貴族の家では綺麗な紫色の純度の高い魔石は装飾として使われることが多いわね。後は小さい魔石だと初心者用の杖の材料になったりするわね。大きい魔石だと王城に保管してあって何かあったときの勇者召喚の触媒にするって聞いたことがあるわ。まあ、大きいって言ってもこれの半分も無いでしょうけど」
「え、じゃあこれの使いみちは?」
「正直、見当も付かないわ。消費魔力無しでいくらでも上級魔法を使えるとか10回くらい勇者召喚ができるとか暴走させて大陸3つくらい消し飛ばすとかかしら…うん、自分で言ってて頭がおかしくなったんじゃないかと思う…」
結構強いな…俺でも多分王都を消し飛ばすのが限界だと思うが…
「ていうか、魔石のショックが強すぎて忘れかけてたけどさっきの魔法何!?上級魔法が100発合わさってもあんな威力は出ないわよ!?」
「ああ、『必滅の神雷』か。そりゃそうだろ。あれ、神様が魔王との戦いで使ったっていう魔法なんだから。神話の本とか見たことあるだろ?」
「ッッッッ!?!?!?神が使った魔法って言った!?まさか、もしかして神代魔法を使えるっていうの!?ねえ!どうやったの!?」
「え、ああ…。神話の本あるだろ?あれに描写されてた魔法の効果と魔法陣の形から他の魔法のパターンとか使って、色々と計算して逆算すれば詠唱が割り出せたから使ってみたってわけ。詠唱魔法なんてぶっつけ本番だったからちゃんと発動するか心配だったけど思ったよりいい感じだったねー」
「『ねー』じゃねえよ!色々と計算して逆算して詠唱を割り出すなんて聞いたこと無いし!!ていうか、あんな威力の魔法使って魔力は大丈夫なの!?私なら一万回くらい魔力枯渇で倒れてるような威力だったんだけど!!」
「あー、一割ぐらい減ってるっぽいな。あっでももう回復したわ」
「一割!?しかもあの魔法の消費魔力が見た目通りだとしたら何なのその魔力回復速度!?」
「上級魔法くらいなら無詠唱で10発/sでもお釣りがくるくらいかな?」
「上級魔法を一秒に10発撃つ時点で頭おかしいわよ!!!」
埒が明かないのでもうこの話は終了!と言って俺はオリビアを抱え、魔石を浮遊魔法で浮かせて自身は身体強化でジャンプしてクレーターから出る。オリビアが「身体強化の倍率がおかしい!」とか言ってるが無視無視。
「そういえば、テント壊れちゃったのよね…。」
そう。馬車は離れたところに停めてあったから辛うじて大丈夫だったが、テントは黒龍の咆哮で消し飛ばされてしまったのだ。
「これじゃあもう野営なんてできないわね…」
「なら、もう出発しよう。幸い馬車は残っているようだしな」
しかし…
「あれ?馬は?」
馬車を引いていた馬たちが黒龍の咆哮にビビって逃げ出したようだ。
「っていうか多分あなたの魔法にだと思うけどね」
ちょっと何言ってるかわからないです。
「仕方ない。俺が動かすよ」
「それはありがたいんだけど、あなたに馬車を引かせるってなると罪悪感が物凄いのよね‥」
「?引くなんて言ってないだろ?」
「え?でも動かすってさっき…」
「うん、魔法で動かしゃいいだろ?」
「そんなことできるわけ…ああ、ユリウスだもんね」
その納得の仕方はどうかと思うが…まあいい。
早速馬車の下に水属性魔法の応用で氷の道を作る。名付けて『アイスロード』。そのままである。更に、土属性魔法の応用で土を圧縮して鋼ほどの強度を持たせた土を作り、刃状にして車輪につける。そして俺たちが馬車に乗ったら後ろから『ウインド』を強めに馬車に当てれば、氷の上をツーっと滑って進んでいく。これで、『ソリ風魔導馬車(氷の道を作り続ける魔力が必要)』の完成だ。
「どうだ?簡単だから今度から使ってみて。馬とかの維持費もかからないからコスパいいしね」
「三属性を併用しながら簡単って言われてもねえ…」
「あれ?適性があって使えない属性もあるって訳じゃないんでしょ?」
「あのね…使えないにしても得意な属性、不得意な属性ってもんがあるでしょ。大抵、それだけの威力の魔法を使えるのなんて一つの属性に特化した人だけよ?それをまあ風と土はいいとして、水と…あれは光…かしら…?」
『必滅の神雷』のことかな?
「正確には違うから無属性って扱いになるんじゃないかな?」
「そうなんだ。いや、まあそんなことはいいのよ!大事なのは、あなたがどれだけ魔法を使えるのかってこと!あと何属性使えるのよ!」
「あと4かな?」
「全部じゃねえか!苦手な属性とかは無いの?」
「んー、………………………………思いつかん。」
「さ、流石にあれ程の上級魔法は全属性なんて使えないわよね?」
「あの程度なら誰だって使えるだろ?」
「いや、詠唱するだけならそりゃメモ見ながらとかなら誰だってできるわよ。それを無詠唱で魔力漏れ無しで……魔力漏れなし!?え、ちょっと!流石にちょっとくらい魔力漏れしてるわよね!?」
感情の起伏が激しいな。
「あー、確か魔力漏れゼロだったと思う。……あ。」
「『あ。』じゃないわよ!何サラッと人外のことできますって宣言してんのよ!今までも人外の塊みたいな感じだったから今更って感じだけどさ!魔力漏れゼロなんて悪魔や精霊とおんなじ領域よ!?どういう訓練したらそんなことできるのよ!?」
悪魔や精霊て。酷い言いようだな。
「はあ…。じゃあ魔法のレッスン2だ。魔力漏れってのは自分のイメージする魔法効果と実際に起こる魔法効果の差異から起こる。ちょっとでも違ったら魔力漏れはかなり多くなる。それを減らすのが詠唱で、長ければ長いほど補正効果は大きくなる。ここまではOK?」
「ええ、そんなのは魔法学園で教えてるレベルのことね。初めてユリウスの口から常識の範疇に収まってる発言が飛び出したような気がするわ」
結構キツい言いようだな!
「で、ここからなんだが、魔力漏れを抑える方法は?」
「何回も練習して漏れを減らしていく?」
「それだけじゃゼロにはならないんだ。何回やっても毎回自分が込める魔力の量や方向性が僅かに違うだけで魔法のイメージっていうのは変わるから何回やっても正確なイメージってのはつかめないんだ。毎回込める魔力量を同じになるように練習したらいけるかもだけど。で、それを踏まえて。魔法を使う時にイメージするのは何だ?じゃあ…例えば『ファイアボール』を撃つときにイメージするのは?」
「『火球が飛んでいって相手を焼き尽くす感じ』よね?」
「それは魔法学園で教えられたことか?」
「ええ、そうよ」
「まあ、普通はそれが一番だろうな。だが、模範解答は違うんだ」
「え?」
「俺がさっき『必滅の神雷』を放ったとき、俺が詠唱で構築したのは何だ?」
「そりゃ、空にでっかい魔法陣が現れて………あ」
どうやら気付いたようだな。
「そう、本当に構築すべきなのは魔法そのものじゃない。魔法陣なんだよ」
「でも、『ファイアボール』とかは発動時に魔法陣なんて出ないわよ?」
「本当にそうか?じゃあ見せてやろう」
そう言って、俺は馬車の幌を開けて外に手を向けると…
「紅蓮の火球よ、敵を焼き尽くせ『ファイアボール』」
すると、俺の掌からソフトボール大の火球が飛び出して飛んでいった。
「これが、普通のファイアボール。だよな?」
「ええ、そうですね。普通の魔法も使えたのね」
「そりゃ使えるよ!頭おかしい威力の魔法しか使えなかったら不便で仕方ないよ!」
本当に失礼な話である。
「で、これが無詠唱のファイアボール。」
そう言って俺は魔力を超大量に込めてファイアボールを発動する。
すると、俺の掌の前に赤く爛々と輝く魔法陣が現れ、収束。直後、直径3mはあろうかという蒼い火球が発生し、ソニックブームを残して空の彼方に消えていった。
「どうだ?分かったか?」
「もう驚き慣れちゃったわ。つまり込める魔力の量によって魔法陣の濃さが変わる。普通は込める魔力が少なすぎるから見えないってことね」
「そう。ついでに言うと、詠唱して発動する場合はギリギリ肉眼で見えない濃さの魔法陣が出現してるんだ。そういう量になるように調整されてるっぽいね、なんでかは知らないけど」
「あれ?さっきの雷?の魔法はめちゃめちゃ魔法陣出てたよね?」
「ああ、あれは俺があの魔法で放てる最大威力を発揮できるように詠唱を作ったからだね」
「じゃあさっきのえげつないファイアボールの詠唱も作れるの?」
「多分作れるけど、オリビアが使おうとすると魔法陣を一割くらい構築しようとする段階で狂死するぐらいの魔力消費量だと思うけど教えようか?」
「あっじゃあ結構です。…?あれ?じゃあユリウスはどうやってそんな魔法をバンバン使ってるの?普通は人間の魔力量って大体おんなじくらいよね?なら私が詠唱一回で何回も死んじゃうような魔法そんなに何回も撃てるのってどういうこと?」
「どうやったら魔力量が増えると思う?」
「えー…何回も魔法を使ってると増えるって聞いたことがあるわ」
「確かにそれでも増えないことはない。だがそれは正確じゃないんだ。正しくは、『自分の取り込める限界の魔力量よりちょっと多い量を身体に取り込むこと』」
「はい!魔力を空気中から自分の意思で取り込むなんて人間のできることじゃありません!」
え?嘘でしょ?…あ!そっか!俺がスムーズに魔力を取り込む練習ができたのは前世の世界と空気の感じが違うって思ったからだった!この世界の人たちは空気中に魔力が満ちてるのが普通の感じだから魔力がどういう感じかわからないんだ!
ちなみに魔力の増やし方はデパートとかにある詰め放題の袋を思い浮かべるとわかりやすかった。
「ごめんごめん。じゃあこれでどうかな?」
そう言って俺はオリビアを囲むような形で魔力結界を張る。これは対象を魔法攻撃から守ったり、逆に魔法の発動をできないようにして拘束するためのものらしい。これの応用でオリビアの周りから魔力を奪って一時的に失くす。
「え!?何これ!?なんか変な感じ!」
「そうそう、その感覚忘れないでねー」
そう言って魔力結界を解除すると…
「さっき俺が奪ったのが魔力で、今身体の周りに戻ってきてるのが分かるでしょ?」
「あ!確かに!で、これを取り込むのはどうしたらいいのかな?」
「自分がわかりやすい感じでいいんだよ。口からでも鼻からでも耳からでも」
「耳からでも!?因みにユリウスはどんなイメージなの?」
「全身。それが一番効率良いと思ってるけど最初は口から吸い込んで身体に循環させるイメージで感覚を掴んだらやりやすいんじゃないかな」
魔力なんて触れたことの無かった俺からしたら全身が違和感の塊みたいな感じだから簡単だったんだよ。
「全身て。それは流石に無理そうだけど練習してみるね!スゥ〜…」
「あ、ちょっと待って。そんなに一気に取り込んだら…」
俺の静止の甲斐なく、オリビアは物凄い勢いで魔力を吸っていく。俺達の周りの魔力濃度が一時的に薄くなったように感じるほどだ。初めてでこんなにできるなんてすごいとは思うが…
「jfbvへbjsdんvbふじこvsぢp!?!?」
そう。感覚に慣れていないのに一気に空気中の魔力を取り込むと一時的とはいえ魔力に当てられて軽〜く狂っちゃうのだ。俺も初めて魔力を取り込む練習をした時は全身をかき乱さえるような感覚がしてえづいたものだ。
「おい、大丈夫か。ちゃんと人の話を最後まで聞いてからだな…」
「…………」
だめだ。完全に気絶してやがる。
起こすのも面倒だしまたうるさくされそうなので口の周りの吐瀉物だけ軽くきれいにしてあげたら放置。王都に着く直前くらいで起こしてやることにした。
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