第4話 やべえやつ()

お貴族様だった。


「あ、ああ、俺はユリウス。しがないただの村人だ。」


するとオリビアの目がスウッと細められ、


「嘘吐かないで。あなた、どう見ても十歳やそこらの子供よね?そんなあなたが盗賊団を壊滅させ、いや、これだけ論理的な喋り方をしている時点で異常だってことに気が付かないのかしら?恐らく王都の宮廷魔術師あたりが幻惑魔法か何かで化けて極秘調査をしていた、と思うのだけれど。」


流石はお貴族様。頭の回転が速い。

しかし俺の目的はオリビアに俺がただの村人だと信じさせることではない。


「いや、違う。俺の記憶が確かならその王都の魔術師さんもこんなことはできなかったはずだが?」

「ッッ!」


オリビアが驚愕の表情を浮かべて俺を見る。まるで気味の悪いものを見るような目で。。。


「じゃ、じゃあ、あなたは一体…」

「だから言ってるだろう?ただの村人だって」

「…そう。何が何でも正体は明かしたくないのね。まあいいわ、この状況であなたを疑うほうがおかしいものね。あなたが悪魔や魔王関係のやつなら私なんか助けるはずもない。信用するわ。…まあ、普通の村人だっていうのは信用する気はないけれど」


今度は俺が自分の耳を疑う番だった。普通なら警戒するだろう。この世界では脅威の象徴でもある悪魔にしかできないようなことをやってのけたのだから。「悪魔だったのね!」と言って怒りだすなり逃げ出したりするのが普通だと思う。そうでなくとも自分に計り知れない圧倒的な力を見て、それがほんの一端にしか過ぎないとなれば恐怖を抱き、警戒するはずだ。しかし目の前の女はそれをしない。それどころか警戒を完全に解き、俺を全面的に信用しているようにも見える。これだから……………




馬鹿共に必死に媚を売ってた自分が嫌になるんだ。



「こんな俺でも…信用してくれるのか…?」

「当たり前じゃない。何、どうしたの?まさかすごい才能があるからっていじめられたりしたことがあったとか?」


オリビアが誂うような口調で言うが…


「ああ…。俺を妬んだ奴らに嵌められてそれまでの努力を全て無駄にされたことがあってな…それを取り戻そうと必死に足掻いたのに…馬鹿共は俺よりあいつの方を信用して…それで…」


自分でも不思議だった。こんな話、もうこの世界では一生誰にも話さず自分の胸の奥に隠しておこうと思っていたのに…。どうして、信じてもらえるというだけでここまでスラスラと言葉が出てくるのか。どうして、俺の頬を何やら暖かい液体が流れて行くのだろうか。


「そう…大変だったのね…。実はね、私も家がちょっとお金持ちだったせいで兄や弟が財力を盾にして小さい頃から暴れまわっていて、彼らに酷いことをされた人たちが怒って大人しい性格だった私に八つ当たりしてきていたの。幼いながらに思ったわ…なんで私だけこんなことされなきゃいけないんだろうって。なんで好き放題やってるあいつらはなんの苦労もなくのうのうと生活してるんだろうって。それで貴族の生活が嫌になって父さんに話してお金を少しだけもらって家を飛び出したの。あいつらみたいに誰かの権力に頼って生きるなんてことはやめよう、自分の力であの馬鹿共を見返してやろうって…」


喋り終えるとオリビアはふうっと息を吐いて、


「さあ、そろそろ行きましょう!こんなところでウジウジしててもしょうがないし、魔物や盗賊が襲ってくるかもしれないしね!」

「あ、ああ。そうだな。ちなみに、これ何処に向かってるんだ?」

「?ああ、言ってなかったわね。王都よ、王都。ちょっと売り込みにいくの」

「そうか、ちょうど俺の目的地も王都なんだ。一緒に乗って行ってもいいか?」

「当たり前でしょう!逆にあんたがいなきゃさっきの盗賊共に護衛の冒険者を全滅させられた私はどうやって生きて王都までいきゃいいのよ!」

「いや、ここらの魔物くらい魔法とかでパパーっと…」

「できるか!!!」


そんなこんなで馬車を走らせること数時間。日が傾いてきたところで、


「そろそろ野営の準備を始めましょうか」

「そうだな。俺は食糧くらいしか持ってないが、テントとか持ってるのか?」

「え!?どうやって王都まで行く予定だったの!?」

「いや、今日中には着く予定だったから」

「嘘でしょ?高速飛行魔法でも使えなきゃ無理…ああ、ユリウスなら使えそうね…」

「まあ、使えるが…」

「使えんのかい!!!」


超話が逸れてる。


「で、野営の道具はそろえてあるのか?」

「ええ、もちろんよ」

「なら、早速出してもらえるか?」

「うん、分かったー」


俺たちはテントを張って各自の食糧で簡易的な食事を摂ると、オリビアはテントに潜り、俺は見張りとして周囲の警戒をすることにした。まあ、平原が広がっているだけなのでなんの危険もないが念の為、だ。


それから10分ほどが経過し、俺が前世でのことや王都についたら何をしようか等と考えていると不意にテントの中から声が聞こえてきた。


「ねえ、ユリウスは王都に行って何がしたいの?」


というオリビアの問いだが…


「いや、特に何も決めていないな。冒険者ギルドとかあるのかな?あるんならそれに登録して冒険者になるでもいいんだが…」

俺がさっきまで考えていたことを返すと…


「え?そんな歳で冒険者になりたいなんて言う子がいないからあんまり知られていないルールなんだけど冒険者には15歳からしかなれないわよ?あなたがその見た目通りの年齢ならてっきり王都立魔法学園にでも行くんだと思っていたのだけれど…」

「魔法学園…?」

「ええ、そうよ。一流の魔術師ならみんな卒業してるっていう世界最高峰の学園。私もそこ出身よ?え、まさか知らないってこと無いわよね?」

「初めて聞いた」

「………。じゃあその魔法はどこで習ったの?」

「大体は独学かな。何冊か本は読んだけど」


嘘はついていない。母はほとんど教えることなんか無いって感じだったし俺は本を読んでただけだ。自習だ。で、それ以上のことは俺が前世の知識とかから考えたことがほとんど。ほら、独学だ。


「えーー!!本当に!?てっきり山奥で世を捨てた賢者とかから生まれたときからキッツい魔法の訓練を受けてるのかと思ってた!!」

「世を捨てた賢者って誰だよ…」

「大賢者マーリン様、シオン様、ケヴィン様あたりかしらね」

「いるのかよ!」


因みに、オリビアは『真実の目』というギフトを持っていて他人の嘘を見抜くことができるらしく嘘が通じないとのこと。だからこそ俺のことを信用できたというのもあるのだろう。(ギフトとは、生まれたときから持っている固有スキルで、持っている確率はかなり低くギフト持ちっていうだけでかなり優遇されることが多いんだそう。)


「で、どうするの?学校行くか帰るかぐらいしかすることないと思うんだけど」

「幻惑魔法で年齢詐称してギルドに登録する…」

「どんだけ学校行きたくないのよ!!」

「学校なんで馬鹿共の掃き溜めでしかないじゃないか。行くメリットが無いだろう?」

「学校って勉強するために行くところだと思うんだけど!?そもそも、あそこってめちゃくちゃ難しい入学試験があるからそんな馬鹿はおとされるのよ?それに今年からは面接も始まるんだって。そんな馬鹿共は絶対落とされるわよ!」

「ふむ…。なら行ってみる価値はありそうだな。まあ気に入らないやつがいたら殺せばいいしな…」

「いい訳あるか!!」

「ていうかもう寝ろよ…。お前が見張りのとき居眠りしたら殺すからな」

「おやすみなさいッッ!!」


はあ…やっと静かになった………


ボゴオオォォォッッッッ!!!


俺が安堵のため息をついたその時、近くの土がいきなりめくれ上がって四散した。

何が起こっているかわからないが汚れるのも嫌なので下級物理結界魔法『ウォール』を展開し、土砂や土煙から自分とテントを守る。そのまま風属性下級魔法『ウインド』で周囲の土煙を払って下手人の姿を確認すると…。


そこにあったのは紅く輝く目で獲物を品定めするかのようにこちらを睥睨する漆黒の龍の姿だった。


「ギャオオオオオオォォォッッッ」


龍が咆哮を上げると風速40m/s位の風が吹き荒れる。俺が半ば反射的にオリビアに最上級結界魔法『セイクリッドウォール』を掛けると、その数瞬後にテントが跡形もなく吹っ飛ばされて漆黒の闇に消えていった。


「え!?私死んだ!?!?」


オリビアが素っ頓狂な声を上げているが生きているのは分かっているので無視。目の前の黒龍への攻撃を仕掛けようと上級魔法を発動せんと…


「グルォォォッ」


魔力の収束を感知した黒龍の巨大な鉤爪の俺の身体を引き裂こうと迫ってきたので仕方なく軽い『身体強化』で飛び退いて致死の一撃を辛うじて避ける。


「っっ!あれは…『土龍ランドイーター』…!?なんでこんなところに…!?はっ!ユリウス!無茶はやめて!人間に勝てる相手じゃないから!!」

「知るか!っていうかっ!戦わないならっ!どうすんだよ!逃げ切れるとかっ!思ってんのか!?」


俺の喋り方が変なのは黒龍がちまちまと爪で攻撃してくるためだ。


「それでも!死に急ぐことないじゃない!少しでも逃げ切れる可能性があるなら…」

「それは違うな。そうだ。いいタイミングだし、ちょっと魔法について教えてやるよ」

「はあ!?この状況で何言ってんの!?」

「まず、無詠唱で魔法を行使するのが強いと言われてる理由だが、それは詠唱の時間がかからないから高速で魔法を撃つことができるため。それと、相手に自分が今から使う魔法を悟られないようにするため。今この状況に於いて、相手に自分が使う魔法を悟られないようにする必要はない。だってこっちの言葉分からない奴が相手なんだから。そして、ちょっと時間を稼いでやりさえすれば…」


そう言いながら俺は『セイクリッドウォール』を展開。これは魔王の一撃と同格と言われる結界魔法で、この程度の敵の攻撃ならば20発は耐えられるはずだ。そうやって稼いだ時間で俺は詠唱を始める。


「『我が望むは全てを浄化す神の怒り。我が魔力を生贄とし神の怒りの代行権を我に与え給え。我らが神敵を滅さんがため魔王をも消し飛ばし塵すら残さぬ神の雷を我が手に』!『必滅の神雷』!!!」


黒龍が焦って俺の結界を破壊しようと何度も鉤爪を振るうがついに壊し切ることは叶わず、俺が詠唱を終わらせて両の掌を天に向けると遥か上空に巨大な魔法陣が発生し、所々から青白いスパークを放ち始めた。そしてその魔法陣が一際強く輝くと中央に向かって収束していき、見えなくなるほど小さくなったところで、


「『セイクリッドウォール』!」


再び結界魔法を展開し、俺とオリビアを包み込む。

直後、魔法陣が収束していった中心地点から真っ直ぐに黒龍目掛けて極太の光の筋が降ってきた。


ズガアアァァァンッッッ!!!


と鼓膜が破れるのではないかというような轟音を轟かせ、光の筋は黒龍に直撃。その後も数十秒にわたって振り続け、後に残ったのは直径10mにも及ぶ巨大なクレーターのみだった。俺たちはその中で、


「って感じで、術式によっては詠唱したほうが威力がちょっとは上がるものもあるから今みたいに余裕があるときは詠唱したほうがいい場合もある。さっきみたいに防御用の魔法や妨害系の魔法で相手の足止めをしてる隙にって感じでもオーケーだ。分かった?」

「分かるか!!!!!!」





クレーターのみ、と言ったがそれは正確ではない。実際には、俺達の前には僅かに紫がかったほぼ真っ黒のバランスボール大の大きな石が落ちていた。


「なあオリビア、これなんだか分かるか?」

「これ…まさか魔石!?こんなに大きくてこんなに魔力の純度が高い…。こんなの売ったらいくらになるの…?少なくとも神金貨50枚ってところかしら…」


すぐに金のことに考えが行くのは商人の性だろうか。ちょっと待てよ…神金貨50枚っていうと…


5億!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る