第3話 てんぷれ

さて、なんでいきなりこんなにもバイオレンスな性格になっているのか気になるだろうから飛行中の時間を使ってユリウスの前世について説明しておこう。

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ユリウスの前世での名は高橋賢治。高校一年生。享年16歳である。

テストでは常に学年1〜5位、90〜100点ほどをキープ。部活動ではテニスで県大会でベスト4。まあまあ文武両道のナイスガイ()である。

まあ、そんだけ出来りゃ少しは有名にもなるわけで、有名になったら目をつけてくるやつも出てくる。そんな感じで、学校の不良グループに目をつけられて帰り道にいきなりリンチされた。武器持ち5人ほどで囲まれて因縁をつけられて喧嘩になった。一応は武道もやっていたので、素人五人ぐらいじゃ負けるわけがない。とりあえずリーダー格のやつの顎にアッパーを食らわせて撃沈。そのまま隣にいたやつに殴りかかろうとした。


………が、そこで周りの奴らが一目散に逃げ出した。不思議に思ったが、仕方がないのでそのまま帰った。

次の日、学校中に噂が広まっていた。賢治がーーーある男をリンチして病院送りにしたと。

インターネットである画像が拡散されていたらしい。その画像は、賢治がリーダー格の男に飛び蹴りを食らわせたところを撮ったものだった。他のやつらもいつの間にかリーダー格の男に向かって武器を構えているように写っており、賢治が主犯となっていじめているようにしか見えないものであった。

賢治は嵌められたのだ。そんなにも決定的な証拠があっては誰も賢治の味方などしない。たった一人の親友を除いて、友達も、担任も、親ですら賢治の言うことなど信じずゴミクズを見るような目で見るようになっていった。その親友も前より少し余所余所しくなったような気がした。それまで賢治の高評価の理由でもあった勉強やスポーツに関しても、教師に賄賂を渡しているだとかカンニングをしていただとか、ドーピングして強くなっていたなどという根も葉もない噂が飛び交うようになり、賢治の居場所はどんどんなくなっていった。そんな日々がしばらく続いたが、賢治はめげずに地道な努力を重ね、周りからの評価の回復に努めていた。そしてしばらくして賢治の評価がある程度は回復した頃、賢治が倒したリーダー格の男が退院してきた(大した怪我でもなかったのだが、被害を強調するために無駄に長いこと入院していたのであろう)。もちろんそんな奴と関わりを持つ気など更々無い。無視しておこうと決めていたのだが……

退院したその日に、なんとその男は賢治に絡んできたのだ。それも…


「おい!高橋!お前のせいで俺はもう走れない体になっちまったんだ!お前に折られた足の傷が悪化してなあ!どうしてくれんだよ!俺の夢を奪っておいてシカトか!?ふざけんなよ!」


盛大な嘘まで混ぜて丁寧に賢治の評判を限界まで下げようとしてきたのだ。

プッツンきた。何が夢だ、下らない。足なんか折ってねえだろ。どうやったら顎にアッパー食らっただけで足の骨が折れるんだよ。っていうかお前、絶対演劇部とかだろ。演技力すごいな。

そこまで考えたところで周りからの視線に気がついた。喧嘩を見物するような好奇の目でも言いがかりをつける男への嫌悪でもない。


困惑、恐怖、憎悪といったマイナスの感情があらゆる方向から賢治に向けられていたのだ。そこで賢治は失望した。この数カ月、賢治が必死になって回復した信頼が目の前の男の言葉一つであっさり崩れ去っていたのだ。


ー俺が今までやってきたことは何だったんだ。

ーこんなやつの下らない嘘に騙されるようなカス共だとは思わなかった。

ー俺は今までこんな奴らからの評価を気にして何をやってたんだ。

ー今までの俺の人生は何だったんだ。


そして、キレた。恐らくこの首謀者はこの男。こいつのせいで俺の学校生活と将来はめちゃくちゃにされたのだ。ここまで話が広がってしまっている状況で弁解などしたところで意味などない。こいつのせいで俺の人生は。こいつのせいで。こいつのせいでこいつのせいでこいつのせいでこいつのせいでこいつのせいでこいつのせいでこいつのせいで!!


「うるせえ!!死ねえええええ!!!お前のせいで!!俺は!!!!」


そう叫んだのは俺。そのままその男に殴りかかる。前と違って男はやられるつもりはないのか必死に抵抗して俺の攻撃を避けたり防いだりしようとするが………遅い。俺の拳がヤツの頬に、鼻面に、胸に。足の爪先が鳩尾に、股間に、脛に直撃する。ヤツは悶絶しているが俺にはどうでもいい。


「お前のせいで!俺の人生は!!どうしてくれんだ!!ああ!?」


そう叫びながら俺は蹲る男をボッコボコにしていった。そして、男が全身骨折58本、打撲、裂傷、脱臼多数となったところで教師が騒ぎに気付き、俺を止めに入った。しかし俺はその教師を振りほどき逃げ出した。ここまでやってしまっては弁明など聞き入れてもらえるはずなど無い。そのまま数時間街中をさまよい歩き、これからどうしようかと思っていたところで、ふと10mほど前方を俺の親友が歩いて帰っていくのを見つけた。声をかけようとしたが、そいつも俺に気づいて先に声をかけてきた。


「おい、なんであんなことしたんだよ。俺、お前のことずっと信じてたのに」

「悪い。どうしても我慢できなかったんだ」

「お前がか、珍しいな。…まあいい、お前の無実の罪は晴らされたぞ。あの後、メンバーの一人が口を割ったんだ。全部お前を嵌めるための嘘だったってな。あんだけリーダーがボッコボコにされてんの見て怖くなったんだと。どうすんだ?あんなことやらかして明日から学校来れんのかな…」


全く…なんでそんなにお人好しなんだよこいつは…


「マジか、ありがとう。ちょっと家で一人で考えるわ。」

「おう、そうしろそうしろ。んで、明日絶対来いよ!お前が悪いなんて言うやつは俺が代わりにぶっ飛ばしてやるよ!」

「ああ、そうだな。今度はお前が被害者にならないように気をつけろよ」

「その場合は被害者じゃねえだろ…」


そんなこんなでポツポツと会話を交わし…


「んじゃあ俺そろそろ行くわ。」

「おう、ありがとな」

「気にすんなって、俺とお前の仲だろ」


そんなセリフを吐きながら横断歩道を渡っていくのを見ていた。そして、気付いた。大型のトラックが赤信号だというのに猛スピードで交差点に突っ込んでくるのに。考えるより先に体が動いた。俺は轢かれる寸前で間に入り、突き飛ばしてトラックから守った。彼は九死に一生を得たが、俺は助かるはずもなく即死。

そして冒頭に続く。

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というわけで、俺はそいつ以外信用できなくなっていたのだ。そして誰からも信用されなくていい、どうせ裏切るんだから。人間なんて所詮は他人がどうなろうとどうでもいい自己中心的な生き物なのだから。

そして、こっちの世界に来てからも一応は一番信頼していた母親に裏切られた。もう二度と人を信用するものかと心に決めていた。


さて、村を出てから小一時間ほどが経過。そろそろ休憩しようかと思って地上に降りたその時、盗賊に襲われている馬車を見つけた。一瞬関わり合いになるのはやめようとも思ったが、知り合いが全くいない状態で王都まで行くのも不安だ。見たところ商人のようだし、恩を売っておくのも悪くない。

…まあ、なにか期待すると裏切られた時にがっかりするので何か見返りがあったらラッキーぐらいの人助けである。

そこまで考えたところで俺は馬車に近づいていく。

そして何人かの盗賊が俺の姿に気付いたところで、


「盗賊共!命が惜しければ大人しくその馬車を諦めて投降しろ!さもなくばぶっ飛ばすぞ!!」


盗賊たちは一瞬呆気にとられたような表情をしていたがすぐに正気を取り戻すと、


「ああ!?何言ってんだこのクソガキ!大人に逆らったら怖い目に遭うってことを教えてやるよ!」


そう言って盗賊の一人が俺に殴りかかろうとしてきた。手に持っていたサーベルを鞘に収めているのはガキだと思って舐めているのか甚振って楽しもうとしているのか。まあ、両方だろうね。

…はあ…。盗賊ってこんなもんなんだ。相手の実力も分からないで見た目に騙されて甘く見てやられちゃうんだ。

俺は盗賊の拳を躱して懐に入り、相手の腹に手を当てて魔力を集中、風属性を与えて衝撃波に変換。切断することもできたが、血がかかるのとかは嫌なので血が出ないように殺すためにに風の刃ではなく衝撃波に変換した。(風属性中級魔法『インパクト』)

魔法の衝撃波をモロに食らった盗賊は数十m吹っ飛んで止まった。


「おい、どうした!あんなガキ相手に何やってんだよ」


仲間の盗賊と思しき男が駆け寄って介抱するが、


「気をつけろ…あいつただのガキじゃねえ…多分王国の騎士とかが幻惑系魔法で化けてるぞ…」

「おい!しっかりしろ!チッ、おいお前ら!相手はたった一人だ!一気にかかれ!」


男はそれだけ言い残して息絶えたので、介抱にかかっていた男が周りの仲間に指示を出す。盗賊たちはもう俺を子供だと思って油断せずしっかりと5人で隊形を組んで波状攻撃をしかけてきた。さらに後衛部隊2人が魔法の詠唱を始めているようだ。詠唱の長さからして上級魔法らしい。

なかなか悪くない連携だな。相手が一人ならどう足掻いても大きなダメージを受けるようないい攻撃だ。

…まあ、相手が普通の人間ならば、だが。


俺は先ず前衛の奴らの処理にかかる。土属性中級魔法『アースウォール』を奴らの周囲に発生させて囲むことによって動きを封じ、『インパクト』で破壊し、内側に向かって崩壊させる。そのまま土属性中級魔法『グラビティ』で押し潰して圧殺したら次は後衛の魔法部隊だ。と思ったらまだ魔法の詠唱は半分くらいしか終わってなかったようで、詠唱に集中して前衛が全滅したことにも気付いていない様子だ。せっかくなので詠唱が終わるのを待ってあげる。


「…飲み込め!『ダイダルファイアウェーブ』!」

「…切り裂け!『テンペストウィンドストーム』!」


さすがは上級魔法。高さ20mはあろうかという炎の波が俺に向かって押し寄せるのと同時に昔テレビで見たアメリカのハリケーンを彷彿とさせる巨大な竜巻が炎の一部を巻き込みながら襲いかかってきた。

しかし、こいつらは魔法の選択を間違えた。これらは、どちらも大軍を相手にするときの広範囲殲滅魔法なので、相手が一人だと効果は薄い。俺は水属性中級防御魔法『アクアアーマー』を発動して身体を炎から保護すると、『身体強化』で脚力を強化して炎の波に突っ込んだ。俺が跳んだ勢いによる風圧と『アクアアーマー』の防御によって相手の攻撃は全く俺には届かない。ハリケーン?そんなの風速よりも速く飛べばなんの問題もないんだよ?


「ぐわっ!」

「ぐふうっ!」


逆に勢いそのままに突っ込んだ俺のダブルラリアットによって二人が大きく吹っ飛ばされ、大きな岩に頭を強くぶつけたところで止まり、ピクリとも動かなくなった。こうして俺の異世界初の戦いは終わった。もちろん前世では人殺しの経験なんか無かったわけだが、思ったより罪悪感とかは無かったな。こんなゴミみたいな連中だからだろうか。



盗賊共との戦闘を終えた俺は奴らに襲われていた馬車の幌を捲って中に声をかける。


「おい、大丈夫か?」


盗賊たちを適当に拘束した俺は馬車の安否確認をしていた。すると端っこで震えて丸くなっていた17歳くらいの女の子が恐る恐る顔を上げてこちらを見て盗賊じゃないと分かると顔を輝かせて、


「は、はいっ!ありがとうございます!馬車の一部が壊されてしまってますが怪我はありません!」

「そうか、なら良かった。もう襲われないように気をつけろよ」


そう言って俺が踵を返して立ち去るフリをすると…


「待ってください!せめてお礼だけでもさせてください!」


まあそうくるだろうな。


「お礼っつっても大したことしてないぞ?」

「いやいや、世界中で知られている最強の盗賊団『マジシャンズブラッド』から女の子を救っておいて大したことじゃないってどういうことですか!………ん?そういえば盗賊たちはどうしたんですか?」


え、マジか。あいつらそんなに有名な奴らだったんだ。


「ほんとに?バカな奴らだったし偽物かなんかでしょう」

「いやいや、上級魔法の詠唱が聞こえてましたからね!?上級魔法使える盗賊団なんて『ブラッドマジシャンズ』だけですよ!」

「は?なんで?上級魔法ぐらい練習すりゃ誰でも使えるでしょ?」

「んなわけないでしょう!ただでさえ消費魔力が多いのにあんなに長い詠唱を憶えて失敗せずに唱えるなんて普通の人間には無理ですよ!ましてや盗賊なんて努力もなんもしないクズのはずなのにあんな高度な魔法使えてしかもそれを悪事に使うような奴らですよ!?だから有名になったんですよ!え!?まさか上級魔法使えるんですか?」

「まあ、上級ぐらいなら使えるが…」

「はあ…。まるでそれ以上の魔法も使えるみたいな言い方ですね…」


実際、村にあった歴史書に書いてあった『今は使えるものはいないが理論上存在している魔法』とかいうのも一通り使えるようになったし前世の知識からいくつか魔法を自作したりもしたしな。


「それは置いといて、じゃあその上級魔法とかでボッコボコにしたってことですね。」

「いや、中級魔法と初級魔法と身体強化ぐらいしか使ってないぞ。相手の魔法の使い方がなってなかったから上級魔法なんて使うまでもなかったんだ。」

「え?相手は上級魔法使ってきてましたよね?なんで中級魔法とかで勝てるんですか!?」

「はあ…。いいか?上級とか中級とかっていうのはな、発動に必要な魔力の量から区別されてるんだ。んで、さっきあいつらが使ったのは広範囲殲滅魔法。相手がいっぱいいたなら有効だけどさっきみたいにこっちが一人だと無駄が多いんだよ。だから中級の防御魔法で十分だったってわけ。わかった?」

「?????」


分かってねえな。


「なあ、もういいだろ。せめて自己紹介だけでもしてくれ。あんたをなんて呼んだらいいのかすらわかんねえだろ?」

「え、は、はい。私はオリビア・バーリエンス。バーリエンス伯爵家の長女で、オリビア商会の代表です。」


お貴族様だった。

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