第2話 追放されて…
それから教えてもらったこと。
ー算数ー
貨幣価値。
木貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、聖金貨、神金貨がある。
それぞれ一円、十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円、一千万円ほどの価値。物価についてはほとんど地球と変わらない。単位はゴールド。G。分かりやすくて良いね。
計算方法は地球と同じく十進数。
一年は360日。12月まで。
時間も一日ほぼ24時間だが、何時とかの区別はなく、大体でだそう。
ー歴史ー
気が遠くなるほどの昔、神々と悪魔の軍勢が大戦を繰り広げたらしい。神々は辛うじて勝利を収めたが接戦だったため酷く消耗してしまい、封印した悪魔の軍勢の総統である七の魔王たちを封印した祠を地中深くに隠し、もし自分達の力が失われてしまっても簡単には復活できないようにした。しかし、その大戦の影響で神々の力が次第に衰え、封印の力が弱くなったのをきっかけにその魔王たちの魔力が地中に溶け出してダンジョンが形成され、そこから魔物が地上に溢れ出して現在も人々を困らせているらしい。七の魔王たちを封印した祠があるダンジョンを総称して七大迷宮と呼ぶのだとか。冒険者と呼ばれる職業の人たちが地上に溢れ出して周りに魔物を駆除したり、ダンジョンに入って強い魔物の貴重な素材を手に入れたりしているそう。ダンジョンは恐らく百層まであって深いところの方がより高価で貴重な素材が手に入るのだとか。ここから一番近いダンジョンでも現在は二十層までしか攻略されていないとのこと。やっぱ魔王が封印されてるダンジョンなだけあって結構難易度が高いっぽいね。
数百年前、その七大迷宮を管理すべく神々は七人の力ある者たちに神託を与え、迷宮の管理者とした。その子孫たちがダンジョンの近くに国を創設、それが現在は七大国と呼ばれてるらしい。その中でここから一番近い国はモーマン王国だそう。
ー魔法理論ー
大体は前から習っていた魔法と一緒なのだが、追加の情報がいくつか。
魔法には詠唱というものがある。魔法は術者のイメージした現象を魔力を使うことで引き起こすもので、明確なイメージがあるほうが威力も高く、消費魔力も少なくて済むらしい。あまりにもイメージ力が足りていないと、威力が落ちるとか消費魔力が多くなるとかじゃなくて、全く発動しない。その上発動に必要な魔力は消費される。ほとんどの人はそこまで明確なイメージなんてできない。そこで詠唱の出番だ。イメージや魔力変換の補助のような感じで使うものだそう。メリットとしては、無理に無詠唱で魔法を使おうとするよりも効率よく魔法を発動できるんだそう。デメリットは、大声で自分が今から使う魔法を宣言するようなものなので、相手に対策をとられてしまうことと、何分発動までに時間がかかるのでそれまでに接近されて近接攻撃でやられてしまうことが多いそう。なので、魔法使いを目指すものの多くは近接戦闘も少しは学び、出来るだけ短い詠唱で魔法を発動できるように練習するのが魔法使いの練習の定石だとか。…あれ?
「俺、最初っからいきなり無詠唱で魔法使っちゃったけどいいのかな?」
「い、いいんじゃない?時々すごい才能持ってる子供もいるらしいし‥」
歯切れが悪い。なんでだろうね。っていうか、変に飲み込みの早い子に引いてるような…
「えっとね、無詠唱であんなに高度な魔法を魔力漏れ無しで放てる人なんていないの。モーマン王国の王都の魔法師筆頭の人だって無詠唱だけど一番得意な魔法で魔力漏れが5%なの。ユリウスのさっきの魔力漏れは0なの。どれだけすごいことかわかった?」
子供なのでわかりませーん。
因みに、『魔力漏れ』というのは無詠唱で魔法を発動する際に、魔力が発動する魔法以外の方向に出ていってしまうことをいう。本来魔法発動に必要な魔力に対して放出されてしまう魔力をパーセンテージで表す。普通は100%超えで、50%以内に抑えられたら天才の部類に入るのだとか。へー、その筆頭の魔術師さんすごいね。
「なんだか外が騒がしいわね」
俺がそこまで考えたところで母さんが不思議そうに声をあげる。
確かに、家の外で村の住人たちが騒いでいるようだ。
「ちょっと様子見てくるわね」
そう言い残して母さんは様子を見に外へ出ていく。外から聞こえてくる声は、「魔物が…」「こんな魔法…」と言っているので恐らく村に魔物が現れたようだ。
俺は迷わず玄関を飛び出して声が聞こえる方へ向かう。しばらく歩くと人だかりができていたのでその中心に向かう。そしてそこにあったのは…
ユリウスが切り倒した木だった。
「なんだ…魔物でも何でもないじゃん…」
くだらない。そう思って踵を返して家に戻ろうとしたとき。
「おお、ユリウスか。ちょっと見てみい。」
人だかりの中心にいた村長のおっさんが木を指さして言った。
仕方がないので俺もそれを注視する。うん、なんの変哲もない木じゃないか。
「村長さん、これがどうかしたの?」
「ふむ、この切り口を見てみい。物凄く鮮やかじゃろう?斧で伐ったのならもっと断面が汚くなるはず。風属性の魔法で切ったのなら詠唱が周りの住人に聞こえておるはず。そう考えると、これをやったのは魔物。例えばグリフォンが高位の風属性魔法で切った、いや、グリフォンの魔法よりも威力が高いようじゃからグリフォンよりも高位の魔物、もしかしたらウインドドラゴンあたりの仕業でもないかという話になってな、王国のギルドに連絡して冒険者を派遣しようと…」
村長が胸を張って何故かドヤ顔で言うと…
「何言ってるんですか村長!?まだ魔物だって決まったわけでもないですし、冒険者なんか雇ったらめちゃめちゃ金がかかるんですよ!?わかってるんですか!?」
若い男が村長に反対の声をあげる。
「仕方ないだろう!もしこの村がウインドドラゴンに襲われでもしたら君は責任を取れるのかね?君が単独でウインドドラゴンを討伐できるような人材ならば喜んで任せよう!しかし、君はただの木こりだろう?なら、尚更こんな切り口を作り出すほどの魔物がこの村にとってどれだけの脅威かは分かるだろう!」
「くっ…」
おお、村長強え。しかし、
「ねえ、村長さん。もしウインドドラゴンとかが現れたんなら誰も姿を見てないのっておかしくない?それに、これやったのが魔物ならなんで木の幹一本だけ切るの?普通は人間を襲うんじゃないの?」
無垢(笑)な目で村長を見つめながら言う。
「「………」」
おい、絶句すな。
「そ、そうじゃな。ユリウスの言うとおりじゃ。…ではユリウスよ、これはなんの仕業じゃか分かるのか?」
村長が何故か挑戦的な目をこちらに向けながら問いかけてきた。まあ怖い。
しかし…
「分かるに決まってるじゃないですか。これやったの俺なんですから。」
「「「「…は?」」」」
「ちょ、ちょっとユリウス、何言ってんのよ!大人をからかっちゃだめでしょ!」
慌ててマリアが間に入ろうとするが、
「いや、儂にはユリウスが嘘をついてるようには見えんかった。きっと本当のことなのか本当に自分がやったと勘違いしておるかじゃろう。ほれユリウス、本当にお前がやったのならもう一回できるじゃろう。やってみせい」
「いいんですか?」
村長の目がなんかムカついたのでさっきよりも出力を上げてさっきのを放つ。
ゴウッという音を上げてさっきのより大きい風の刃が飛んでいく(透明なので見えてはいない)。
そのまま飛んでいった俺の魔法は直径50cmほどの木の幹を三本ほど切り倒す。
「ね?」
「「「「………は?」」」」
「ね?」
「マリア、この子にいつから魔法を教えておるんだ?」
「えっと…今日魔法の詠唱について教えようとして一回やってみせたらこんな感じでした…」
マリアが申し訳なさそうに正直にそう答えると村長の表情が明らかに強張った。
そして…
「あ…あ……」
目玉が飛び出るほどに目を見開いた村長が言葉を絞り出すように…
「悪魔の化身じゃあああああああ!!!!!」
「「「「うわああああああああああああ」」」」
村長がそう叫ぶと周りから悲鳴があがって野次馬共が蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げていく。
そこに残ったのは状況を理解できない俺と母さんと村長のみ。母さんも「あ…悪魔の…」と言って震えている。
村長が残ったのは腰を抜かして逃げられなかったからである。
「なあ村長さん、悪魔の化身ってどういうことですか?」
ムカついたのでちょっと強めの口調で村長を問い詰める。
「ひ、ひい…!!その通りの意味です!悪魔の魂が乗り移った者や悪魔の下僕となって命令に従っている者のことです!」
「へえ、じゃあなんで俺が悪魔の化身認定されなきゃなんないのかな?」
「あんなにも強大な魔法を魔力漏れ無しで放てる人間がいるわけがないでしょう!あなたはさぞかし高位の悪魔なんでしょう!?」
なんでそんな悪魔がこんな辺鄙な村を襲撃しようとすんのかねえ?
「んなわけないでしょう。ただの村人ですよ。」
「「いや、少なくとも『ただの』村人じゃない!」」
知るか。っていうか今更ながら子供っぽい口調で喋んの忘れてた。
「そもそも、俺が本当に悪魔ならこんなに非効率的なことはしませんよ。どうせならもっと大きな街に潜伏しますし、こんな風に自分の正体を簡単に晒すような真似するわけがないでしょう。」
「い、いや、どちらにせよ普通の人間ではないだろう?普通の5歳児があんな魔法を使うのもおかしいが、そんなに喋れるのもおかしいだろう。そんなに論理的に話せる5歳児なんかいると思っておるのかね?」
あ、しまった。
「えーっと、実は神の使いなんですよ。言葉も魔法も神託で神様に教えてもらいましてね…」
こんな言い訳母さんぐらいにしか通用しないだろうと思うが…
「嘘を吐くな!神は死んだ!!」
「は?そんなの聞いてないんだけど。どゆこと?」
予想の斜め下を行く返答。
俺は母さんに聞く。
「え、えっとね…実は10年ほど前に世界中のダンジョンが活性化して魔物が一気に強くなるっていうことがあったの。だから今は神様が大戦の後遺症かなんかで死んじゃって封印が一気に弱まったんじゃないかって話になってるの。」
ああ、だから俺が夢で神様に…みたいな話をするとちょっと変な態度になってたのね。…イタい子だと思われてたんだ。
「じゃあそのこと俺に隠してたんだ。なんで?」
「あくまでそうだろうっていう話だったしユリウスが神様のことを信じてるみたいだったから言いづらかったっていうのもあるの。ごめんね」
「はあ…まあいいや。とりあえず俺が何者かってことに関しては放っといてくれる?一応はあんたらに危害を加えたりするようなもんじゃないけどあんたらの対処次第では敵対しなきゃなんないかもしんないから。」
もし俺が転生者だってことを公にでもされたら面倒なことになるの確定だしね。
「むう…ならば仕方ない。ではユリウスの素性を含めて村のみんなには黙っておこう。」
いや、ちょっと待てよ…
「なあ、そういえばもう手遅れじゃないか?村長さんさっき大声で悪魔の化身だって叫んでたじゃん。」
「「あ。」」
はあ…。騒ぎになってた時点で予想してたけどこれは…
「いいよ。俺、この村を出てくよ。こんな悪魔の化身みたいなやつとなんか一緒に生活したくないでしょ?」
「ちょ、ちょっとユリウス!何言ってんのよ!そんなわけ無いでしょ!」
「母さんはそうかもね。でも、村長が何も言わないのが村人みんながどうするのかを如実に表してるんじゃないかな。ねえ村長?」
「村長!ユリウスと一緒にいるのが嫌だなんて言いませんよね!?」
「………」
しかし村長は何も答えない。つまりはそういうことだ。
「村長!」
「もういいよ母さん。俺だって村長の立場ならそうする。…じゃあ村長、今すぐにでも出ていきますよ。その代わりと言ってはなんですが、せめて旅の準備だけでも支援してもらえませんかね?流石に着の身着のままほっぽりだされたら生きていける自信ないので。」
まあ、どうにかはなるだろうけどね。
「何言ってんのよ!ずっとここで暮らせばいいじゃない!出ていくなんて許しません!外には魔物がいっぱいいてすっごく危険だって教えたでしょう!?」
「魔物くらいどうにでもなるよ。だって俺は…」
俺は母さんの方を向いて…
「『悪魔の化身』なんでしょ?」
「っ!」
母さんーーマリアが悲痛な表情をしているが最早どうでもいい。
「で、村長。ちょっとした食糧とお金だけでいいんで貸してもらえますか?大きくなったら返しに来るつもりですけど信用できないなら結構ですが。」
「わ、分かった。希望するだけの食糧と金貨一枚を貸そう。王都に入る時に通行料として銀貨一枚が必要になる。もしものことがあるかもしれん。残りは好きにしていい。」
「わかりました。じゃあ食糧は、携帯できてまあまあ日持ちするものを3日分ほどお願いしますね」
「分かった。では少し待っていてくれ。すぐに準備して持ってくる。」
「ええ。出来るだけ早くお願いします。」
「分かっている」
そう言い残して村長は自分の家に向かって駆けていく。
残ったのは俺とマリアの二人。マリアは啜り泣きながら、
「…ユリウス…ごめんね…私が一番あなたを信用してあげなきゃならないはずなのに……」
「気にしないで。どうせすぐにこの村を出ていくつもりだったし会いたくなったら戻ってくるから」
「うう…ごめんね…」
「気にしてないから泣かないで。せめて最後くらいは笑顔で見送ってほしいな」
嘘である。慰めるのとかは苦手なのだ。
「うん…そうだよね…ユリウスの方が辛いはずなのに私ばっかり泣いてちゃだめだよね!せめてユリウスが元気に旅立てるように笑顔で見送らなきゃね!」
なーんて言ってるが、俺まだ五歳だよ?なんでそんなに物分かりがいいのかね?いくらあんたの脳内がお花畑だっていってもおかしいでしょ。さっきから少しマリアの目が泳いでいるのと関係あるのかな?
…やっぱりマリアも俺のことを気味悪いと思ってたってことだろうね。
ちょっとは気を使おうとした俺の気持ちを返せ。
「おーい!用意できたぞー!」
ちょうどいいタイミングで村長が戻ってきた。良かった、いつまでもこんな空気の中でいたくないからさっさと村を出ていくに限る。
「うん、ありがとう。しっかりと金貨一枚と…食糧もこれだけあれば十分かな。じゃあそろそろ行くね。」
俺はそう言って『身体強化』を発動し、脚力を強化して思いっきりジャンプする。習ってない魔法だが、マリアが集めてくれた本はすべて読み尽くして暗記したのでこんなことは容易い。魔法はしっかりと発動し、俺は50mほど飛び上がった。そのまま飛行魔法を発動し、高度を維持しながら王都に向かって飛んでいく。
いきなり飛行魔法で飛ばなかったのは、飛行魔法というのは飛び立つときが一番魔力を消費するという性質を持っていると予想したからである。飛行機が離陸の時に一番燃料を消費するのと同じ原理である。実際、本で読んだ消費量の半分もかかっていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます