火曜日Ⅱ
放課後の清掃活動に向かおうと外へ出ると、なにやら賑やかな声が聞こえた。子供たちの黄色い声が弾んでいる。なにをして遊んでいるんだろうと目を向けると、初等部の子供たちに囲まれた
先輩はこちらに背中を向けているので僕には気づかない。先輩の目の前に順番待ちの列ができている。先輩はぐっと腰を落とすと、一番前の子の脇の下へと両手をいれた。
「スリー、ツー、ワン! ロケット発射!」
そう言うと勢いよく立ち上がり両腕を天に向けて伸ばす。必然、子供の身体がふわりと宙へ浮いて、歓声が上がった。ロケットとなり空を飛ぶ少年は目をきらきらと輝かせ、頬を興奮に赤く染めている。
「ほーら、ぐおーん!」
効果音をつけながら先輩が身体をぐいと捻り、飛行経路に変化をつける。きゃっきゃと楽しげに笑う子供たちに僕が目を細めていると、不意に視線がぶつかった。先輩の口が「あ」という形で固まる。ついでに身体も固まったため、子供たちからブーイングが起きた。
「いや、風船が木に引っかかったていうからさ」
子供たちに手を振って、先輩が恥ずかしそうに言う。風船が取れるようにとひとりの子供を担ぎ上げたのがきっかけとなり、僕も僕もと次々に志願され先輩はアトラクションと化したらしい。体力自慢の先輩も子供たちの無邪気なパワーには勝てないらしく、少々疲れたように肩をぐるぐる回していた。
「恥ずかしいところ見られたな」
なんて先輩は言うけれど、僕は素敵な場面に出会えて嬉しかった。先輩は誰にでも分け隔てなく接することができ、気持ちのいいくらい快活な人だ。僕にはとても真似できない。
「私、子供が好きなんだ。将来、好きな人と結婚してその人の子供が産めたら、それ以上幸せなことはないと思う」
ふざけあいながら遠ざかっていく小さな背中を愛しげに見送りながら、先輩がぽつりと言った。柔らかく笑みを形作る唇からポロリと零れ落ちたその言葉はきっと先輩の飾らない本音だったのだろう。その証拠に先輩はハッと我に返ると顔を赤くした。
「男みたいにがさつな私がこんなことを言うなんて変だろ。笑うなら笑ってくれていいんだぞ」
腕で口元を隠しながら先輩が言うが、僕に笑う気なんて一切なかった。そもそもほむら先輩のことをそんなふうに思ったことがない。先輩は明るくてとても魅力的な人だと思う。
「わ、私、走ってくる! ランニングの途中だったんだ!」
僕の言葉を最後まで見ることなく、慌てて先輩は走り出した。揺れるポニーテールの隙間から、ほんのりピンク色に染まったうなじが見え隠れしていた。
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