木曜日Ⅳ

 七色ななしき先輩は宙を見つめていた。なにを見るでもない。ただ目を開いているだけだ。


 先輩の内部で決定的な崩壊が起きた。それは僕が起こしたものだけれど、意識すら手放したような先輩の姿に僕は今更のように動揺していた。進む道を間違えたのではないかと、後ろを振り返ってばかりいる。


 でも、そこにあるのは深い闇で、道はとうに閉ざされている。戻ることはできない、一本道。ならば、行くところまで行かなければならない。


 その覚悟が固まる前に僕は行動を起こす。きっといつまでもそんなものはできないから。


 楕円形の小さな機械を取り出して、先輩の眼前にかざす。その懐かしさに思わず僕も泣きそうになる。数年前に流行った携帯ゲーム機。僕の大切な友人の遺品。


「あ」


 先輩の虚ろな目がぐるりと動く。ゲーム機に焦点が合う。大きく見開いた目の縁から、ぼろりぼろりと涙がこぼれていく。声もなく、泣いている。暗い室内でふたり、声もなく、泣いている。

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