土曜日Ⅰ
熟した柿のような色をした太陽が山の向こう側へと消えた頃。紫色の夜がやってきた頃に、チャイムが鳴った。
「こんばんは、後輩くん」
訪ねてきたのは
「今日も遊びにきちゃった」
チロリと舌を覗かせる。グロスで照る唇と真っ赤な舌は妖艶な雰囲気を醸し出し、先輩を年齢以上に大人に見せる。僕はどうぞと手のひらで室内を示す。
「お邪魔します」
高校生が履くにしては高すぎるピンヒールをひょいと脱ぐ。ペタペタと音をさせる足の爪はピンク色に濡れていた。
先輩は部屋へ入るなりベッドへと寝転ぶと、枕に顔をうずめた。うちに来ると毎回これをやる。
「後輩くんの匂いがするから」
どうしてそんなことをするのかと前に聞いたとき、先輩は意地悪そうな表情でそう答えた。毎日きちんと洗っているからそんなに匂いはしないはずなんだが、と密かに気にしている。
「気にしないでいいの。いい匂いなんだから。男の匂い」
先輩が目をとろんとさせて言う。
「ねえ、私興奮してきちゃった……」
上目遣いで僕を見る。横向きに寝転び、くびれを強調するように腰に手を当てる。シャツを引っ張り胸のふくらみを殊更に主張させる。
僕はため息をついた。先輩は毎週うちにやってきてはいろんな切り口でこうして僕を誘惑してくるのだ。
「私、魅力的じゃない?」
僕は興奮してませんと伝えると、先輩は納得がいかないとばかりに言った。もちろん先輩は魅力的だ。美人だし、スタイルだっていい。普通の男ならばイチコロだろう。
だけど、僕は違う。僕は、僕だけは先輩に欲情してはいけない。
「言い切ったわね、後輩くん。いいわ、その挑戦受けて立つから!」
先輩はうつぶせになると、脚をバタバタとさせながら「次は思い切って下着姿できてやろうかしら」などと作戦を練り始めた。隣の部屋からだから外にいる時間は少ないけれど、それはやめなさい。風邪をひいても知りませんよ。
「風邪? あ、看病シチュもいいわね。弱ってる女って襲いたくなるでしょ?」
なりません。先輩の歪んだ価値観を正すべくきっちりと否定して、僕はシンク下から鍋を取り出した。晩御飯を作るのはいつも僕の役目だ。
「いつもパスタごちそうさま」
先輩がだらけた体勢で言う。ベッドから半身がずり落ちている。苦しくないのだろうか。
「お礼は身体でするね」
ハートマークを飛ばしながら、シャツをまくりあげておヘソを見せつけてくる。僕は沸騰した鍋にパスタを放り込みながら、彼女――七色
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