第29話
レンには一人、最近になって急に男の子になった気になる子がいる。
いや、正確にはレンがレンとして生きる前から知っていた男の子が好きになった。
レンはレイが自立を果たしたことによって神様の“おせっかい”の適性が元々あったためか恩恵が増大し、ある神父ともレイとも異なった恩恵を受けた。
それは“過去の記憶を引き継ぐ”こと。
過去の記憶はレンとして生きていないし、全くの別人の記憶だ。だが、それが自分で見てきたかのように鮮明に脳裏に焼き付いている。
残念なことにそれはレイに関することのみ、という制限付きではあるが。
レンはそんな制限は気にしなかった。
レイが、話したがらなかったことを知っている。共有出来る。心の底から大丈夫だよ、と言ってあげられる。それができるようになったことが嬉しかった。
レイがおばあちゃんの荷物を持ってあげたことも、一緒に暮らしていたことも、自分の記憶ではないが知っている。
だからこそ、周りの人がレイにした仕打ちは許せなかった。
容姿が汚い?
仕方がないじゃないか、誰も洗うところを恵んでくれることなく、かと言って実年齢が二桁もいっていない少年がちゃんと洗えるはずもないじゃないか。
嫌悪感がする?
違う。そんなものは嫌悪感なんてものじゃない。それは腫れ物を扱うかの如き視線で舐めましてみた挙句、救う必要は無いと切り捨てたからそう感じるのだ。
どうして救いの手を差しのべてあげないのか。
どうして、少年は初めからみんなに見捨てられるのか。
過去を知れば知るほど怒りが湧いたし、人に対して呆れもした。
自分なら絶対にしない。そう心に誓いながら。
自分の得た記憶、経験からのレイはいつも楽しそうで嬉しそうで、輝いていた。
最初はそれこそ機会がなかったがために経験を積むことが出来ず、孤児になってしまった可哀想な子、という印象でしかなかったが、今では男前のカッコいい男になった。
ドキッとした。
今では庇護欲を掻き立てるような顔をしていたのに、立派な一目惚れだった。
ただ、過去を知るというのは怖いもので、忘れているもの、特に忘れたかったものまでも思い出してしまう。
レンは悟る。
そう近いうちに今のような生活ができなくなってしまう。もっと言えば、生きていられずみんな仲良く死ぬ。
レイは“不老不死”の恩恵を受けているから仲良く死ぬか分からないが、ともかくレイ以外は為す術もなく、神様によって死ぬ。
それまでにレイにこの気持ちを伝えられるだろうか。
無理だろうな、と自虐的に思う。
初恋なのだ。
何をどうすればいいか分からないし、何より気持ちを言葉にして尚且つ、好ましいと思っている相手に伝えるのはまず無理だろう。
レンは布団の中でバタバタと足を動かす。
深夜なので大声は出さないが「あぅあぅ」と小さく声を漏らして喘いでいた。
抱きつかれたのだ。
レイに。
ぎゅっと。
顔が熱い。きっと真っ赤になっているのだろう。レンは気持ちを落ち着けるようにふーっと深過ぎるほどの深呼吸をする。
そして、ふと。
レイは平気なのだろうかと思った。
レイが抱きついてきたとはいえ、初めてで相当に照れていたことは見て取れた。だから、もしかしたらレンと同じように布団の中で悶えているのかも。
そんな期待をしていたが、全然そんなことは無かった。
レイは静かに寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っていた。嘘寝、という線もあるが、それにしても気持ちよさそうに寝ている。
むっと変な感情が湧いた。
具体的には安心と嫉妬が入り混ざったような変な感覚。
「レ〜イ〜」
「……う〜ん」
どうやら眠りは浅いらしい。
物音を立てると起きてしまうかもしれないが、誘導尋問するチャンスでもある。
レンは勿論、チャンスを無駄にしたりはしない。
「レイは私のことが……す……」
ぼふっ!!
体温が一気に上昇し、次の言葉が出なくなる。
「す〜」
腑抜けた「す」にむっとくるが、そんな声も寝顔も可愛らしいと思う。
言葉を浸透させるのは何よりレンが無理だったので、代わりにとばかりに頬をつつく。
眉間に皺を寄せた後また、気持ちよさそうに寝息を立てるレイに、レンは新しいおもちゃを見つけた気分に駆られる。
しばらく遊んでいると、レイの顔を見ていたからか、安心してきて眠たくなってきた。
ここでレンはレイと共に寝るか、自分のベッドまで帰るかの選択を迫られた。
いつもなら、ベッドにいそいそと戻り思い出してニヤニヤするのだが、今日はなんだかいつにも増して眠たい。
あと、レイの温もりを感じていたかった。
「私も入っていい?」
「ん……みゅ」
肯定と受けとる。
例え、否定的に聞こえたとしても幻聴として肯定にしただろうが。
レンはいそいそとレイの布団の中に入る。
(あー、レイの匂いがする)
落ち着くいい匂い。
レイの腕を強引に枕にして、レイの胸にひっついて。
レンはご就寝なされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます