第27話



「大分大きくなったな」


 神父の一言にレイは嬉しくなった。

 ちゃんと言いつけを守ったから伸びることが出来た。神父のおかげだ。

 レイは心の中で感謝した。


 隣に座るレンは少し面白くなさそうにレイを小突く。


 勿論、レイはレンのこの態度がわざとだということはわかっている。

 神父の反応が見たいのだ。


「僕も伸びたよ!!」

「神父様のおかげだってずっと言ってるの」

「そうか。私は自立をするためのやり方は確かに教えた。が、努力はレイ自身の力だ。もっと誇っていいんだぞ?」

「うん……」


 あまり納得の言っていない声色に、レンは堪らず苦笑をこぼす。


「今日は恋、について語ろうと思う」

「恋?」

「ロマンチックなテーマね!」


 レンは何故かとても嬉しそうな声を出した。


「恋はお互いが好きになるから起こり得るもの、とは二人とも知っているかもしれないが、それは合っているようで少し違う」

「どこが違うの?」

「好きか好きじゃないかじゃないの?」


 神父は何故か少し焦っているようだった。

 まるでまだ伝えたいことは沢山あるが、時間が足りないので急いでいるかのように。


 その比喩は当たっていた。


 神父にはある世界の末路が見えていた。


 未来は不確定なものなので、その見えていた世界の末路が必ずしもそうなるとは限らない。実際、神父は幾度となく同じような光景を見てきた。


 しかし、現実はこうして世界は滅ぶことなく生き続けている。


「相手のことを考えて身も心も捧げたいと思うのが恋だ」

「神父様!じゃあ愛とは何が違うの?」

「愛は口では説明できない静かで優しいものだ。それは恋を体験してからではないと決して経験することは出来ない」

「愛を知るためには恋をしなくちゃダメなのか」


 2人が彼らなりに納得する。

 神父はよしよしと深く内心喜ぶ。


 そして、神父は大の大人でも答えるのに難しい質問を投げつける。


「キミ達は世界が滅ぶとしたら、どうしたい?」

「え?それってどういうこと?お父さん」

「私達は生きている。しかし相対的に死ぬ運命を背負っているとも言える。そうすると世界だって同じように考えることが出来る。その時にどうするか、というのがこの問いだよ」

「恋をしている時ってこと?」

「それは自由に考えてもらって構わない」


 レンが深く唸って考えて込むと、レイは神父とアイコンタクトを交わす。


 正直なところ色恋云々はどうでもよかった。


 レイによって齎された“おせっかい”の活性化はより鮮明な効果を叩き出した。

 神父の未来予知もその効果のおかげでより精密なものになった。


 だからこそ、世界が滅ぶと確信にも似た感情を抱いていた。


「ねぇ、神父様。死ぬ時って痛いのかな」

「死ぬ時に誰がいるかで変わってくるだろう。親愛なる人が近くにいたなら静かに死ねるかもしれない」


 神父が「死ぬ」なんて言葉を使うことは滅多にないのだが、もう神父がどうのこうのと言ってられる状況ではないほど、レイと神父は追い詰められていた。


「私ね、一緒にいて楽しいって思える人がいるの。でもその人は全然気づいてなくて……。それでも恋って言えるのかな」

「思いを伝えれば大丈夫」

「そうだよ!レンみたいな可愛い子に言われて喜ばない子はいないよ!」


 ごつん!とゲンコツが落とされた。


「痛い!」

「レイ……。もう少し考えなさい」


 叱られたが、何故かは分からなかった。

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