第90話 一行怪談90

 祖父の亡骸に止まった蝶の羽に、祖父の苦悶の表情が徐々に浮かび上がっていく。


 家の庭の池にいる蛙は、赤子の声で「お腹すいた」と鳴く。


 夢の中で出てきた白い蛇が、幼い頃に行方不明になった近所の女の子の顔になって「なんで助けてくれなかったの」と恨めしそうに私を睨む。


 川を泳ぐ魚のうち、ヌシと呼ばれる大きな魚の背びれを握っている子供の手が見えた時は要注意。


 近所の山に住む野良犬に餌をあげる時は、剥いだ自分の爪も与えること。


 実家で飼っている猫は時々、鼠ほどの大きさの人間を咥えて私の前に座る。


 烏の泣き声がやけにうるさいと思って目を覚ますと、ベランダを埋め尽くすようにびっしりと並んだ烏がこちらをじっと見つめている。


 偶然私の手に雀が乗ったかと思うと、「この町から逃げた方がいい」と雀に耳打ちされて驚いたのも束の間、周りにいた人たちが一斉にこちらを向いた。


 食卓に並んだ煮つけの鯉は、どう見ても遺影で見た曾祖母の顔にそっくりだ。


 うちの学校のウサギ小屋には時々薄緑色の兎が紛れているが、そのことに触れてはいけない。

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