第56話 一行怪談56

 一年近く前から近所の踏切に花束が置かれているが、枯れるどころか萎れてすらいない。


「家族も知り合いも道行く人も、あの時手をかけた彼の金切り声でしか喋らないんです」と出頭してきた犯人はうなだれて話す。


 キスでお姫様は目覚めるはずなのに、彼女はいつまで経っても目を覚まさず、代わりに口からウジ虫がはい出てきた。


 お腹が空いた弟はおもむろに口の中へ手を突っ込むと、そのまま腕を飲み込んでいき、今は肩を飲み込もうとしている。


 広場で串刺しになった町で一番の老人を見て、今年もこの季節がやってきたかと家路を急いだ。


 常に何かに対して怒っている義母にうんざりしていたが、ある日を境に穏やかな性格に変わったため義父に事情を聞くと「メンテナンスのおかげ」という答えが返ってきたのだが、正直今の義母の方が好きなので深くは追及しないことにする。


 実家にある日本人形とフランス人形は仲が良いため、夜中によく家を抜け出して街中を散歩しているのだが、二人がいなくなって心配するこちらの身にもなってほしい。


 噂話が独り歩きして、私の先祖はかつて人食いをして人攫いを行っていたと近所の人から私たちは恐れられているが、彼らが本当のことを知ればそれどころじゃないだろうなと考えている。


 一カ月前から私を付け回していた男が、一昨日の夜に顔を青ざめて逃げていったのだが無駄だったのだろうと、男のものらしき腕をぼりぼりと噛み砕いている足元の影を見つめてため息をつく。


 調理中に手を火傷してしまったのだが、日が経つにつれて治るどころか緑色の皮膚が見え始めている。

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