16
嫌な予感というものは存外当たってしまうものだ。僕の場合それが顕著である。第六感が鋭いといえば聞こえはいいが、特にこれといって役に立った覚えはない。
「あと何人飛び降りるのでしょうか」
「多分、今ので最後」
数分。数十分。一時間。廃ビルの屋上から飛び降りる人間はいなくなり、辺りには五人分の死体だけが残っていた。
最初に飛び降りたのは少女。頭から真っ逆さまに地に墜ち即死だった。
次は青年男性。彼はすぐには死なず、明日の天気や今日食べたものなんかの話をした後、沈黙が続いたと思ったら事切れていた。もうしばらく麺類を口にする気にはならない。
三人目も青年男性。彼も即死ではなかった。彼は折れて骨が突き出た足を引きずりもう一度ビルに登り、そして再び飛び降りた。今度は失敗しなかった。
四、五人目。少年と少女。ベンチに座って見上げている僕の姿を確認すると、それぞれが助けを求めるように叫んでいた。しかし僕にはどうすることもできないしする気もなかった。やがて彼らも今までの人間たちがそうであったように、屋上の縁から身を投げた。
「ミトカワさんのカンも当たるものですね」
「カンというか……」
ああ、また見えた。見えてしまった。これでは外れだ。
しかしこのことをササに伝えるのは気が引ける。彼女は自身が悪霊という立場にあるくせに同族を恐れている。なんでも、見えてはいけないものがこの世に存在していると自分で証明していることが嫌なのだとか。
幸いにも彼女はあれの姿を見ることができない。まあ、そのほうがこちらにとっても好都合だ。何なのだろう、あの存在は。手? いや、目? こちらを先ほどから狙い定めている気味の悪い部位はいったい人間でいうところのどの箇所なのだろう。
「あれ、また人が立っていますよ。やっぱり当てになりませんね」
もしかして、口だろうか。あの人でないものは対話を図っているのかもしれない。口はあるが発声できない。だから会話の代わりに人を投げ捨てる。どこの世界にそんなコミュニケーションを行う者がいるのか。少なくとも僕は関わりたくはない。
……どちらにせよ、ここから離れるほうが誰にとっても幸せだろう。割と気に入っていた場所なのだが仕方がない。これ以上ここにいても良い結果は得られそうにない。
「ん、見届けないのですか? いやいや別にニヤけてないですよ。最後ーとかどや顔で言ったのにまた人が飛び降りるってのがどうにもカッコつかないなとか思ってないですって。あ、ミトカワさん? 待ってくださいよ! ミトカワさん!」[了]
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