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 一見するとそれは倒れている少女のように見えた。真っ先に目に入ってきたのが近所の高校の制服であるブレザーとスカートだったからだ。

 しかしそれは――その物体は、人間と呼べるものでは到底なかった。


「制服?」

「マシュマロ?」


 雨上がりの路地裏の一角、廃ビルに挟まれ光すらも存在することを躊躇う陰鬱な場所に似つかわしくない存在。

 おびただしい数のカラフルなマシュマロが、辺り一面に広がっていた。


「……普通、制服よりも先に周りに目が行きませんか?」

「……」

「そっ、それはそれとして。食料です。食べてみたらどうですか。ここ数日、何も口にしていないでしょう?」

「昔からマシュマロを食べると腹を壊すんだ」


 屈んで一個つまみ上げ、マシュマロであることを改めて確認する。バニラの香りをやや強く感じる以外には特にこれといって変わったところのない、一袋を食べきる前に飽きてしまう、どうにも好きにはなれない食べ物に相違ない。ここ閂町では何を血迷ったのか、この菓子で町おこしをしようなどと企んでいた過去がある。町中のいたるところに貼られていた広告がいつの間にかなくなったことから目論見は外れてしまったのだろう。


「ん?」


 散らばっていたマシュマロの側にしゃがみこんでいたササが何かに気がついたのか、僕を手招き呼んでいた。辺り一面に甘ったるいニオイを振りまいている菓子の下から覗いているものが気になるらしく、それを取り除けと言いたいらしい。色とりどりな空間の中で浮いている黒一色のセーラー服とスカートを着用した彼女は悪霊であり、自らと同じ世界にないものには触れない。


 近くに立てかけられていた手頃な鉄のパイプを掴み、マシュマロ群を掻き分ける。柔らかな感触の中に硬い異物が混ざっていた。一つ、二つ、一箇所、二箇所、一体。一人。そう、これは一人だ。二人分はない。


「骨ですね」


 大量のマシュマロの下にはひと一人分の骨が隠されていた。

 いや、恐らくは違う。

 骨の一部にはまだ僅かながら肉片が付着しており、見ていると、徐々にそれらが膨らんでマシュマロへと変貌していた。思わず、足元を払う。まさか、ここにあるものは全て――。


 僕は、逃げるように路地裏を離れるのだった。



「良かったのですか? 元々が人であれば食べられたのでは?」

「君は何か勘違いをしているようだが、別に好き好んで食べたわけじゃない。また食べたいとも思わない」

「それは私が美味しくなかったということでしょうか」


 実際のところ生前の彼女はどちらかといえば痩身であり、また、常日頃からまともな食生活を送っていなかったと聞く限りあまり美味しいものではなかったように思う。他に食べた経験はないので比べられないが。

 それはともかく。

 一口だけでも食べておけば良かったかもしれないと鳴る腹を押さえながら再びの散策に戻ることにした。[了]

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