第3話 Flashback『FRIDAY NIGHT』Story①ー客人を待つー
金曜日 午後十時過ぎ
コード・フェルドマンは自宅兼診療所である
最後に連絡があったのは木曜日の朝だった。
電話相手はいつものように荒い口調で「金曜に行く」と言って一方的に電話を切った。コードは電話相手の横柄な態度に安堵するとともに呆れて溜息をつく––––
そんなことを思い出しながら診察室の壁にかかる時計を見て少し不安になった。
何時に来るのか明確な話はなく、これまで約束に遅れることもよくあったが、彼らが置かれている状況を考えると良くない想像が頭をよぎる。
「考えすぎもよくないな」
コードは気分転換しようとコーヒーを淹れに給湯室へ向かった。
その時だった。
待合室の方から鈍器でガラスを叩くような音が聞こえてきた。それも一度ではなく何度も何度も、今にも割れそうなほど激しい音が院内に鳴り響いた。慌てて待合室に向かうと入口のガラス戸の外側に人影を見つけた。
先程の嫌な予感もあって足取りが重くなる。目の前の人影が悪いものを持ち込む魔物のように思えた。
慎重な足取りで入口のすぐ左手にある受付まで進むと人影の正体が判明した。
「スティーブくん」
「コード先生……」
入口の前に立っていたのはコードが待っていた人物、スティーブン・ウィンターだった。入口の鍵を開けて彼を招き入れようとした瞬間、彼の異変に目が止まった。
汚れた衣服に、額から流れる大量の汗、肩で息をするほど乱れた呼吸。そして背には彼の仲間であるクリストファー・ウィーストがおぶられ、眠っていた。彼女の見える範囲に傷等の異常はなく、ただ単純に眠っているだけのようだった。
「何があったんだ……?」
コードはこの二人が来るのを待っていた。しかしあと二人足りなかった。今日会うはずの客人は合わせて四人。そして彼ら四人が単独行動することは彼らが置かれている状況において滅多なことがない限りありえないことだと知っている。今こうして彼らが散り散りになっているということはその滅多なことが起きたということだろう。
あれこれ推測しつつ、満身創痍のスティーブを室内へ連れて行こうと彼の肩に手を置くとスティーブは反射的にコードの手を掴んで苦悶の表情を向けた。
「やられた……。やられたんです。やつに……」
呟き始めたその声は徐々に大きくなっていく。
「不意をつかれた。予想もしていなかったんだ。だからいつも通り対処できずに……」
スティーブは表情をさらに歪め、震えた声を張り上げた。
「……やられたんです。【同族殺しの魔女】に!」
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