母娘を見て・・・

繋さんが居るであろう目的地に着いた。

ここは神之超も私有地、足を踏み入れてはいけない場所・・・だけど今は、そんな事は言ってられない・・・。

メイドとボディーガード達を引き連れて、足を踏み入れた。

木々が並ぶ小綺麗な道を速足で進んで行くと、一軒の家が見えて来た。

豪邸、と言うよりも、婚約したばかりの若夫婦が暮らしていそうな雰囲気をどことなく感じさせる家。

その感じがまた、私への当てつけに思えて腹立たしい。

家の中へ入ると、メイドに家中を探すよう言った。

・・・数分して、一人のメイドが地下に続いているらしい階段を見つけたと知らせて来た。

その階段を下りながら不審に思っていた。

何であの階段、あんなに見つかりやすくなっていたのだろう・・・。


「・・・もしかして、他に誰か・・・」


階段を下りた、廊下の先へ・・・。

進んで行くと、開きっぱなしのドア・・・そのドアの前に、メイドが何人か立っていた。


「やっぱり、神之超の・・・。」


私の独り言に気づいた神之超のメイド達が、驚いた顔をして私を見ていた。

そんな事も無視して、私は神之超のメイド達の前を素通りして、部屋の中へと入った。


「違う違う違う!!繋は私の!!私のなんだから!!!」


耳障りな声を発している下着姿の金髪に跨られている、私の繋さん・・・。

その前には神之超の社長。

丁度良い、今すぐにでもあの目障りな金髪を繋さんから引きずり下ろしてやりたいけど、その前に、この場でしっかりと言ってもらおう・・・。

・・・・・・繋さん、貴方が私のだって事を・・・。

私と目が合った繋さんに言ってあげた。


「ハッキリ言ってあげないとダメだよ・・・・・・繋さん❤」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この場に居る全員の視線を受ける深弥お嬢様。

ただ一人の視線は、まるで射殺す様な視線だが・・・。


「深弥お嬢様・・・どうしてこんな所に・・・」

「決まってるでしょ?誘拐された繋さんを連れ戻しに来たのよ。」


平然と「誘拐」なんて言葉を言い放つ深弥お嬢様・・・。

それは当たっている・・・だが、そんなに強調して言えば、勿論この少女は噛みつく。


「アンタ、何が誘拐よ!!ふざけないで、先に繋を攫ったのはアンタでしょ!!」

「それこそ言いがかりね。繋さんは自分の意志で私の元に来てくれたのよ・・・ねぇ、繋さん❤」


金眼と銀眼・・・二人の瞳に俺が映る。

銀は本当の事を言えと・・・金は私の元へ来いと・・・・・・そう訴えかけてきている様に思えた・・・。

分かっている、もう覚悟は決めたんだから・・・。

深弥お嬢様に言われたからじゃないが・・・俺の言葉で伝えなきゃいけない・・・。


「・・・お嬢様、すみません・・・俺は、お嬢様の執事には戻れません・・・。」

「っっ!!?」


少女の頬を、涙が伝った・・・。

それでも俺は、話を続ける・・・。


「最初はキツかったり、お嬢様の我儘に振り回されるのにもクタクタでした・・・。けど、いつの間にかそれも慣れてきて、俺は・・・楽しいって思えて来たんです。」

「・・・嫌、止めてよ・・・。」


少女が聞きたくないと、耳を塞ぐ・・・。

それでも・・・。


「けど、ごめんなさい。それでも俺は・・・お嬢様の執事には戻れません・・・。これ以上悲しませるのも、こんな事になるのも、嫌なんです。俺はお嬢様の傍には居られません・・・。」

「止めてって言ってるのが聞こえないの!!?」


俺の胸倉を掴み声を張り上げる少女・・・。

零れ落ちた涙が、俺の胸を伝う・・・。


「繋は私の!!私の何だからっ!!」


怒りながら涙を流す少女を抱きしめてやる事もしない・・・。

それは俺の役目ではないから・・・。


「っっ!!・・・お母様・・・っ!?」

「光璃・・・もう分かったでしょ。」


後ろから優しく少女を抱きしめる奥様。

確かに俺の目には、「親子」の姿が映っていた。


「無逃さんの代わりなんて出来ないけど・・・母親として、これからは一緒に居るから。もうこんな事は止めて・・・光璃。」

「・・・なんでよぉ・・・なんでなの・・・繋は私の、私のなのにぃ・・・あああぁぁぁぁぁ!!!」


声を張って泣きじゃくる少女・・・。

我儘ばかりで無茶ばかり言ってくる少女の・・・年相応な一面を初めて見る事ができた。

あんなに痛い思いも、酷い思いもさせられたのに・・・今はこの涙だけで許してしまう・・・。

・・・俺はやっぱり、お仕えしていたお嬢様には甘いらしい。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


鎖を解いてもらい、自由に体を動かす。

まだ、少女は俺の名前を呟いている。

そんな少女を抱きしめたまま、奥様が話してくる。


「本当にごめんなさい、無逃さん。許される事ではないけれど、どうか・・・」

「俺は平気ですよ。だから、気にしないでください。」

「ありがとうございます!」


お礼を言う奥様。

もうこれ以上、何も言う事はできない・・・。

これ以上、少女を悲しませてはいけない・・・。

奥様に頭を下げて、ドアの方へと歩いて行く。


「無逃さん!」


奥様に呼び止められて、振り向く。


「時間は掛かるかもしれないけれど、私・・・貴方に負けないくらい、娘に好かれるように頑張るわ!!」

「・・・・・・はい。」


大企業の社長でもなく、雇い主でもなく、「母親」としての女性がそこに居た。

俺は笑顔で返すと、向こうも笑顔で返してくれた。

泣き疲れたのか、いつの間にか眠っていた少女を胸に抱きながら・・・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


白いリムジンの車内。

俺の腕に抱き着いいる深弥お嬢様。

どこか嬉しそうな表情を浮かべている。


「あはは❤やっぱり繋さんは私を選んでくれたね❤」

「・・・。」

「まさか泣くなんて思わなかったけど、これでもう、繋さんにちょっかいは出してこないよね❤」


目の敵にしていた少女の心配が無くなったからか・・・。

深弥お嬢様を見る。


「家に帰ったら何をする?私、朝から何も食べてないから食事にする?それともお風呂が先かな❤それとも・・・」


家に帰ってからの事を話す深弥お嬢様・・・。

・・・・・・俺は今から、この笑顔も壊さなければならない・・・。


「・・・深弥お嬢様」

「なぁに、繋さん❤」


深弥お嬢様を見つめ、もう一つ・・・心に決めていた事を言い放った・・・。


「今日限りで、深弥お嬢様の執事を辞めさせてください。」


深弥お嬢様の顔から、笑顔が消えた・・・。

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